高層ビルが次々と建設されている韓国で、安全対策の脆弱さが明らかになっている。

国会行政安全委員会のチン・ソンミ 共に民主党議員が2017年10月15日に提出した資料によると、韓国の消防庁は最高55メートル22階まで接近できるはしご車を韓国全土で160台保有しているほか、最高70メートルで28階まで接近できるはしご車がソウルと釜山に1台ずつのみとなっている。

高層マンションや高層ビルが乱立する昨今、火災などの緊急時に建物外からの救助や火災鎮圧はほとんど不可能な状況だが、利用者の安全への関心は薄い。

安全対策が置き去りの超高層ビル

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再開発が進む龍山駅前と隣接する二村の高層マンション(写真=筆者)

韓国には50階以上の超高層建物が2017年10月現在で107棟建っている。釜山28棟、ソウル22棟、京畿道と仁川が19棟などだが、釜山市海雲台(ヘウンデ)区に25棟、京畿道高陽(コヤン)市14棟、ソウル江南区9棟など、限られた地域に集中する。

高層建物が乱立するエリアで火災が起こると、ビル風などによりヘリコプター等を使った上空からの消火活動は不可能で、人命救助もヘリポートがある屋上に限られる。

50階以上での建物火災は2014年に18件発生し、1人が負傷している。2015年は10件で負傷者は3人。2016年は8件だったが、2017年は7月までに12件が発生し、4人が死亡、15人が負傷している。

地震対策もしっかりしていない。2016年7月5日、蔚山(ウルサン)沖を震源とするマグニチュード5.0の地震が発生したとき、蔚山から40kmほどの海雲台にある50階から80階建てマンションでは、避難誘導など行われていなかった。

韓国は地震が少なく、2016年9月12日に慶州市を襲った観測史上最大規模のマグニチュード5.8の地震は人々を震撼させた。過去に大規模地震が発生した記録は残っているが、地震観測がはじまった1978年以降大きな地震はなく、建築物の耐震設計比率は2016年9月時点で6.8%にとどまっている。

工事中の事故も起きている。2015年9月、仁川市の工事現場で高さ40メートルのタワークレーンが倒れ3人が負傷した。クレーンは製造から20年経過した古いものだが、警察の調査で一度も点検を受けたことがないことが確認された。

同2015年4月にも京畿道一山の超高層アパート新築工事現場で、製造から15年経ったタワークレーンが倒れた際に力を受ける部品からひびが見つかっており、2010年には老朽化で処分される直前にアメリカから持ち込まれたクレーンが30mの高さから落下して操縦士1名が死亡している。

土地の有効活用とステータス

超高層マンションの開発ブームは、2000年代半ばから始まった。住宅価格の上昇で、土地を有効活用できる手法として注目され、その眺望から“富の象徴”としてマンション価格を主導した。2011年12月に入居がはじまった釜山市海雲台区のマンションは80階建てで高さは300メートル、すぐ近くには72階建て298メートルのマンションもあり、晴れた日には長崎県・対馬が見えるという。

高層階が相応の価格で取引される一方で、景気の低迷とともに中低層階は入居者が集まらないなど、価格の下落が顕著になってきた。建築業者は空き部屋が目立つマンションに変わって、超高層のオフィスビルやホテルに注目しはじめた。

中国人観光客が急増した2012年7月、政府はホテルの容積率や高さ制限、駐車場などの基準を緩和した「観光宿泊施設拡充に関する特別法」を導入し、高層ホテルの建設がはじまったのだ。

2017年4月3日、ソウル蚕室(チャムシル)にオフィスやホテル、住居で構成された高さ555メートル、123階建てのロッテワールドタワーがオープンした。

ソウル龍山駅の再開発地域でも、高層マンション完工に続き、同10月1日には40階建てタワーホテルが3棟並ぶソウルドラゴンシティが開業している。

いざというとき、はしご車が届かない23階以上の利用者は自力で避難せざるをえないが、入居者は50階以上の建築物30階に1か所以上の設置が義務付けられている避難施設に安心し、管理事務所も建物はM7.0の地震にも耐えられるなどと特段の対応は行っていないのが現状だ。

高層マンションが集中する釜山消防本部は、超高層マンションの住民を対象に年2回の消防訓練を行っているが、参加する住民は少ない。(佐々木和義、韓国在住CFP)