現在、国内の農業は大きな転換期を迎えようとしています。なぜなら、これまでの農業のあり方では、環境への取り組みや人材育成といった多様な問題を乗り越えることは難しいからです。

当事者である農家だけでは解決できないこれらの問題について、都道府県もしくは市町村単位でさまざまな取り組みを行っています。中でも先進的な試みで注目を集めているのが、2015年8月より始動した佐賀の「スマート農業」です。佐賀県、佐賀大学、企業がタッグを組み、ICTを駆使する佐賀のスマート農業について紹介します。

佐賀を支える農業の現実

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

農業は全国的に厳しい情勢が続いていますが、佐賀においてもその傾向は変わりません。佐賀県内の販売農家数と耕地面積の推移をみると、2017年の販売農家数及び耕地面積は1995年の半分以下にまで落ち込んでいます(農林水産省『農林業センサス』より)。

これには農家の高齢化や後継者不足、農業所得の低さなど、佐賀県内だけではなく近代農業全体が抱える問題が背景にあると考えられます。世界的に人口が増加し、この先農産物の輸入量を確保できるのかわからない現代において、これは看過できない問題です。

元より佐賀の農産物に対する評価は高く、タマネギやミカン、米などの農産品は国内に広く流通し消費されています。耕作放棄地を復活させ、佐賀の農業を再興することは、佐賀全体の活性化には不可欠と言えるでしょう。

新たな取り組み「スマート農業」とは

そこで佐賀は、「佐賀県『食』と『農』の振興計画2015」を策定。棚田保全や有機農業の取り組み、耕作放棄地対策などについて方針を固めました。その中の一つに、「稼げる農業の確立」というものがあります。

これによって生まれたのが、「楽しく、かっこよく、稼げる農業」をコンセプトとした佐賀県、佐賀大学、株式会社オプティムの3者連携による「スマート農業」です。佐賀県と佐賀大学の持つ農業ノウハウや学術的視点を元に、オプティムが農業テクノロジーを開発し、農業に新たな風を吹き込みます。

・農業用ドローンで作業の効率化
スマート農業では、オプティム開発の農業用ドローン「アグリドローン」を活用し、農作業の効率化による作業負担軽減と、農作物の品質向上に向けた取り組みを行っています。ドローンによるピンポイント農薬散布や夜間害虫駆除によって、農薬購入費用も最小限に抑えることが可能です。

・スマートグラスでリアルタイムに疑問を解消
遠隔作業専用スマートグラス「Remote Action」を利用することで、経験の少ない農業者がいつでも作業の疑問を解消できます。これは農業の知識がなくとも農家になれる仕組みにも繋がっており、新たなる後継者づくりも期待できます。

・全天球カメラでデータを蓄積
農地や放牧地に全天球カメラを設置、カメラの画像データをビッグデータに蓄積していくことで、農業のさらなる効率化を進めました。今まで人間の目で確認していた作物や家畜の異常を全天球カメラがいち早く察知し、作物管理・農作業の人的コストを軽減します。

「スマート農業」と「スマート野菜」で変わる農業の未来

3者連携によって生まれた効果は、これだけではありません。アグリドローンを利用したピンポイント農薬散布や夜間殺虫では、散布する農薬量を大幅に減らし、より安全な作物づくりに役立ちました。またウェアラブル端末や全天球カメラによって蓄積されたデータは、生産者だけではなく一般消費者および飲食店への情報開示にも役立ちます。

このようなスマート農業によって栽培された作物は「スマート野菜」という名称で売り出され、パッケージにはスマートフォンで簡単に生産情報を見ることができるQRコードが記されています。野菜がどのように育っているのか、その過程を可視化することで作物に付加価値を生みだしたのです。

スマート野菜の生産量が増えブランドが確立・浸透していくことで、伸び悩む農業所得の増加が期待されています。スマート農業、そしてスマート野菜によって、佐賀の農業は新たな段階を迎えています。

(提供: JIMOTOZINE )