金融リスクをヘッジする手段には様々なものがありますが、それでリスクを回避出来るわけではありません。事実、デリバティブは原資産の相場変動リスクを回避する為に開発されたものですが、リーマンショックを見れば、その不完全性は明らかです。 では、何故リスクヘッジに限界が存在するのでしょうか。

金融リスクのヘッジが不完全であるのは、 金融リスクは厳密にはリスクではなく不確実性であるにもかかわらず、リスクとして扱っているから に過ぎません。リスクヘッジ手法を使う時は、どの程度リスクを推計出来るかを考慮する必要性があります。

まず、金融リスクは概ね「信用リスク」「市場リスク」「流動性リスク」「その他」の4つに分類できます。


信用リスク

企業間取引における「掛け売り」にせよ、金融機関の貸出にせよ、通貨・土地・財・サービス等の移動が即時に行われない事は多数あります。そうした資本移動の時間猶予が行われるのは「信用」があるからこそ成立するものです。

しかし、例えば企業が倒産したり、業績が悪貨したりといった事があれば、その移動がきちんと行われないかもしれません。こうした信用が維持されない事によって生じる金融リスクを信用リスクと言います。


市場リスク

市場リスクは、市場価格が変動する事によって生じるリスクの事で、価格変動リスクと言います。財・サービス価格や為替レート等の変動が不利益をもたらす事があり、それは投資においても重要なリスクになります。


流動性リスク

資産を売りたいと思っても売れない事があります。その原因には、買い手がいない場合もありますし、そもそも決済システムに致命的なエラーが起きた時にも売れない事はあります。こうしたリスクを流動性リスクと言います。後者の場合は、システム面での問題が引き起こす金融リスクであるので、システミック・リスクと呼ぶ事もあります。


その他リスク

他にも様々なリスクがありますが、代表的なものには、オペレーショナル・リスク、リーガル・リスク、レピュテーション・リスクがあるでしょう。オペレーショナル・リスクは、内部・外部の不正行為、自然災害、システム障害、データのご入力などから生じる金融リスクです。

リーガル・リスクは、法律の遵守状況が不十分である事が招くリスクや、取引関係の法律に不透明な部分がある事によって生じるリスクです。これらのリスクは、前述の信用リスク・市場リスク・流動性リスクよりも定量的に扱いにくいとされます。


リスクヘッジ手段の発達

こうしたリスクを回避する為の手段は発達し続けています。信用リスクの定量化は銀行などが担ってきましたし、市場リスクのヘッジについてはデリバティブ商品などの開発が進んできました。流動性リスクのヘッジについても、様々なトレーディング技術の発達によるヘッジ手段があります。

オペレーショナル・リスクなどにおいても、保険や災害デリバティブなどがあるでしょう。他にも例を挙げればキリが無いほどです。 しかし、これらのリスクヘッジ手段が不完全なのは冒頭でも述べた通りです。その不完全性を投資に活かすには、 リスクの意味を理解する必要 があります。


そもそもリスクとは何か

フランク・ナイトという20世紀の経済学者がいますが、ナイトが提唱した概念に「リスク」と「不確実性」があります。2つは混同されがちですが、確率を計算出来るかどうかで異なります。 例えば立方体のサイコロなら、形状や投げ方、投げる場所に偏りがなく均一な状態であれば、各目はそれぞれ出現確率が1/6になります。そこまで数学的に均一ではなくとも、平均寿命や生まれる性別が男である確率など、圧倒的多数のサンプルによって計算される確率もあります。このような危険をリスクと呼びます。

一方で、「地震が起きる確率」や「地球が1年以内に爆発する確率」と言った場合どうなるでしょう。

地震の場合も過去の統計を元に推計する事が行われていますが、地震の規模と頻度は正規分布になっておらず、その確率を信頼に値する精度で予測する事はできません。また、後者の話ともなれば、そうした危機が存在するのかさえ分かりません。

こうした危険を不確実性と呼びます。 リスクについては、その母集団が比較的明確であり、その発生確率を計算する事が可能です。しかし、不確実性となると、発生確率を計算する上で式の分母が不明確であるなどの問題があります。


金融リスクは「リスク」なのか「不確実性」なのか

金融リスクを見た場合、不確実性であるものも多いです。地震デリバティブや災害デリバティブに見られるような「災害発生確率」は勿論ですが、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)に見られるような「デフォルト確率」は、一見すると統計学的に求められそうですが、それほど正確なものではありません。

デフォルト確率の計算に使われる各種仮定は一般的なリスクや状況のみが使われており、あらゆる危機を想定して計算する事は不可能です。荒唐無稽な話に聞こえますが、「明日宇宙人が攻めて来て経済危機が発生して倒産する可能性」は考慮されないわけであり、無数のテールリスクが存在する限り、完全な精度でリスクを計算する事は出来ません。

厳密に言えば、リスクと不確実性は相対的なものであり、リスクと呼ばれるものでも、その計算された確率が今後も成立するとは限らず、あくまでも程度の問題です。


どの程度までリスクを算出できるか

結局、金融リスクヘッジを見る場合、「男が生まれる確率」とか「平均寿命」といった精度が極めて高いリスクから「大地震が起きる確率」といった不確実性まで、どのような範囲を想定しているかを考慮する事が重要です。

例えば、「デフォルト確率」となると、その中には本来「大災害発生確率」などが考慮された方が良いですが、計算の便宜上、計算に入っていない事も多いですし、入れた所で大きく精度が上がるわけでもありません。

要するに、より広い範囲を含んだ事象を計算しようとすればするほど、除外される事象が増え、その確率の計算誤差が大きくなるわけです。金融リスクヘッジを取る際は、どのようなリスクが計算出来ていて、どのようなリスク・不確実性が除外されているかを見なければならないでしょう。

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