2017年4月、再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議の第一回会合が開かれ、席上、安倍首相は「水素社会実現のため、年内に基本戦略を作成するよう」指示した。水素をエネルギーとして利用する、究極のクリーンエネルギー社会を、経済産業省は「水素社会」と位置づけているが、首相の指示で、「水素社会」は“お墨付き”を得た形だ。しかし、水素社会実現には課題も多い。コストやインフラ整備と並んで、大量の水素をどのように確保するかという点である。水素社会実現に向けた課題とその見通しを探ってみた。

なお高額の「エネファーム」、燃料電池自動車

水素,水素発電
(写真=petrmalinak/Shutterstock.com)

水素社会の到来については、家庭用燃料電池給湯器「エネファーム」や燃料電池自動車などの形で、部分的には具体化しつつある。しかし、コスト面や普及台数などで、水素社会というには、程遠いのが現状だ。経産省が今年4月にまとめた「水素社会の実現に向けた取組について」と題する資料によると、家庭用を中心とした定置用燃料電池は2016年度で約19万台の普及である。燃料電池自動車に至っては約1000台というレベルである。また、販売価格についても、定置用燃料電池は2016年度で110万〜135万円。2010年度で300万円以上していたのに比べると、大幅に低下したものの、一般消費者が家庭用として簡単に購入できる水準ではない。

燃料電池自動車の場合は、現在、市販しているトヨタ、ホンダの場合、価格はいずれも700万円台となっている。優遇税制の適用を受けてもなお500万円以上となる。加えて燃料電池自動車の場合、ガソリンスタンドのような水素供給ステーションが全国で100カ所余りしかなく、なお未整備の状態である。

水素ステーションを2020年までに160カ所

経産省が2016年3月にまとめた「水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂版」によると、家庭用燃料電池については、2019~2021年に80万~100万円に、燃料電池自動車については2020年までに4万台、水素ステーションに関しては、2020年までに全国160カ所程度に増やすことにしている。価格、台数、ステーションカ所とも、道なお遠し、の感である。

家庭用燃料電池、燃料電池自動車の普及や、水素ステーション設置の現状は、まさに水素社会の“揺籃期”の位置づけといえる。揺籃期を脱して、本格的な水素社会実現のためには、一層の価格低下と普及拡大を図ることはもちろん、最大の課題は、コストの安い水素をいかに大量に供給できるかという点である。水素は燃焼の際、排出するのは、水のみであり、究極のクリーンエネルギーと呼ばれる理由であるが、水素を製造する際は天然ガスや石炭などの化石燃料から作られる。その際、どうしてもCO2の排出が避けられない。

現在、国内での水素の利用は、製鉄・化学工場などから生ずる副生水素や、都市ガス(
天然ガス)を改質してつくる水素が主なものである。しかし、これらの水素は、量的に制約があり、大量の水素を供給するには課題が多い。経産省のロードマップによると、本格的な水素社会の実現には、水素の大量供給制と、大規模水素発電が不可欠としている。大規模水素発電は、現在の火力、原子力に代わる発電方式で、水素発電によって、電気そのものが100%クリーンエネルギーとなる。現在、電気自動車などはクリーンエネルギー車とされているが、利用する電気は、大部分、化石燃料発電である。

水素による大規模電源のための水素の大量供給として動き出したのが、国際間の水素サプライチェーン構築の動きである。これは、海外における天然ガス、原油随伴ガス等の豊富な資源国で水素を製造し、それを液体水素や水素化合物に変換して日本に輸送し、再び気体の水素に戻して利用する供給体制である。

4社による世界初の実証事業

千代田加工建設、三菱商事、三井物産、日本郵船の4社は、「次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合」を設立し、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助事業として、世界で初めて水素サプライチェーンの実証事業に着手することになった。同事業は、千代田化工建設の水素技術を用いて、ブルネイと川崎市臨海部に水素化プラントと脱水素プラント(水素を取り出す装置)を2019年までに建設、2020年にはブルネイから日本に液体水素の形で海上輸送する。実証規模は年間最大210トン。これは、燃料電池自動車約4万台の充填規模に相当する。

経産省は、水素発電が本格化するのは2030年ころとみているが、その時点での発電コストはkWh当たり17円と想定している(2015年3月の水素発電に関する検討会報告書)。これは、石油火力の30円より安いものの、LNG(液化天然ガス)・石炭の12~13円より高い。

水素発電の実用化と、本格的な水素社会の実現には、コストの点などで、なお克服すべき課題は多い。(ZUU online編集部)