忙しさや業務難易度を心理的なステージに置き換えたものとして、コンフォートゾーン、ラーニングゾーン、パニックゾーンという3階層についてはご存知だろうか。

コンフォートゾーンは文字通り、居心地がいい状態。「やりたいことしかやらない」「重荷として感じるものはすべてパス」する状態である。そしてラーニングゾーンは適度に忙しいが充実感がある状態。パニックゾーンは完全に自分のキャパシティを超えるほど忙しい「逼迫した状態」のことだ。

人や企業が成長するためにはコンフォートゾーンを出ることが大前提である。仕事の難易度が上がれば、仕事の量も増えるので仕方のない話である。

ただ、そうかといってあまりにやるべきことが増えるとパニックゾーンに入ってしまい、一気に生産性が落ちてしまう。よって人や企業にとっての理想は、常に「適度に忙しい」状態のラーニングゾーンを維持することになるのだが、そのためにはタイムマネジメントで適時、自分の抱える仕事量を調整する必要がある。

(本記事は、冨田 和成氏の著書『 鬼速PDCA 』クロスメディア・パブリッシング(2016年10月24日)の中から一部を抜粋・編集しています)

タイムマネジメントの三原則

鬼速PDCA
(画像=Webサイトより)

時間がなければいくらTODOが整理されていても実行に移せない。事実、若いビジネスパーソンほどマルチタスクに苦手意識を持つ。とくにはじめてチームを率いるような立場になると、自分のことに専念するわけにもいかなくなるし、より俯瞰した目線でさまざまなPDCAを回していかないといけない。これではあっさりパニックゾーンに入っても仕方がない。そのときにはじめてタイムマネジメントの必要性を痛感するわけだが、タイムマネジメントといっても方法は3つある。

(1)捨てる
(2)入れかえる
(3)圧縮する

あくまでも、この順番で行うことがポイントだ。マルチタスクというと、いまの時間の使い方を効率的にするために時間を圧縮することを真っ先に考える人がいるが、それは順番的には最後に行えばいい。または新しいDOと既存のDOの優先度を比較してスイッチングをすることも考えられるが、それは2番目でいい。真っ先に考えるべきは「いま抱えているDOで捨てられるものはないか?」である。

何の疑問も抱かないルーチンワークこそ見直しポイント

無駄を省き、タスクの入れかえも行って時間がないなら、最後は「時間の圧縮」である。このとき再度役に立つのは「捨てる」ステップで行った既存のDOの洗い出しだ。それらのDOのなかで「より短い時間で終わらせる方法はないか?」と考えるのである。

このあたりは生産管理に携わる人は詳しいだろう。大量生産を行う工場などでは、秒単位で工程を計測し、徹底した合理化を目指す。そこまでの緻密さを追求する必要はないが、例えば一日に何度も別フロアにあるコピー機まで歩いているとしたら、一気にまとめてやろうかなといったレベルの時間圧縮なら考えられるはずだ。毎日、何の疑問も抱くことなく続けているルーチンのなかにこそ非効率なものが潜んでいる。

一例を挙げれば、1日に約50件のメールを受信する私の場合、1週間のうち「メールチェックと返信」に費やす時間は5時間近くあった。これはもっと削れるのではないかと思い、件名だけで見るべきかどうかを判断するようにしたり、(基本ではあるが)返信する際の定型文の辞書登録を増やしたり、工夫をこらしてこれを3時間分圧縮することに成功した。

ルーチンを短縮できれば年間ではかなりの時間を捻出できる。スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグが同じ服を着るのは毎朝の服選びで迷う時間を圧縮するためであることは有名な話だ。男性のベンチャー企業経営者のなかには、髪を乾かしてセットする時間を圧縮するために坊主にしている人もいる(「圧縮」というより「捨てる」行為だが)。ちなみに1日15分圧縮できれば、365日で延べ91・25時間の節約ができる。

重要だけど非緊急領域の業務を遂行するためには?

PDCAを確実に、かつ複数を同時に回すためには、どうしても後回しになりがちな「重要・非緊急」領域をいかに遂行できるかが大きな鍵を握る。その方法は大別して2つある。

1. 仕組み化し、日常生活に組み込む

タスクだと思うから天秤にかけるわけであって、それをなんらかの形で仕組み化して、できれば普段の生活のなかにビルトインして、最終的には習慣にしてしまえばいい。最初は自己ルールとして強く意識する必要があるが、慣れてしまえば大した苦にはならない。

仕組み化としては強制的に毎日振り返りを行う「ルーチンチェックシート」がもっとも効果があるが、それ以外にも方法はいくらでもある。かつて私がビジネススクール留学を目指して英語の勉強を課題に掲げていたときは次のような工夫(DO)をしていた。

【英語の勉強を生活に組み込んだ実例】

・携帯やパソコンのOS設定を英語に変えた
・情報源の約半分を英語に変えた(ウォールストリートジャーナル、ファイナンシャルタイムズなどを購読。スピードは落ちるが効果は抜群)
・英語のできる友人であれば日本人同士でもコミュニケーションを英語に変えた
・スケジュール帳を英語で書くようにした
・社内研修の感想文を英語で書いた(人事部からは怒られたが)
・聞く音楽を邦楽から洋楽に変えた

「生活にビルトインする」とは、まとまった時間を用意して机に座って取り組むという正攻法以外のDOを考えることである。あまり強制感があったり、あきらかに日常生活に支障をきたすような自己ルールだと逆にモチベーションが下がるので注意したい。もっとも大事なことは継続することなので、まずは気軽にできそうなことから始めるといいだろう。

2. 強制的に「緊急領域」に移動する

これはいまでも多用するテクニックである。「重要・非緊急」を「重要・緊急」にしてしまうのである。例えばデジタルメディアの知識をつけたいと思ったら、私はそのテーマでセミナー登壇の予定を入れてしまう。

もちろん、セミナーではなく、そのテーマで会議を予定してしまうことでもいいし、個人であれば「1週間後に、勉強したことをまとめてブログにアップする」とブログ上で宣言してしまうことでもいい。とにかくその期日までに自分が成果をアウトプットできるレベルになっておかないとマズイ状況を無理やり作るのだ。

資格試験などであればさっさと申し込んでしまうのもいいだろう。受験日は変わりようがないし、受験料も払っているので勉強の優先度を上げざるをえない。

ちなみに英語を真剣に勉強したいならTOEICよりTOEFLのほうがおすすめだ。TOEFLは6千円弱で受けられるので「ダメならまた受ければいいや」と自分に言い訳がしやすくなるが、TOEFLは230USドルかかるのでがぜん本気度が増す。

冨田和成(とみた・かずまさ)
神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。著書に『大富豪が実践しているお金の哲学』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

【鬼速PDCAシリーズ】
(1)多くの人が抱きがちな「PDCA」6つの誤解
(2)5割の人が失敗している「PDCAの計画」 圧倒的な成果の出し方
(3)「PDCA」の本当の回し方 精度を高める7つのポイント
(4)デキない人にありがちな「計画倒れ」の正体 なぜ、実行できないのか?
(5)仕事で「適度に忙しい」状態をつくり出す3つの原則