衆議院議員選挙の公約で希望の党が課税を掲げたことでも話題になった「内部留保」。企業の内部留保が積み上がっていることについて、麻生財務相も問題視して、設備投資や人件費に還元することが望まれているが、内部留保課税は反対論も多い。課税論はなぜ受け入れられないのであろうか。

内部留保とはそもそも何なのか? 「二重課税」と批判される理由は?

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(写真=PIXTA)

「内部留保の積み上がりは問題」という場合に、イメージとしては「現金預金」を指しているように見える。確かに日本銀行が発表している資金循環統計では、企業の現金預金は年々増えている。

ただ、内部留保=現金預金というわけではない。決算書の貸借対照表において利益剰余金の金額を内部留保と呼ぶこともあり、簡単に言えば創業以来からの利益の積み上げにあたる。現金預金に課税するなら相続税や固定資産税のような資産課税になる。

麻生財務相は内部留保増加を問題視し、内部留保への課税は二重課税と批判している。

この場合は税引前の当期純利益から法人税等を支払い、税引後の純利益の積み重ねを内部留保と考えている。

貯蓄課税なら資産課税であり利益にかかる法人税等とは別体系になるが、利益剰余金に課税したら法人税等と二重課税ではないかというのが、内部留保課税への批判である。

海外や日本の留保金課税

希望の党公約の内部留保課税が事実上修正になる前、小池代表は海外ですでに導入されているとの見解を示していた。

アメリカ・韓国・台湾などには留保金課税はあり、日本でも実は、資本金1億円超で一定範囲の同族会社(特定同族会社)に対しては留保金課税がされている。

内部留保を配当や設備投資に回すことを期待する趣旨では、議論された内部留保課税と同じである。日本の留保金課税は、法人税の課税所得から配当や役員賞与などを差し引いた金額が留保控除額(少なくとも2000万円)を超えると課税される。

配当を行わない同族会社のために特別に設けられた課税ということで、法人税の枠内で例外的に認められた二重課税であるが、日本では配当が求められる多くの上場企業には適用されてない。またこの方式を仮に上場企業に導入したとしても、従業員の賃上げに結びつく実効性があるかは疑わしい。

海外の事例で言うと、韓国は大手企業の内部留保吐き出しを目的とした留保金課税を2015年から導入している。年間所得から設備投資・人件費増加・投資家への配当を除外した金額に対して10%の税率で課税している。

人件費増加・投資・配当を行えば課税所得が下がるが、あくまでも単年度の所得に対する課税であり、こちらも積み上げた利益の総額に課税されるものではない。

増配に結びつく問題提起にはなりうる

韓国における留保金課税導入の結果として、配当の増加には回ったものの賃上げには結びつかなかったとされている。

希望の党などが考えていた内部留保課税が資産課税なのか利益(留保金)課税なのか、受け取り手は話が錯綜しているが、たとえ留保金課税を導入していたとしても期待していた効果が得られるかは難しいと考えられる。

ただ韓国でも増配に動いた点は、内部留保課税論議が企業の配当政策に一石投じるのは、という株式投資家の期待にもつながる。

実際に、余剰資金を抱えた銘柄が買われているという報道もされている。希望の党は課税の公約を事実上取り下げているが、企業には内部留保の吐き出しに動いてくれることを国・投資家は願っている。

なお賃上げを促進する税制や助成金であれば、すでに法人税における「所得拡大促進税制」や雇用関係助成金(例えば「キャリアアップ助成金・賃金規定等改定コース」)があり、効果の疑わしい制度を新設する必要性は乏しいと考えられる。(石谷彰彦、ファイナンシャルプランナー)