国立教員養成大のあり方を審議していた文部科学省の有識者会議は、各校に統合や定員の削減、他校との機能集約などの検討を求める方向で一致した。少子化により今後、必要とされる教員数が減るのを踏まえた措置で、国立教員養成大に規模縮小を求めるのは、2001年に出た「教員養成系大学・学部のあり方に関する懇談会」の報告書以来となる。
有識者会議は8月末までに報告書をまとめ、各校に対して2021年度末までに一定の結論を出すよう求める方針だ。しかし、教員養成大の縮小、統合には地元自治体の反発が予想される。
都道府県境をまたいだ統合や教員養成機能の集約を提案
有識者会議は主査を務める国立高等専門学校機構の加治佐哲也監事、副主査を務める松木健一福井大教授ら15人の学識経験者で構成される。2016年9月の初会合から1カ月にほぼ1回の会議を重ね、報告書案をまとめた。
対象となるのは、教員免許の取得が卒業要件となっている北海道教育大、東京学芸大、大阪教育大など国立の単科大11校と、福井大、広島大、香川大など教育学部を持つ国立総合大33校の計44校。入学定員は合計約1万1000人で、卒業生の6割ほどが教員に就職している。
報告書案では、少子化による児童、生徒の減少が続く中、国立教員養成大の機能や役割、規模を見直す時期に来たとしている。規模縮小の具体策としては、入学定員の見直しに加え、都道府県境をまたいだ大学同士の統合、教員養成機能の集約、共同教育課程の設置を掲げた。
各校には地元自治体と協議し、地域別の教員需要見通しをまとめたうえで、2021年度末までに結論を出すよう求めている。国に対しては各校の取り組みに合わせ、財政支援の検討を要請している。文科省教員養成企画室は「8月中に報告書がまとまれば、それに基づき対処したい」と述べた。
全国の教員需要、10年後に半減する見通し
文科省が国立教員養成大に規模縮小を求めるのは、少子化で教員需要の先細りが予想されるからだ。内閣府の高齢社会白書によると、2016年に1578万人いた0〜14歳人口は、2020年に1507万人、2025年に1407万人、2030年に1321万人まで減ると予測されている。
国や地方自治体は出生率アップに力を入れているが、今後出産適齢の女性人口が著しく減少することから、期待通りの成果を得るのは難しいとみられている。児童生徒数が減少すれば当然、教員需要に影響する。
文科省によると、公立小学校、中学校の教員採用数は2016年度で2万3000人。このところ、横ばい状態が続いていたが、2022年度には6%ほど少なくなる見通し。有識者会議には10年後、公立小中学校の教員需要が1万2000人に半減するとの予測も提出されている。
国立教員養成大の入学定員は定年退職の教員が増えたこともあり、10年前に比べてわずかに増えている。これを教員需要の縮小に合わせ、適正な数にしようというのが有識者会議の狙いだ。小学校の一種免許を取得できる私立大はこの10年で3倍以上に増えており、国立教員養成大の卒業生が減っても、教員需要をまかなえそうなことも背景にある。
自治体や大学の反発を和らげる努力も必要
だが、統合や機能集約となると、自治体や大学の反発を招くことが十分に予想できる。2001年に懇談会の報告書が出たあと、全国で統合や機能集約を模索する動きが起きたが、実現したのは2004年の島根大と鳥取大の学部統合だけだった。
関東では横浜国立大、千葉大、山梨大などの教職課程を東京学芸大に集中させる議論が起きた。関西では大阪教育大、兵庫教育大、京都教育大、奈良教育大の間で協議が進められた。四国では鳴門教育大に四国4県の教育学部を集中させる構想が浮上した。東北は福島大、宮城教育大、山形大が懇談会を設け、再編を議論した。
しかし、教員養成の空白地が生まれることに反発する自治体間の調整が進まず、島根大と鳥取大以外の話は進展しなかった。大手予備校が教育大再編私案を発表するなど、教育業界は大騒ぎになったが、自治体、大学間の対立を深めただけに終わった地域もあった。
少子化の厳しい現実を考えると、教員養成大の規模縮小に着手せざるを得ない。それなのに、地方が教員養成大を手放そうとしないのは、教員が地元雇用の受け皿になっているからだ。地域をよく知る教育人材の存在が地方創生に欠かせないとして、地元出身の教員減少を危惧する声もある。
規模縮小はあくまで、大学が主体的に判断すべきとの考え方も根強い。多くの教員養成大は「報告書が出てから対応を考えたい」(鳴門教育大)などとコメントを避けたが、西日本の別の大学は「統合ありきの議論を上から持ち出すのは残念」と不満をにじませた。
規模縮小を大学任せにしていると、今回もなかなか議論が進まないだろう。かといって、文科省が口出しをしすぎると、自治体や大学の反発が高まるばかりだ。文科省は教員養成大として意欲的な取り組みを後押しするなど、自治体や大学の懸念を緩和する努力を忘れてはならない。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。