2つの無償化問題:仕事人内閣の真価が問われる
仕事人内閣と銘打った今回の新内閣だが、その看板政策の“人づくり革命”が動き出そうとしている。
9月に「人生100年時代構想会議」を立ち上げるが、その注目点が「教育無償化」で、2つの無償化がこれから議論になる。ひとつは小泉進次郎衆院議員が掲げたこども保険を財源とする幼児教育無償化、もうひとつは大学教育無償化だ。
内閣改造でもなかなか支持率が上がらない。構想会議にどんなメンバーが入ってくるのも注目だが、無償化の範囲とそれに伴う財源問題もセットで議論・決着できるか、仕事人内閣としての真価が問われる。
幼児教育無償化1兆円程度:負担議論を決め切れるのか?
幼児教育の無償化には1兆円程度の財源が必要になる。財源については年内に結論を出す方針で財政の効率化、税方式、新たな社会保険の創設などの案が骨太の方針で示されている。
財政の効率化では、中学卒業までの子どもに支給する「児童手当」で、所得制限を超える世帯にも支給されている「特例給付」の廃止などが検討されている。この廃止でも700億円程度にとどまり何らかの負担を国民に求めることになりそうだ。
負担案で一番脚光を浴びているのが、3月末に小泉氏ら自民党の若手議員が提言した「こども保険」だ。厚生年金の保険料などに新たな保険料を上乗せして児童手当を増額する仕組み。負担は現役世代で共有し、教育国債のような将来世代へのこれ以上のツケ回しを避けるとの内容だ。
並行して検討されている税金では、消費税ならば広く国民全体からの負担が可能だが、一体改革ですでに10%までの使い道は決まっており、無償化の財源には使えない。こども保険のような社会保険は税金と異なり給付と負担の関係が明確なので、他の使途に使われることもなく、国民の理解が得られやすいという政治的な読みもあるのだろう。しかしこのこども保険だと、原則20歳から60歳の全国民が社会保険料を上乗せする形で負担する一方、恩恵は0~5歳の子どもを持つ世帯に限られる。子どもが大きくなっている家庭や子どものいない家庭では、保険料の負担が増えるだけで不公平だとの批判はかなり強い。
また、拠出金についても、負担を企業のみに強いる仕組みであるため、企業による反対の声は強い。
いずれにしても受益と負担が合わない制度は長続きしない。今出ているこども保険の案では不公平感が強く、広く薄く高齢者も含めた国民全体で負担する制度にリフォームが必要だ。
高等教育無償化3.1兆円:大学改革との整合性は取れるのか
日本の大学の授業料は年間3兆1000億円。どの程度を無償化の対象にするかは設計次第だ。
首相はこれまで「教育無償化」の実現を掲げてきた。来年度には、月3万円程度の返済の必要がない給付型奨学金を創設する予定だ。「全ての人に開かれた教育機会の確保」と唱えており、さらに対象や規模を広げたい意向だ。
財源について首相は、7月23日の講演で「いま借金した人がツケを払うことにはならないという議論もある」と述べ、教育国債の再検討に含みを持たせた。「将来、活躍して収入を得て、税収が上がり、新たな富をつくる」とプラス面も訴えた。また大学卒業後一定以上の収入で返済する「出世払い」構想もここにきて浮上してきている。
誰でも大学にいけるというのはうれしい話だが、大学・専門学校などの高等教育機関進学率が80%以上である日本でどういうことが必要なのか。現在日本には大学が780ある。うち私立大学では4割程度の学校が定員未充足であり、大学の統廃合の課題も出ている中で、無償化が先行することで大学改革が進まないという弊害も指摘されている。財源問題とあわせて大学改革の議論も必要だ。
大学無償化の議論は憲法改正の議論に結びついているとの見方もある。
教育無償化は日本維新の会が、改憲項目に掲げており、安倍首相は憲法改正で教育無償化の実現を訴える日本維新の会を取り込む狙いもあって、高等教育無償化の流れは作りたいはずだ。
教育問題は国民の関心も高い。秋以降の安倍政権の目玉政策になりそうだが、結局のところ改憲の手段になってしまわないのか、議論の行方に注目だ。
矢嶋康次(やじま やすひで)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
チーフエコノミスト
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