2017年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比3.7%増(*1)と、前期の同3.3%増から上昇したほか、Bloomberg調査の市場予想(同3.2%増)を上回る結果となった。

需要項目別に見ると、輸出の好調と政府消費の拡大が成長率上昇に繋がった(図表1)。

民間消費は前年同期比3.0%増と、前期の同3.2%増から若干低下したものの、低インフレ環境や主要農産品の生産拡大による農業所得の増加、輸出・観光関連セクターの所得増が消費を下支えした。財別に見ると、耐久財とサービスが拡大する一方、半耐久財と非耐久財が鈍化した。

政府消費は同2.7%増(前期:同0.3%増)となり、医療保険制度の支出が増加して現物社会給付を中心に上昇した。

投資は同0.4%増と、前期の同1.7%増から低下した。投資の内訳を見ると、民間投資が同3.2%増(前期:同1.1%減)と、首都圏のコンドミニアム、食品加工および通信機器といった一般産業機械、オフィス機器などの需要が拡大して民間設備投資(同3.2%増)と民間建設投資(同3.1%増)が揃って上昇したものの、公共投資が同7.0%減(前期:同9.7%増)と、直近2四半期で予算執行率を早めたことの反動や補正予算の執行の遅れによって公共建設投資(同12.8%減)を中心に落ち込んだ。

輸出は同6.0%増(前期:同2.7%増)と上昇した。うち財貨輸出は同5.2%増(前期:同2.6%増)と上昇した。アフリカや中国、イラン向けのコメの輸出、海外需要の回復やビッグデータ関連需要を背景とするハードディスクドライブや通信機器など電気電子製品の輸出が拡大した。またサービス輸出も同8.8%増(前期:同3.2%増)と、訪タイ外国人観光客数の増加を受けて上昇した。一方で輸入は同8.2%増(前期:同6.2%増)と上昇した。うち財貨輸入(同9.1%増)が食品加工用の食材、電子部品などの中間財、設備機械や航空機などの資本財がそれぞれ上昇したほか、サービス輸入(同4.0%増)も上昇した。

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供給項目別に見ると、農業の力強い成長とサービス産業の堅調な伸びが成長率の上昇に繋がったことが分かる(図表2)。

農林水産業は前年同期比15.8%増(前期:同5.7%増)と、大幅に上昇した。農業・林業(17.0%増)はエルニーニョ現象を背景に干ばつで生産が落ち込んだ前年に対し、今年は天候が改善してコメや果物、サトウキビ、パーム油、キャッサバなど主要な農産品を中心に増加した。また漁業(同2.4%増)も海外需要が拡大しているエビを中心に上昇した。

非農業部門では、まず製造業が同1.0%増(前期:同1.3%増)と低迷した。製造業の内訳を見ると、資本・技術関連産業(同2.0%増)は海外需要の回復を背景にハードディスク、電子製品が拡大したものの、自動車の輸出が落ち込んで鈍化した。また食料・飲料やアパレル、織物などの軽工業(同0.1%増)とゴム・プラスチック製品や化学製品などの素材関連(同1.0%増)は引き続き伸び悩んだ。また建設業は同6.2%減(前期:同2.8%増)と、公共部門が落ち込んで11期ぶりのマイナスとなった。

全体の6割弱を占めるサービス業では、外国人旅行者数の回復を受けてホテル・レストラン業が同7.5%増(前期:同5.3%増)、運輸・通信業が同8.6%増(前期:同5.4%増)、卸売・小売業が同6.0%増(前期:同5.9%増)とそれぞれ上昇した。また金融業が同5.1%増(前期:同4.6%増)、不動産業が同4.1%増(前期:同4.0%増)と上昇するなど、主要サービス業は総じて良好な結果となった。

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(*1)8月21日、タイの国家経済社会開発委員会事務局(NESDB)は2017年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。なお、前期比(季節調整値)の実質GDP成長率は1.3%増と前期の同1.3%増から低下した。
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4-6月期GDPの評価と先行きのポイント

4-6月期の景気回復は海外経済の回復を背景に財・サービス輸出が好調だったことの影響が大きい。まず観光業はタイ政府による中国人向け格安ツアー(ゼロドルツアー)を取り締まったことから昨年末に中国人観光客数が落ち込んだが、その後は改善傾向が続いている。4月のソンクラーン(タイ正月)はプミポン前国王の死去を受けて祭りの規模を縮小したものの、4-6月期の外国人観光客数は前年同期比7.6%増(前期:同1.7%増)と上昇して観光関連産業が好調だった(図表3)。また財貨輸出は中東向けの自動車が低迷しているものの、その他の品目は世界的なIT製品需要の拡大を受けて東アジア、東南アジア向けを中心に電気電子製品が好調に推移しており、民間投資も輸出型産業を中心に改善の動きが見られる。さらに、4-6月期は農業生産が一段と拡大し、農業所得が増加したほか、食品価格の低下によって低インフレ環境が続いたことも民間消費を下支えした(図表4)。

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今後についても堅調な経済状況が続きそうだ。政府は今年の成長率見通しを前回予測時点の3.3~3.8%から3.5~4.0%に上昇修正した。政府は輸出の拡大、年後半の公共投資と民間投資の加速、ホテル・レストランや製造業、建設業などの主要セクターの回復、農業や輸出関連・観光関連セクターの回復を通じた家計所得の拡大が民間消費を下支えすることを好材料として挙げている。

先行きの経済を占うポイントは、農業や観光業、輸出型製造業など現在の景気を牽引するセクターがどこまで好調を維持できるかだ。年後半の農業セクターは東北部の大雨による洪水被害で生産が鈍化する可能性が高く、食品インフレや農産物輸出への悪影響も見込まれる。また世界的なIT需要が年末頃からピークアウトして輸出の拡大ペースは落ち着いたものになる展開も予想される。観光業は好調を維持するだろうが、ゼロドルツアーの摘発による落ち込みはほぼ解消されており、一段の上昇は見込みにくくなっている。しかし、政府は低所得者対策を打ち出しており、消費の下支えを図る公算だ。また公共投資は4-6月期に落ち込んだものの、今後は補正予算など遅れていた予算の執行も見込まれる。内需の拡大で現在の良好な経済状況を維持できるかどうか、タイ経済の底力が試される展開となりそうだ。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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