都心への人口流出、高齢化による人口減少に多くの地方都市が頭を抱える中で、驚くべき人口増加を実現したのが千葉県流山市です。同市では、行政としては革新的なマーケティングを行い子育てしやすい街をアピール、働き盛りの30代を中心に移住促進を続けてきました。



その異例ともいえる「移住のためのマーケティング」が大きく成功し、2005年には15万人だった人口は毎年2,000〜5,000人増加、2009年に16万人を突破し2017年4月の時点で18万人を超えています。



流山市はどのようにして人口増加を成功させたのか、そして思わぬ人口急増で見えた今後の課題について見ていきましょう。

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

つくばエクスプレスを中心とした流山市の移住促進



2005年8月24日、「つくばエクスプレス」の開業により、最短20分の距離で都心と繋がった千葉県流山市は、「都心から一番近い森のまち」として子育て世代を誘致すべく、子育て、教育、住環境整備を進めていました。



「つくばエクスプレス」開業前の2004年4月、自治体では珍しいマーケティング課を設置、担当者には一部民間経験者を採用しました。2010年4月にはシティセールス室も設置され、翌年に策定されたシティセールスプランにより流山市は都心の共働き世代に向け強烈なアプローチを開始します。



その結果、2007年から2017年の10年間で人口は約2万6,000人増加、特に30〜40代が急増していることから、共働き世代の移住が市の狙い通りに進んだことがわかります。

自治体発信とは思えぬ大胆な広告戦略



大きな成果を上げた流山市の「マーケティング課」では、常勤5人と非常勤1人の6人体制で業務を行っています。常勤のうち「民間経験者は3人」、しかもマーケティング課長やシティセールス専任職員は外部から公募するという、徹底した「広告活動体制」を作っているのが特徴です。



これは民間経験者である井崎義治市長が打ち出したもので、井崎市長によるマーケティング活動は、各種メディアに成功例として取り上げられています。



特に話題となったのが「母になるなら、流山市」というフレーズのポスターです。これは都内の主要駅である銀座や表参道に掲出、多くの移住ターゲット層の目にとまりました。



さらに各種媒体にて流山市の子育て支援策をアピール、SNSなどウェブサイトも利用し積極的な情報の発信に努めています。

働く女性が「母になるなら」流山市の子育て支援



もちろん、広告活動だけではなく実際の子育て支援にも注力しています。



その代表として、駅前に設置された「送迎保育ステーション」があります。送迎保育ステーションは、おおたかの森駅前と南流山駅前にあり、市内の全認可保育園と送迎バスを結んでいます。登園・降園共に、ステーションからそれぞれの保育園に子どもを送迎するシステムになっているのです。これにより、共働き夫婦は保育園送迎の負担を大幅に軽減、さらに「地区に縛られない保育園選び」を可能としたことで、待機児童を作らないというメリットも生まれました。



それに加え、0歳児から保育受け入れを実施している保育施設は、公立・私立・小規模を合わせて47ヵ所もあり、産後すぐに仕事を再開するための環境が整備されているのも同市の魅力の一つです。

人口急増で見えた地方の問題とこれから



ところがこの人口増加によって、思わぬひずみが生じました。流山市が一番注力していた「保育」が、満足に受けられない家庭が出てきたのです。2016年4月の段階で、流山市全体の保育園定員数は4,091人ですが、待機児童が146人となっています。



これには市も喫緊の問題として保育施設の増設に急ピッチで取り掛かっていますが、保育園に入れない可能性があることで、これから移住を考えていた層にブレーキをかけてしまうでしょう。



さらに2015年に開校した「おおたかの森小中学校」は、予想以上に増える児童への対策として増築を決定しました。しかしそれでも足りず、議会ではさらなる小学校の新設を検討中です。



このように、地域の少子高齢化問題に歯止めをかけるべく始まった取り組みによって、新たな問題を生んでしまう結果になりましたが、流山市の挑戦は地方創生に取り組む自治体の良きモデルケースとなるでしょう。



そして既にブランド化されつつある流山市の魅力をどう伝え続けていくのか、現在の働く世代の高齢化にどう対応していくのか、独自の路線をひた走る流山市の今後にも期待が高まります。

(提供:JIMOTOZINE)