米飲料大手コカ・コーラは7月26日、糖分を一切含まない炭酸飲料、その名も「コカ・コーラ ゼロシュガー(Coca-Cola Zero Sugar)」を米国で8月から発売すると発表した。

この新製品は、製造打ち切りが決まっている現行のダイエット炭酸飲料「コカ・コーラ ゼロ(Coke Zero)」から名称が変更され、パッケージも新しくなっている。だが、原材料の成分表を見ると、両者は使用されている無糖低カロリー甘味料のアスパルテームやアセスルファムカリウム(アセスルファムK)に至るまで、中身がまったく同じである。

では、「ゼロ」をやめて「ゼロシュガー」にする理由は何なのか。そこには、米国を含む全世界に広まる健康志向と、それに取り残されまいと変革を断行するコカ・コーラの企業戦略が隠れている。

もはやクールさを失った炭酸飲料

コカ・コーラ,ゼロシュガー
(写真= Luciano Mortula - LGM/Shutterstock.com)

砂糖をたっぷり含む炭酸飲料は以前、クールな若者が飲むあこがれの象徴であった。引き締まった爽やかなノド越し、キラキラ輝く炭酸の泡、そして甘くフルーティーな香りと味わい。そうした「カッコイイ」イメージは、20世紀を通して維持され、1980年代あたりから砂糖を抑えたダイエット飲料が売上を爆発的に伸ばしても、全体的な売上は落ちなかった。

ところが、各種の医学的研究で、「砂糖を大量に含む炭酸飲料は、生活習慣病や肥満の大きな原因のひとつである」ことが繰り返し実証され、クールな商品イメージが剥落しただけでなく、高騰する医療費の元凶に数えられるまでになった。全米で多くの自治体が医療費削減を狙った炭酸飲料税(砂糖税)を課すようになっている。

当然のように炭酸飲料は敬遠されるようになった。米国のスーパーなどで砂糖入りの炭酸飲料をまとめて買っていくのは、若い時から水代わりに消費してきた中高年者であり、彼らの間にあっても、売れ筋も無糖炭酸飲料に移ってきている。

米国の炭酸飲料消費量は1990年代、ほぼ一貫して毎年3%ほど伸びていたが、1999年を境に減速し、2005年からは減少が続き、しかも減少幅が毎年拡大しているのだ。コカ・コーラの4月~6月期には、炭酸飲料売上は横ばいだった。

「投資の神様」ことウォーレン・バフェット氏は、砂糖をたっぷり含んだ「チェリー・コーク(Cherry Coke)」が大好物で、コカ・コーラの安定成長を信じる同社の筆頭株主だが、自分の好む製品を作る企業であるため、世代的な変化を見逃している可能性がある。

砂糖抜き、ゼロカロリーを強調

こうした肥満嫌悪や健康志向を受け、1982年に発売された「ダイエット・コーク(Diet Coke)」を徐々に発展解消する形でコカ・コーラが2005年に世に問うたのが、黒パッケージの「コカ・コーラ ゼロ」だ。

この流れを受け継ぐ「コカ・コーラ ゼロシュガー」は、「コカ・コーラ ゼロ」と原料が同じであるにもかかわらず、名称で無糖を強調している。つまり、変遷する人々の健康意識に合わせて、外面だけを変えたのである。新製品は欧州・中南米・中東・アフリカの25の市場ですでに発売され、15%前後と2桁の売上成長を見せる期待の秘蔵っ子だ。

飲料業界誌『ベバレッジ・ダイジェスト』のデュエイン・スタンフォード編集長によると、味は「コカ・コーラ ゼロ」とほとんど変わっていないが、パッケージにコカ・コーラのシンボルカラーである赤を復活させ、容器の上部に「コカ・コーラ ゼロ」を想起させる黒を配したものとなっている。

1985年4月に従来のコカ・コーラを置き換える形で発売された「ニュー・コーク(New Coke)」が消費者の総スカンを喰らい、大損失と撤退を余儀なくされた苦い経験から、「コカ・コーラ ゼロシュガー」は、慎重に5年のテストを経てリリースされる。米国においては8月から大々的な宣伝キャンペーンに加え、全国での無料試供品提供や内容の説明ツアーが行われる。

とはいえ、一般の消費者は「コカ・コーラ ゼロ」と「コカ・コーラ ゼロシュガー」の違いが何であるか、よくわかっていない。原料も味も同じでパッケージだけが変わった「朝三暮四」だから、当然だ。結局のところ、「不健康な砂糖を含まないこと」「カロリーはゼロ」を強調しなければ売上がさらに落ちるという、コカ・コーラ側の企業の都合でしかない。

待ったなしの企業変革の一環

だが、「コカ・コーラ ゼロシュガー」は、コカ・コーラが自らを変革しようとする大きな流れのなかで構想されたものであり、ただの付焼き刃的な対応ではない。

従来の安定した売上の伸びの上に胡坐をかいていたコカ・コーラは、人々の嗜好の変化に自らを合わせる動きを見せ始めている。前出の『ベバレッジ・ダイジェスト』のスタンフォード編集長は、「同社は無糖とゼロカロリーを求める消費者の声に応えようとしている」と指摘する。

米国のコーヒーや紅茶の売上が伸びているため、米コカ・コーラは「ジョージア」など缶コーヒー飲料の売上が絶好調の日本コカ・コーラに幹部を研修のために送り、米国の消費者の口に合う缶コーヒーを開発しようとさえしている。そこには、大きな危機感と、全社で共有される改革の意思が見える。

こうしたコカ・コーラの努力を、企業アナリストたちは高く評価している。米ウェルズファーゴ銀行のボニー・ハーゾグ氏は「コカ・コーラ ゼロシュガーの発売で、炭酸飲料税の回避とダイエット飲料低迷テコ入れという一石二鳥が期待できる」と分析する。

一方、JPモルガンのアンドレア・テイシエラ氏は、「同じ原材料であっても、味が少々変化するため、一部の消費者が離れる可能性がある」と指摘。「だが、コカ・コーラ経営陣はそうしたリスクを認識しながらも、無糖の魅力が新しい顧客獲得につながる期待に賭けた」として、コカ・コーラの決断を評価している。

「コカ・コーラ ゼロシュガー」はコカ・コーラの本拠地である米国で、外国市場で見せたような成功を収めることができるか。投資家たちは、「できる」と踏んでおり、同社の株価は45ドル近辺と、上昇傾向にある。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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