金融政策の概要:予想通り、政策金利を据え置き。声明文の大幅な変更はなし
米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が10月31-11月1日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、政策金利の据え置きを決定した。
今回発表された声明文では、景気の現状認識部分では、ハリケーンに伴う雇用減少や物価上昇に言及された一方、経済活動の表現が上方修正された。また、経済見通しの部分でも、ハリケーンが経済活動に加え、雇用や物価に短期的に影響することが言及された。しかしながら、これらの影響はあくまで短期的であるとの見通しが前回から維持されており、景気見通しには大きな変更がないことが示された。また、金融政策ガイダンスに関する表現にも変更は無かった。
今回の金融政策は全会一致で決定された。なお、今回からフィッシャー副議長が退任し、クウォールズ副議長が就任したことで、前回から金融政策の意思決定者が2名変更となった。
金融政策の評価:ハリケーンの影響に対する評価に変更なし、12月利上げ予想を維持
政策金利の据え置きは予想通り。また、声明文で経済の現状認識や、今後の見通しについて大幅な表現変更はなかった。これは、先日発表された7-9月期GDPが非常に堅調であったほか、足元の経済指標もハリケーンの影響が短期的に留まる可能性を示唆するものが増えていることによると思われる。また、新しく副議長に就任したクウォールズ氏が今回の金融政策決定に賛成票を投じたことで、FRB理事の交代にも拘らず、年内追加利上げ見通しを維持した9月のFOMC会合時点から、金融政策の方針は維持されていることが予想される。
このため、当研究所ではFRBが12月に追加利上げを実施するとのこれまでの見通しを維持する。一方、トランプ大統領は2日に新議長として現FRB理事のパウエル氏を指名するとの見通しが強まっている。市場の予想通りパウエル氏が就任する場合には、今後の金融政策方針に大幅な変更はないと予想される。
もっとも、FRB理事は、現在7名の定員のうち3名が欠員となっているほか、イエレン議長、ブレイナード理事が来年退任する可能性も囁かれており、来年の理事構成は現状から大幅変更となることが予想される。このため、パウエル氏が議長となっても、新しく指名されるFRBの人選によっては、来年以降の金融政策の方針が大幅に変更される可能性があり、その他理事の人選が注目される。
声明の概要
◆金融政策の方針
- FF金利の誘導目標を1.00-1.25%に維持(変更なし)
- 2017年10月に開始したバランスシート正常化プログラムを継続している(正常化プログラムが既に開始されている状況を反映して「開始する」”initiate”から「継続している」”is proceeding”に変更)
◆フォワードガイダンス、今後の金融政策見通し
- 既に実現した労働市場環境や物価、およびこれらの今後の見通しを考慮して、委員会はFF金利の目標レンジを1.00-1.25%に維持した(変更なし)
- 金融政策スタンスは依然として緩和的であるため、労働市場環境の幾分かの改善や、物価の2%への持続的な上昇を下支えする(変更なし)
- FF金利の目標レンジに対する将来の調整時期や水準の決定に際して、委員会は経済の現状と見通しを雇用の最大化と2%物価目標に照らして判断する(変更なし)
- これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
- 委員会は、対称的な物価目標に関連させて、物価の実績と将来見通しを注意深くモニターする(変更なし)
- 委員会は、FF金利の緩やかな上昇のみを正当化するような経済状況の進展を予想しており、暫くの間、中長期的に有効となる水準を下回るとみられる(変更なし)
- しかしながら、実際のFF金利の経路は、今後入手可能なデータに基づく経済見通しによる(変更なし)
◆景気判断
- ハリケーンに伴う混乱にも拘らず、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は堅調に増加した(経済活動の表現を「緩やかに」“rising moderately”から「堅調に」”at a solid rate”に上方修正したほか、「ハリケーンに伴う破壊にも拘らず」”despite hurricane-related disruptions”を追加)
- ハリケーンが9月に雇用減少をもたらしたものの、失業率はさらに低下した(「ハリケーンが9月に雇用減少をもたらした」“the hurricanes caused a drop in payroll employment in September”を追加した一方、失業率の表現を「低位に留まる」”stayed low“から「さらに低下した」”declined further”に変更)
- 家計消費は緩やかに増加したほか、設備投資の伸びはここ数四半期に加速した(変更なし)
- ハリケーン後にガソリン価格が上昇したことが、9月の総合インフレを押し上げた。しかしながら、食料品とエネルギーを除いたインフレ率は低い状況が続いている(ガソリン価格の上昇に伴い総合指数が上昇した表現を追加)
- 前年比でみた両方のインフレ指標は、今年低下し2%を下回っている(前回の「総合および、食料品とエネルギーを除いた」との表現を前文を受けて「両方」に小幅修正)
- 市場が織り込むインフレ率は、依然として低位に留まっている(変更なし)
- ほとんどの調査に基づく長期物価見通しは、全般的に変化に乏しい(変更なし)
◆景気見通し
- ハリケーン「ハービー」、「イルマ」、「マリア」がたくさんの地域を荒廃させ、深刻な困難を与え(今回削除)
- ハリケーンに伴う破壊と再建は、短期的に経済活動、雇用やインフレに影響を及ぼす(「雇用やインフレ」“employment, and inflation”を追加)
- しかしながら、過去の経験からは、暴風が中期に渡って経済全体の方向を著しく変える可能性が低いことを示唆している(変更なし)
- 委員会は、金融政策スタンスの漸進的な調整により、経済活動は緩やかに拡大し、労働市場の状況が更に強くなると予測している(変更なし)
- ハリケーンの影響による、ガソリンやその他商品価格の上昇が、一時的にインフレ率を引き上げる可能性が高い(今回削除)
- 前年比でみたインフレ率は短期的には幾分2%を下回るものの、中期的に委員会の目標とする2%近辺で安定すると予想する(変更なし)
- 経済見通しに対する短期的なリスクは概ねバランスしている(変更なし)
- 委員会は、引き続きインフレ動向と世界経済および金融情勢を注視する(変更なし)
窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
主任研究員
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