世田谷区と耳にすると、閑静な高級住宅地を思い浮かべる人が多いだろう。実際に、そのエリアに住むのにふさわしく、東京23区内において、企業の社長が最も多く住む区となっている。高級住宅の開発が都心部にも広がる中、確固たるステイタスを保ち、企業のトップが好んで居宅を構える世田谷区はいったいどんな街なのか。
社長の「10人に1人」が世田谷区に集中
東京商工リサーチの調査によると、東京23区内に居住する社長は35万5175人に上り、このうち10.9%にあたる3万8771人が世田谷区で暮らす。つまり、都内で生活する社長の10人に1人が世田谷区を生活の基盤としていることになる。2位に続いたのが各国の大使館が隣在し、六本木や赤坂などのエリアを抱える港区の2万5124人、3位は田園調布を擁する大田区の2万2006人となり、世田谷区が唯一3万人の大台を突破する格好となった。
23区内で最も多くの社長を抱える世田谷区は、実は人口の規模においても23区でトップだ。東京都の推計によると、世田谷区の人口は92万439人と100万人に迫る規模で、2位には練馬区(73万494人)、3位は大田区(72万8264人)と続いた。社長が多く住む区のランキングで2位となった港区の人口は25万1910人にとどまる。
お屋敷街の成城、人気急上昇の自由が丘
都内23区で最も社長が多く住む世田谷区にはどのようなエリアがあるのだろうか。
【成城】
お屋敷街とも称される成城は、まさに社長が住んでいそうな高級感が漂う住宅街が広がる。この雰囲気は、単に経済的に豊かな社長が集まって形成されただけでなく、自治会による紳士協定である「成城憲章」において、街の景観を保全してきた経緯がある。
成城では通りを挟んで立派な住宅が目につくかと思いきや、憲章が敷地規模250平方メートル以上を確保するように求めているのが背景にある。近隣の環境に調和しながら、成城で住居を構えようとするためには、必然的に経済力が求められる。17年の地価公示価格によると、成城6丁目の地点が1平方メートルあたり79万5000円。成城憲章の定める250平方メートルの敷地を確保するには、2億円近い資金が必要になる計算だ。
【三軒茶屋】
社長が多く住み高級感を漂わせる世田谷区において、下町の情緒を色濃く残すのが三軒茶屋だ。新しい商業ビルが次々とオープンして新しい流行を生み出す都心において、三軒茶屋では商店街が今なお存在感を見せつける。この活気を見れば、世田谷区が23区で最も人口が多いというのがうなずける。駅周辺は商店や飲食店で賑わいをみせるが、少し駅から離れると、公園につながる緑道など落ち着いた雰囲気が広がり、著名人や芸能人にも人気のエリアだ。
【自由が丘】
目黒区とまたがるエリアで、おしゃれなカフェやセンスを感じさせるショップが立ち並ぶ自由が丘。住宅情報サイト『SUUMO』の「住みたい街ランキング2016(関東)」では堂々の4位にランク入りするなど、近年人気急上昇のエリアだ。洗練された街並みが、創造力が求められる社長を惹きつけるのだろうか。
世田谷区に社長が多く集まる背景には、成城のように一定の経済力を持った人のみが、周囲と同調して暮らすことができるエリアが存在していることが大きいようだ。また、景観や街並みが整然とした自由が丘のような雰囲気も企業のトップが好む要素に含まれるといえるだろう。
職場と住居が同一の割合は最低
前述の東京商工リサーチの調査では、23区内で最も多くの社長が住む世田谷区は、経営する会社の本社と住宅が同じ区内という社長の数は1万8912人に上る。
世田谷区に住む社長の数全体(3万8771人)に対する割合でみると、48.7%にとどまる。この割合は23区内では最も低く、世田谷区に住む社長の半数以上は、住居の場としてのみ同区を選択している姿が浮かび上がる。一方、職場と住む場所が一致する割合が一番高い台東区は、71.2%に達した。
社長は自らの企業拠点を世田谷区内に構える傾向は少ないが、上場企業で同区に本社を置く企業もある。代表的な例が楽天 <4755> だ。同社は、世田谷区で人気の高い二子玉川エリアに本社機能を構えている。このほか、業務用大判プリンタの最大手MUTHOホールディングス <7999> 、医薬品卸の東邦ホールディングス <8129> なども世田谷区を拠点としている。
これらのデータから、世田谷区は、東京の都心からは少し離れているため、企業活動の拠点として活用するより、他のエリアにはない閑静な雰囲気を好んで、住む場所として選択している企業のトップが多いことが伺える。社長のうち10人に1人が世田谷区在住という状況を考慮すると、街の情報に精通していれば、企業トップとの話題に花が咲くかもしれない。(ZUU online 編集部)