雇用環境を示す最も代表的なデータに失業率があり、日本の失業率は総務省「労働力調査」の中で公表される。そもそも失業率とは、労働力人口に占める失業者の割合と定義され、労働市場における需要と供給のバランスで決まってくる。

需要要因では、例えば景気が良くなって企業の生産活動が活発になれば、人材への需要が増加して失業率が下がる。一方、供給要因には労働参加率があり、これは人口構成や労働意欲によって変動する。例えば、高齢化や景況感の悪化などによって人材が労働市場から退出すれば、労働参加率の低下を通じて失業率が低下する場合がある。

労働参加率の上昇が労働力人口を押し上げ続けている

雇用環境,失業率
(写真=PIXTA)

我が国の失業率の推移を振り返ってみよう。1991年度平均の2.1%を底に上昇基調となった完全失業率は、2002年度には平均5.4%まで上昇したが、その後は2007年度に3.8%まで低下した。そして2009年度に平均5.2%まで上昇した後に低下しており、2016年度は3.0%と1994年度以来の低水準にある。

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また、失業率の低下は労働供給の減少を必ずしも意味しない。実際に2016年度の失業者数の減少を要因別にみると、就業者数は73万人増加しているが、労働力人口も57万人増えているため、結果として完全失業者数が16万人の減少にとどまっている。つまり、人口が減少していても、労働参加率の上昇により労働供給は増えているのである。

アベノミクスが始動する2013年度以降、円高・株安の是正などにより企業の労働需要が拡大した一方で、労働参加率の上昇が労働力人口を押し上げ続けている。高齢者の雇用延長に加え、世帯収入を増やすべく就業を求めて労働力化した女性が増えたからである。

失業率が下がっても賃金が上がりにくい理由

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2016年度の失業率は低下したが、非自発的な離職者が依然として55万人以上いることからすれば、非自発的失業が存在しない完全雇用とは言えない。非自発的な離職者が多数存在しているということは、まだ労働供給の余地があることを示している。これが、失業率が下がっても賃金が上がりにくい理由の一つである。

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また、失業者とは「就業を希望して実際に求職活動をしている人」である。つまり、就業を希望していても、何がしかの理由から就業活動をしていない人は含まれない。実際、就業環境が厳しくなると、求職活動をあきらめてしまう人は増える。つまり、実際の労働需給の状況を見るには、非労働力人口に含まれる就業希望者の動向にも注意が必要だ。

雇用環境の深刻さ 労働需給は明確なひっ迫を示していない

総務省「労働力調査」の詳細結果を確認すれば、2017年4-6月期時点で200万人の完全失業者の約2倍となる372万人の就業希望者(就業を希望しているが、求職活動をしていない人)が存在することがわかる。非求職の理由別にみても、「適当な仕事がありそうにない」が102万人、「出産・育児・介護・看護のため」が105万人存在し、依然として潜在的な労働供給の余地があることがわかる。

潜在的な労働供給の余地は、現職の雇用形態別にみても指摘できる。2017年4-6月期時点の非正規雇用者数は2018万人となり、全雇用者数の37.1%を占める。そして中でも、正規の仕事がないという理由で非正規になっている雇用者(以下、不本意非正規)は、今年4-6月時点で完全失業者を大きく上回る285万人存在する。

特に、我が国で非正規の雇用者比率が上がりやすい背景には、正社員を解雇しにくい日本特有の雇用慣行がある。例えばリーマンショック後のように急激に業績が悪化する局面では、企業は最大のコストである人件費の削減を余儀なくされる。ところが人件費の大部分を占める正社員の雇用は調整しにくく、非正規社員または新卒採用を減らすかしか現実には方法が無い。こうした日本特有の雇用慣行により、不本意非正規の雇用者にしわ寄せが来やすい。

こうした雇用環境の深刻さは、広義の失業率を計測することでわかる。求職意欲喪失者を含めた広義の失業率は2017年4-6月期時点で4.4%となり、同時期の完全失業率3.0%を1.4ポイントも上回っている(資料4)。また広義の失業率に出産・育児、介護・看護のため求職活動を行っていない周辺労働力も含めると、その水準は5.9%にも上る。

さらに、不本意非正規まで含めた広義の失業率に至っては、2017年4-6月時点で10.0%と前期から0.1%ポイント上昇している。つまり、不本意非正規も含めた広義の失業率で見れば、労働需給は明確なひっ迫を示していない。こうした状況は、潜在的な労働供給の余地が大きい中で賃金が上がりにくい経済構造にあることを意味しているといえよう。

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永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。

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