世界最大の自動車市場、中国での新エネルギー車開発・生産・販売に向け、欧米の自動車メーカー間で本格的な競争が始まった。

テスラを筆頭に、BMW、フォード、フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラルモーターズ(GM)などが、続々と未来のEV市場に向けた戦略を発表している。中国政府による新エネルギー車普及対策が、欧州メーカーのEV生産刺激策となっていることは間違いない。

EVシェア世界一の中国市場 充電ステーション増設に4286億円投資

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(写真=Thinkstock/Getty Images)

中国の自動車市場は年々拡大傾向にある。2008年には670万台だった乗用車の販売台数が昨年は2438万台にまで成長。今年は3000万台に達する見こみだ。小型乗用の販売台数が1746万台だった米国など他国と比較すると、市場規模の差は歴然としている(Statistaデータ)。

深刻な大気汚染問題をかかえる中国は、EVを含む新エネルギー車市場としても類を見ない潜在性を秘めている。政府の強力な後押しで、EVのシェアも世界一に躍りでた。2016年のEV販売台数は50万台(前年比53%増/中国汽車工業協会データ)に達している。

政府は補助金や免税などで普及を促進すると同時に、ガソリンおよびディーゼル車の生産・廃止時期を検討中だ。2020年までに充電ステーションの増設に250億人民元(約4286億円)を投じる予定であるなど、新エネルギー車受け入れ環境の整備にも余念がない。

また2019年以降、一定の割合で新エネルギー車の輸入・生産を義務化する規制を導入する。

現地生産でコスト引き下げを期待?

上海の自由貿易圏での工場建設をめぐり中国政府と協議中のテスラ。年内に協議内容を具体化する意向を示している。合意に至った場合、中国でのEV生産を狙う欧米自動車メーカーとしては、最大の勢力となることが予想される(LAタイムズ紙より )。

同社は輸出という形態で、昨年は本国の4分の1値する10億ドルの収益を中国で上げている 。EVシェアでも北汽集団や吉利汽車といった現地自動車メーカーを、着実に追い上げている感が強い。

テスラの狙いが「世界最大のEV市場でのシェア拡大」であることは明白だ。米国内の工場に続く新たな工場を中国に建設し、現地向けの車両生産を行うことで生産コストを引き下げ、関税支出の相殺を試みる意図があるものと思われる。

中国で輸入車の価格が高額な理由の一つは課税システム にある。関税(25%)や付加価値税に加え、排気量に応じて消費税が課せられる。2016年以降は元の価格が130万人民元(約2241万円)以上の高級車を対象とした高級車税(10%)も導入された(enca.comより )。さらに各種購入費用がかかるため、最終的な価格は輸入以前の価格の2倍を超える。
一旦ディーラーに渡れば、そこでも価格のつり上げ競走がある。度を超えた価格の押し上げは、売上拡大を狙う海外自動車メーカーにとっては不利に働きかねない。テスラを始めとする欧米の自動車メーカーが、中国市場を開拓する上で不利に働く要素の排除を試みる動きは、当然かと思われる。

海外企業が自由貿易圏での生産に踏みきったとしても、輸入課税が排除されることはないが、少なくとも生産コストの引き下げが期待できる。

現地での合併先は? テンセントがテスラ株5%を保有

テスラは中国におけるEV生産の交渉を続けるかたわら、EVに欠かせないリチウム電池用の工場建設も計画している。

中国は世界有数のコバルト(リチウム電池の原料となる希少金属)生産国でもある。リチウム電池の需要拡大と供給のバランスが崩れ、近年コバルトの価格が高騰しているが、現地調達が可能な環境を整備すれば、テスラが目指す「低価格EVの提供」も夢でなくなるはずだ。

リチウム電池はEVで最も高コストな部品である。テスラ向けのリチウム電池であれば、1.5万~2万ドルが相場と見積もられている。

しかしそう簡単に物事が進むのだろうか。いくつかの難関が指摘されているが、まずは中国で法人を設立するにあたり、現地企業との合併が必須となる。この規制が緩和される可能性も報じられているが、正式な発表には至っていない。

現時点では上海電気や上海臨港控股、天津汽車模具の3社が候補先とされているが、3社ともに可能性を否定しているほか、テスラも硬く沈黙を守っている。

一方、同社の株5%をテンセント(騰訊控股)が保有しているという事実も、何らかの影響を及ぼすと見られている。テンセントは今年3月、約817万のテスラ株を総額18億ドルで取得した。

GM、VW、BMW、フォードなども参戦

中国EV生産に乗りだす海外自動車メーカーはテスラだけではない。ゼネラルモーターズ(GM)、フォルクスワーゲン(VW)、BMW、フォードなどが、それぞれの戦略を用いて名乗りを上げている。

2018年に中国でのEV販売開始を目標にかかげるVWは、第一汽車(FAW)、上海汽車(SAIC)、安徽江淮汽車(JAC)と提携。新エネルギー車の開発・生産のほか、自動車データサービス分野にも挑戦する。

長年にわたり中国企業と提携関係を結んできた同社は、今後もともにモビリティの未来を築く意欲を示している。

キャデラックなど従来型の自動車の販売は絶好調だが、EVでは出遅れた感の強いゼネラルモーターズ。8月に1台5300ドルという低価格EVを中国市場に向けて発売 し、巻き返しを図っている。

2018年までに中国でEVやPHVを含む新エネルギー車10種以上をラインアップし、ガソリン車を含む総合的な年間販売台数を15万台、2025年には50万台にまで増やす計画 を発表している(ブルームバーグより)。

中国での次世代ハイブリッド車開発・生産は、上海汽車と共同で進めており、シボレー・ボルトの改良版などになりそうだ 。

BMWは小型車ブランド「ミニ」のEV版を長城汽車と共同開発 する。同社は華晨汽車集団とすでに提携しており、長城汽車は2社目の中国合弁企業となる。

フォードは重慶長安汽車、江鈴汽車に続き、衆泰汽車と合弁企業を設立すると発表した。2025年までに中国で販売する自動車の7割に電動パワートレインを採用する 予定だ。目標年間生産台数600万台のうち、400万台をEVに置き換える。

EV促進に向け規制緩和 国外企業の追い風となるか?

前述したように、政府は徐々に国外の企業に対する規制枠を緩め始めている。例えば長年国外企業の足かせとなってきた「現地企業との合弁規制」は、以前は最大2社との合弁しか許可されていなかった。

しかしVWの例を見れば分かるように、政府はEV促進の一環として3社目との合弁関係を許可している。

VWはあくまで特例との意見もあるが、見方によれば特例が許可されたというだけでも、何かが変わりつつあるという事実に変わりはない。こうした事業環境の変化は、国外企業にとって大いに歓迎すべき流れだろう。

追い風を背に、中国市場を舞台に始まったばかりのEV競争は、ますます激化していくと予想される。

懸念されるのは補助減少や認定強化による販売不振だ。自動車取得税の免除を含む補助の減少が今年からが実施され、段階を追って2020年には完全に撤廃される予定である。それに加え認定基準も強化されているため、売上が失速する可能性が非常に高い。

政府は2015年の時点で減少計画を明らかにしていたものの、昨年は1年間限定で補助金を増額した。昨年の飛躍的な販売台数増加は、この期間限定特典に起因するところが大きいと見られている。寛大な優遇措置が影を潜めれば、売上への影響は回避できないだろう。欧州メーカーがこうした壁をどのように乗り越えていくのか、今後の動きが注目される。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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