独立実行の課題:金融的には厳しい現実が

◆外部調達の難しさ

カタルーニャは、スペイン全体のGDPの約20%、人口の16%を占め、スペインの17の自治州で最大となっている。GDP規模でいえば、デンマーク並みである。

しかし、だからと言ってまったく自力で金融システムを支えていけるわけではない。カタルーニャ政府は約770億ユーロ(10兆円)の負債を抱える。このうち、67%はスペイン政府から借り入れている。欧州危機の2012年には、カタルーニャが外部調達ができなくなり、スペイン政府が設定したファンドから資金を融通してもらっているなど、スペイン政府に大いに依存している。

これらの経緯で、カタルーニャ地方の現在の格付けは「B+」(S&P)と極めて低くなっている。更に、5日、S&Pは、格下げの可能性ありとして、「クレジットウォッチ」に掲載した。EUに直接参加していざという時には助けてもらうという方法はあるが、EU加盟には、EUの全加盟国の同意が必要であるため、スペイン政府が反対すれば、カタルーニャの加盟は認められない。なんらかの代替的な資金調達先が見当たらない限り、金融的には独立は現実的ではない。

◆金融機関の脆弱さ

地元の金融機関の問題もある。スペイン第3位の規模のカイシャバンク(Caixabank)は、バルセロナを本拠地とし、3,786億ユーロの総資産を有する。カイシャバンクに次ぐサバデル銀行もスペイン国内有数の銀行で、2,174億ユーロの資産を持つ。これらの銀行は、格付けが「BBB-」程度と、投資適格ぎりぎりである。

仮に独立後の「カタルーニャ国」所在の銀行ということになると、現在の格付けが引き下げられる可能性がある。その場合、投機的格付となり、他の金融機関との取引が難しくなる。これを回避するべく、これらの銀行が他の地域に本拠地を移してしまったら、州の個人や企業の利便性が損なわれる。いずれのシナリオでも、州内の金融システムが不安定化しかねない。

このように、独立は、カタルーニャ地方の財務、銀行経営、ひいては住民の利便性からも極めて不都合になる。合理的に考えれば、短期的に独立を強行するという選択肢は考えにくいだろう。

市場への影響:いずれにしても足元の混乱は沈静化へ

最も可能性が高いシナリオは、なんらかの財政面の条件交渉で合意に至るというものである。だとすると、ユーロや欧州株の最近の下落分は挽回できる可能性が高い。

また、仮にカタルーニャの独立運動が続いたとしても、EU全体に対して直ちに大きな影響が出るわけではない。イタリア等に影響が出るよりも先に、金融政策の正常化議論がなされるだろう。万一、独立が断行されるとしても、EU全体を脆弱化させるものではない。このようなシナリオから、短期的には、欧州債券、株式、ユーロいずれに対しても「強気」である。

大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券 チーフ・アナリスト

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