要旨
- 中国国家統計局が公表した2017年上期(1-6月期)の国内総生産(GDP)は実質で前年比6.9%増と16年通期の同6.7%増を0.2ポイント上回った。2011年以降6年連続で前年の伸びを下回ってきたが、このまま勢いを保てれば7年ぶりに前年の伸びを上回る可能性がでてきた。一方、消費者物価は前年比1.4%上昇と16年通期の同2.0%上昇を0.6ポイント下回った。
- 需要面の動きを見ると、個人消費は、企業利益の底打ちや雇用情勢の安定などを背景に堅調なものの、18年には小型車減税が撤廃されるため、消費の寄与度はやや低下すると見込んでいる。投資は、(1)過剰設備の整理と過剰債務のデレバレッジ、(2)景気対策縮小に伴うインフラ投資の鈍化、(3)バブル退治に伴う住宅着工の鈍化などマイナス材料が多いため減速すると見られる。しかし、(1)企業利益が底打ちしたのに加えて、(2)「中国製造2025」や「インターネット+」に対する手厚い政策支援を背景に新興産業関連投資が盛り上がりつつあることなどから、投資が失速する可能性は低い。輸出は、世界経済の持続的回復などがプラス要因となるものの、製造拠点を後発新興国へ移転する動きが盛んなため、1桁台前半の伸びに留まると予想している。
- 一方、中国政府(含む中国人民銀行)は16年秋以降、住宅バブル が深刻化する中で、金融政策を引き締め方向へと調整している。17年上期の成長率が目標(6.5%前後)を大幅に上回ったことを勘案すると、金融政策は「穏健・中立」の方針を維持しつつも、今後もさらに引き締め方向へと調整していく可能性が高いと思われる。
- 経済見通しとしては、17年の実質成長率は前年比6.8%増、18年は同6.5%増、また消費者物価は17年が前年比1.5%上昇、18年は同2.5%上昇と予想している。なお、中国経済の最大のリスクは“住宅バブル”にあると考えている。
中国経済の概況
中国国家統計局が公表した2017年上期(1-6月期)の国内総生産(GDP)は実質で前年比6.9%増と16年通期の同6.7%増を0.2ポイント上回った。2011年以降6年連続で前年の伸びを下回ってきたが、このまま勢いを保てれば7年ぶりに前年の伸びを上回る可能性がでてきた。一方、消費者物価は前年比1.4%上昇と16年通期の同2.0%上昇を0.6ポイント下回った。食品価格下落を背景に低い上昇率に留まっている(図表-1)。
また、経済の構造的変化も静かに進んでいる。
産業別に見ると、第1次産業の実質成長率は前年比3.5%増と16年通期の同3.3%増を0.2ポイント上回った。しかし、数年前まで4%前後だった成長率はここ2年半3%台へ低下しており、トレンドとしては緩やかな減速傾向にある。第2次産業の実質成長率は同6.4%増と16年通期の同6.1%増を0.3ポイント上回った。2010年の同12.7%増をピークに6年連続で前年の伸びを下回るなど経済成長のスピードが鈍化した主因だったが、17年上期には若干持ち直した。また、第3次産業の実質成長率は同7.7%増と16年通期の同7.8%増を0.1ポイント下回った。第3次産業もやや減速気味ではあるものの、第2次産業の実質成長率を4年半に渡って上回るなど、中国経済を支える新たな牽引役に育ちつつある(図表-2)。
一方、需要別に見ると、純輸出は0.3ポイントのプラス寄与と16年通期の▲0.5ポイントからプラスに転じた。リーマンショック後には3年連続の大幅マイナス寄与となったが、その後は小幅なプラス寄与とマイナス寄与を繰り返している。総資本形成(投資)は2.3ポイントのプラス寄与と16年通期の2.8ポイントを下回った。リーマンショック後の景気対策で2009年に8.1ポイントのプラス寄与となったのをピークに低下傾向にある。最終消費は4.4ポイントのプラス寄与と16年通期の4.3ポイントをやや上回った。最終消費は安定的なプラス寄与を続けている(図表-3)。
需要面の動き
◆消費
足元の消費は堅調に推移している。消費の代表指標である小売売上高の動きを見ると、17年1-7月期は前年比10.4%増と、16年通期の同10.4%増と同じ伸び率を維持した(図表-4)。
品目別に見ると、自動車は前年比5.6%増と16年通期の同10.1%増を大きく下回った。これは小型車(排気量1.6L以下)を購入する際に掛かる自動車取得税が引き上げられた(5%⇒7.5%)影響が大きい。他方、住宅販売の好調を背景として家具類は同13.2%増、家電類も同10.8%増と2桁の高い伸びを示しており、飲食や化粧品の販売も16年通期の伸びを上回って推移している。
17年下期以降の消費は、堅調な伸びが続くと予想している。企業利益の底打ちや雇用情勢の安定を背景に、17年1-6月期の全国住民一人あたり可処分所得(実質)は前年比7.3%増と実質GDP成長率を0.4ポイント上回る高い伸びを示しており、消費者信頼感指数は高位で推移している(図表-5)。また、中間所得層の増加を背景に、食品や衣類など生活必需品から教育文化娯楽などサービスへと消費需要のシフトが起きている(図表-6)。
但し、18年の消費は17年よりもやや減速する可能性が高いと予想している。17年末には小型車減税が終了する見込みで、現在7.5%の自動車取得税は10%に戻ることになりそうだ。この増税効果に伴って、17年末に掛けては駆け込み需要が発生してプラス要因となる一方、18年に入ると反動減で自動車需要が落ちてマイナス要因となると見ている。また、住宅関連規制が16年秋以降強化されたのを背景に、17年下期以降は住宅販売の伸びが鈍化してくる可能性がある。そして、これまで好調だった家具や家電の消費にも、17年下期から18年にかけては陰りがでてくる可能性が高いと予想している。
◆投資
足元の投資は持ち直してきた。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、17年1-7月期は前年比8.3%増と、16年通期の同8.1%増を0.2ポイント上回った(図表-7)。業種別に見ると、製造業が前年比4.8%増と0.6ポイント上昇、不動産開発投資も同7.9%増と1.0ポイント上昇、インフラ投資も同20.9%増と3.5ポイント上昇した(図表-8)。
17年下期以降の投資はやや減速すると予想している。マイナス材料としては、(1)住宅規制強化に伴って住宅着工の減速が予想されること、(2)インフラ投資の先行指標となるプロジェクト計画投資(新規着工)の伸びが鈍化していること、(3)過剰生産能力を抱える製造業を中心に過剰債務のデレバレッジ(債務圧縮)が進むと見込まれることが挙げられる。一方、(1)企業利益が底打ちしたこと、(2)「中国製造2025」や「インターネット+」に対する手厚い政策支援を背景に新興産業関連投資が盛り上がってきたことなどプラス材料もあるため(図表-9)、小幅な減速に留まるだろう。
なお、中国では、大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連や、中国共産党・政府が2014年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)(*1)」に伴う交通物流関連の需要が大きいため、新興産業関連投資が鈍化した場合には、16.4兆元(約270兆円)とされる官民連携(PPP)事業の着工を急いで、景気テコ入れを図るだろう。従って、17年秋の党大会後の投資は、やや減速する可能性が高いものの、失速することはないと見ている。
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(*1)新型都市化が生み出す投資需要は巨大で2020年までの累計で42兆元に達すると試算されている(中国財政部)。スケジュールとしては2017年までが試行地域における先行実施期間となり、その成果を踏まえて2018-20年には全国展開される予定。なおこれに関連して、2016年5月11日には投資総額4.7兆元に及ぶ交通インフラ整備3ヵ年計画(2016-18年)が発表された。
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◆輸出
足元の輸出は回復している。17年1-7月期の輸出額(ドルベース)は前年比8.3%増と、16年の同7.7%減からプラスに転じた(図表-10)。景気回復が続いている米国、欧州EU、日本など先進国向けの輸出が好調だったほか、その恩恵を受けるASEAN向けも好調だった。また、輸出の先行指標となる新規輸出受注(中国国家統計局)や貿易輸出先行指数(中国税関総署)が好調なことから、当面は高い伸びを維持すると見られる(図表-11)。
17年下期以降の輸出は1桁台前半の伸びに留まると予想している。(1)世界経済の持続的回復、(2)「一帯一路」の沿線地域への影響力拡大が引き続きプラス要因となるものの、国内生産の製造コストが上昇した中で、製造拠点を後発新興国へ移転する動きが外資系企業ばかりか国内企業にも及んできているため、輸出を抑制するマイナス要因として働くと考えている。
金融政策は引き締め気味
一方、中国政府(含む中国人民銀行)は16年秋以降、住宅バブル(*2)が深刻化する中で、金融政策を引き締め方向へと調整している。
今後の金融政策の行方を探る上では、これまでの経緯を理解しておく必要がある。そこで2014年以降の動きを概観すると、14年4月には住宅価格が下落、バブル崩壊の懸念が高まった(図表-12の赤矢印)。住宅価格が下落すると不動産開発投資も減速、それまで前年比2割前後の高い伸びを示していた不動産開発投資は10%台前半まで減速した。そこで、中国人民銀行は14年11月に約2年半ぶりとなる基準金利の引き下げを実施、景気テコ入れに動いた(図表-13)。不動産規制強化で行き場を失っていた投機マネーは、この基準金利引き下げを契機に住宅市場から株式市場へと流入、株価は空前の急騰を演じた。
15年に入っても不動産開発投資の減速には歯止めが掛からず、加えて過剰生産設備を抱えた製造業の投資も1桁台まで減速、景気下ぶれ懸念が高まった。そして、15年6月には株価が急落するとともに、中国人民銀行が基準金利の引き下げを追加実施したことで米中金利差が縮小、15年8月には人民元が切り下げられて“人民元ショック”に繋がっていった(図表-14の赤矢印)。
16年に入ると年明け早々に再び株価が急落、この時期には不動産開発投資が上向きつつあったものの、過剰生産設備を抱えた製造業の投資が1桁台前半まで減速、依然として景気下ぶれ懸念が高かったため、中国人民銀行は金融緩和環境を維持した。これを追い風に住宅価格は上昇の勢いを増し16年7月には前回高値を超えた(図表-12の点線)。そして、景気の持ち直し傾向が鮮明となった16年秋には深セン市や上海市など多くの地方政府が住宅購入規制を強化、中国人民銀行は商業銀行17行の幹部および融資担当者などを招集して住宅ローンの管理強化を要請、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)も不動産融資を巡るリスク管理を強化した。16年12月に開催された中央経済工作会議では「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」として不動産市場の平穏で健全な発展を促進する方針を打ち出した。
17年3月に開催された全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では「穏健・中立」な金融政策を実施するとし、16年の「穏健」よりも引き締め方向に軸足を移した。そして、17年1月下旬以降、中国人民銀行はリバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどの短期金利を2回に渡り引き上げた(図表-13の黒点線)。全人代閉幕後も「四限(購入制限、融資制限、価格制限、販売制限)」と呼ばれる住宅規制の導入・強化に動く地方政府が増えた。また、17年7月に開催された17年下期の経済運営方針を討議する中国共産党の中央政治局会議では、「安定を維持」としつつも「三去一降一補(過剰生産能力・在庫・レバレッジ解消、コスト削減、弱点補強)」や「ゾンビ企業の処理」に取り組む方針を示すとともに、金融面では監督管理の強化や不動産市場の安定に取り組むことが強調された。そして、住宅ローンに適用する優遇金利を撤廃する銀行や、基準金利を上回る金利を提示する銀行が増えてきており、アリババ系の投資商品「余額宝(ユエバオ)」は一人当たりの上限額を引き下げるなど、金融当局の引き締め姿勢がじわじわと周辺に影響し始めている。
以上の経緯に加えて、17年上期の成長率が目標(6.5%前後)を大幅に上回ったことを勘案すると、今後の金融政策は、「穏健・中立」の方針を維持しつつも、さらに引き締め方向へ調整する可能性が高いと思われる。中国国家統計局の毛盛勇報道官は7月14日の記者会見で「たとえ下期にGDP成長率が0.1-0.2ポイント低下したとしても、それは合理的で正常なことだ」と述べている。
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(*2)住宅バブルに関しては「
図表でみる中国経済(住宅市場編)~住宅バブルの現状と注目点
」基礎研レター 2016-11-1を参照
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経済見通し
◆経済見通し
2017年の実質成長率は前年比6.8%増、2018年は同6.5%増と予想している。また、消費者物価は2017年が前年比1.5%上昇、2018年は同2.5%上昇と予想している(図表-15)。
個人消費に関しては、企業利益の底打ちや雇用情勢の安定を背景に可処分所得が高い伸びを示していることに加えて、中間所得層の着実な増加を背景にサービス需要が拡大していることから、17年下期の消費は堅調を維持すると見ている。但し、18年には住宅販売の鈍化に加えて、小型車減税が撤廃されるため、消費の寄与度はやや低下すると見込んでいる(図表-16)。
投資に関しては、(1)過剰設備の整理と過剰債務のデレバレッジ、(2)景気対策縮小に伴うインフラ投資の鈍化、(3)バブル退治に伴う住宅着工の鈍化などマイナス材料が多いため減速すると見られる。しかし、(1)企業利益が底打ちしたのに加えて、(2)「中国製造2025」や「インターネット+」に対する手厚い政策支援を背景に新興産業関連投資が盛り上がりつつあることから、投資が失速する可能性は低く、小幅な伸び鈍化に留まると予想している。なお、仮に新興産業関連投資が失速する事態になれば、官民連携(PPP)のプロジェクトを推進、再び景気対策を強化するだろう(図表-17)。
輸出に関しては、世界経済の持続的回復や「一帯一路」の沿線地域への影響力拡大がプラス要因となるものの、国内生産の製造コストが上昇した中で、製造拠点を後発新興国へ移転する動きは外資系企業ばかりか国内企業でも盛んなため、引き続き輸出を抑制するマイナス要因となるだろう。従って、輸出の伸びは1桁台前半に留まると予想している(図表-18)。
金利見通しに関しては、中国政府(含む中国人民銀行)は16年秋以降、住宅バブル退治に乗り出したため、景気先行指標の一部には陰りが見え始めている。しかし、17年1-6月期の実質成長率が目標(6.5%前後)を大幅に上回るなど、景気の勢いは想定以上に強く、住宅バブル膨張にも歯止めが掛かっていないため、中国人民銀行は年内にも基準金利を引き上げる可能性がある。一方、米国では経済の持続的拡大が続いており、今後も段階的に政策金利を引き上げると見られる。しかし、トランプ政権の政策遂行停滞を懸念して長期金利は低下、米中の長期金利差は拡大し始めている(図表-19)。従って、米利上げが先行するため米中の短期金利差は縮小するものの、長期金利差は縮小しにくいと見て、米ドルに対する人民元レートはほぼ横ばいと予想している(図表-20)。
◆リスクの所在
中国経済の最大のリスクは“住宅バブル”にあると考えている。住宅バブルが崩壊すれば、金融システムが不安定化する恐れがあるからである。そもそも中国では、過剰設備・過剰債務問題を解消すべくゾンビ企業の淘汰を進めており、不良債権は増加傾向にある(*3)。それに加えて、16年に急増した個人の住宅ローンまで返済が滞るようだと、銀行が抱える不良債権は急増する恐れがある。
中国政府(含む中国人民銀行)は前述の「四限」で住宅バブルを退治しようとしてきた。しかし、これまでのところ住宅バブル膨張に収まる兆しは見られず、今後は基準金利の引き上げに踏み切る可能性がある。「四限」と基準金利の引き上げで、住宅バブルのソフトランディングに成功するのがメインシナリオだが、行き過ぎた金融引き締めでオーバーキルとなる可能性も否定しきれない。
具体的には、住宅価格が微調整ライン(A)を上回っているうちはメインシナリオの範囲内(黄信号)、それを下回ればシナリオ修正が必要な「赤信号」と考えている。仮に「赤信号」が点灯したとしても、中国政府が適時適切なタイミングで政策運営を切り替えることができれば金融システム不安に陥るのを回避できる可能性はある。しかし、タイミングが遅れて、デッドライン(B)を下回るようだと、住宅バブル崩壊の恐れもある。ここ数年で建設された住宅在庫のほとんどがデッドストック(含み損を抱えた資産)となるからだ(図表-21)。中国政府にとっては極めて難しい舵取りとなるだけに、今後の政策運営を注視したい。
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(*3)不良債権の現状に関しては「
図表でみる中国経済(不良債権編)
」基礎研レター2016-07-15を参照
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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
上席研究員
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