米衣料大手のギャップは9月6日、この先3年間で傘下の旗艦ブランドである「ギャップ」と、高価格ブランドの「バナナリパブリック」の米国内の店舗を合計約200店閉鎖すると発表した。同時に、低価格帯の「オールドネイビー」、スポーツ衣料の「アスリータ」を約270店オープンする。

縮小するブランド群は、廉価でファッション性が高いH&Mやザラなどファストファッション大手に押される一方、特に若年層を中心とする顧客から支持を失っていた。この思い切った施策で、ブランドイメージの高かったギャップは低価格路線に舵を切ることとなり、ファッション界に大きな衝撃が走った。

ところが、低迷していたギャップの株価は、発表後に前日終値から7.4%も上昇した。その後も順調に上げている。投資家が、同社の大きな方針転換を好感したからだ。なぜ、そうなるのか。背景には、売り上げで親ブランドのギャップ顔負けの貢献を見せるようになった孝行息子「オールドネイビー」の存在が見える。そこから、何が読み解けるのだろうか。

若返り策に失敗

ギャップ,バナナリパブリック,オールドネイビー
(写真= TungCheung/Shutterstock.com)

ギャップは近年売り上げが低迷していたとはいえ、そのブランドイメージは衣料品のなかでもトップクラスだ。オンラインマーケティング企業セムラッシュが6月にソーシャルメディア(SNS)で投稿の多いファッションブランドを調査したところ、ギャップは10位に入った。消費者の関心はまだ強い。

にもかかわらず、ギャップの当期純利益は2014年1月期の12億8000万ドル(約1419億円)をピークに下落を続け、2015年に12億6000万ドル(約1397億円)、2016年に9億2000万ドル(約1020億円)、2017年には6億7600万ドル(約749億円)と、4年間でほぼ半減した。同社は業績低迷の要因として、衣料消費低迷、アジアでの原料高や人件費上昇、為替変動を挙げている。だが、他の衣料ブランドで売り上げや収益が好調な企業もあることを考えると、顧客の流出はそれだけでは説明がつかない。

カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置くギャップは1974年の創業以来、性別に関係なく着こなせるユニセックスでニュートラルな「ベーシック衣料」が中心の品揃えで若年層顧客の心をつかんできた。他ブランドによく見られるような、プリント柄や細かく華美な装飾はできるだけ排して、基本的なスタイルを貫いてきた。これが圧倒的な支持を受けた。

ところが成功に気をよくしたギャップは慢心に陥り、若い消費者のニーズを読み誤る。こうして、同社の「強み」が、近年「弱み」に変わってしまった。得意のベーシックスタイルを競合がまねる一方、若返り策を打たなかったギャップは陳腐化してしまい、今や「おじさん・おばさんブランド」と認識されるようになったのだ。

「ベーシックなデザインばかりで、トップスもボトムスもソリッドカラーで無地のアイテムばかり」「品揃えに精彩を欠く」「安全すぎて、面白さがない」「より大胆なアイデアを受け入れたがらない」「流行に合わないデザインに固執する」「よく安売りをするようになったが、同時にデザインや品質のレベルが落ちた」という悪評が立つようになったのだ。

「孝行息子」オールドネイビーの出番

こうしたなか、ギャップの経営陣は危機感を強め、打開策を探っていた。その解答が「陳腐化した親ブランドのギャップと、低迷する高価格路線のバナナリパブリックを縮小し、好調の低価格ブランドであるオールドネイビーと、ライバルのナイキに挑戦するアスリータの拡張」だ。大胆な施策で傘下ブランドのポートフォリオを入れ替え、「攻め」に出る姿勢だ。

オールドネイビーは低価格路線だけでなく、「シンプルかつスタイリッシュ」な高いファッション性が若年層にウケており、オンラインショッピング時代にもめげず、店舗は人であふれている。ギャップの人気の源泉であったシンプルさを残しつつ、流行に合ったデザインの商品を取り揃えている。一言でいえば、「ダメな親ブランドに代わり、屋台骨を支える孝行息子」である。

ギャップは、オールドネイビーは数年内に現在の68億ドル(約7538億円)から100億ドル(約1兆900億円)規模、アスリータは10億ドル(約1090億円)規模の売上高に育つと期待している。投資家は、この大転換を好意的に受け止めている。米投資銀ジェフリーズのアナリスト、ランドール・コニック氏はギャップの目標株価を35ドルから39ドルに引き上げた。直近の株価は発表直前の24ドル前後から上げて、現在は28ドル近辺と、年初から21%上昇したレベルで推移している。

コニック氏によると、オールドネイビーはギャップの売り上げの75%以上を叩き出すまでに成長しており、投資家はもはやギャップの不振を見るのではなく、オールドネイビーの可能性に着目すべきなのだという。同氏は「数年内にオールドネイビーの売り上げがギャップの売り上げの80%に達する」と予測する。

また、ギャップはeコマースにも力を入れており、傘下の様々なブランド商品をオンラインで購入し、どのブランドの店頭でも受け取れるサービスを通して売り上げの回復を目指している。

日本でのオールドネイビー撤退の狙い

こうしたなか注目されるのが、ギャップの戦略の日本への影響だ。興味深いのは、米国ではギャップとオールドネイビーを入れ替える方針なのに対し、日本ではギャップとバナナリパブリックを残し、オールドネイビーを全面撤退させるという、逆の戦略をとっていることだ。

すでに東京都のオールドネイビー吉祥寺店が9月25日で閉店するなど、撤退が加速している。
ギャップによると、「日本から去る分、成長を見込める中国やメキシコに経営資源を集中させる」ことが狙いだとする。一部の報道では、オールドネイビーが日本で圧倒的存在感を示すユニクロの低価格ブランド「GU」との競争に負けたからだという。

このようにギャップは国別の市場の事情に合わせ、柔軟に傘下ブランドを入れ替えて展開していく構えだ。慢心から目覚め、大胆な戦略に打って出たギャップの今後の業績に、投資家は熱い視線を送っている。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)