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景気の現状判断DI(季節調整値):度重なる台風上陸も、影響は限定的

11月9日に内閣府から公表された2017年10月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DI(季節調整値)は52.2と前月から0.9ポイント改善し、2ヵ月連続で改善した。家計動向関連が悪化したものの、企業動向関連、雇用関連は大幅に改善し、DIは消費税率引き上げ前の2014年3月の53.8以来3年7ヵ月ぶりの高水準となった。なお、内閣府は、基調判断を「着実に持ち直しが続いている」と4ヵ月ぶりに上方修正した前月から据え置いた。

今回の調査では、家計動向関連は、度重なる台風の影響で来客数が減少したが、消費者の購買意欲の高まりもみられ、景況感の押し下げは限定的だった。また、企業動向関連では、引き続き受注が好調に推移しており、雇用関連では、人材の定着や確保を進めるため待遇の改善が進んでいる。

企業動向・雇用関連が大幅に改善

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差▲0.5ポイント)が悪化したが、企業動向関連(同+4.1ポイント)、雇用関連(同+3.3ポイント)は大幅に改善した。家計動向関連では、住宅関連(前月差+5.2ポイント)、サービス関連(同+0.9ポイント)が改善したが、飲食関連(同▲6.4ポイント)、小売関連(同▲1.2ポイント)が悪化した。

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コメントをみると、 家計動向関連 では「紅葉シーズンを迎え、予約状況はおおむね好調だったが、度重なる台風の影響によるキャンセルが痛手となっている」(甲信越・観光型ホテル)や、「梅雨のような長雨、さらに、冷たい雨のため、年配客の多い当コースではキャンセルが非常に多く、近年で最低の来場者数となっている」(甲信越・ゴルフ場)、「天候が悪く雨も多いため、来客数は減少している。特に来客数が、イベントを開催しても鈍い状況である」(北関東・家電量販店)など、10月は週末にかけて台風が2度日本列島に上陸したため、観光ホテルやレジャー施設、小売店などで幅広く来客数が減少したようだ。しかし、「富裕層の顧客を中心に高額な冬物アウターが好調である。来客数の減少を単価の上昇でカバーしているものの、売上は前年並みとなっている」(東北・衣料品専門店)や「天候に恵まれず、来客数が振るわない。ただし、客の購買意欲は高く、天候の良い日は同じ来客数でも客単価が高い状態となるため、景気がどの方向に向いているのか判断しにくい」(東北・観光名所)など、消費者の購買意欲の高まりを指摘するコメントも目立った。また、「前月に引き続き外国人観光客の来店が伸びており、それに伴って客単価も上昇傾向となっている。特に特選ブランドや時計、化粧品で客単価アップ、売上アップが顕著となっている」(北海道・百貨店)など、好調なインバウンド需要は続いているようだ。

住宅関連 では、「秋に入り客からの問い合わせや来場者が増えており、商談から契約に至る件数が増えてきている」(中国・住宅販売会社)など住宅の購入に前向きな消費者が増えているようだ。とりわけ、「新築分譲マンションでは、都心などの高額物件の販売が堅調に推移している。特に、富裕層を中心として、投資目的の購入も含めた活発な動きがみられる」(近畿・その他住宅)というコメントもみられ、富裕層はより購入に積極的なようだ。

企業動向関連 では、製造業(前月差+3.5ポイント)、非製造業(同+4.3ポイント)とも大幅に改善した。コメントをみると、「人手不足の影響により省力化を進めようという動きが強まっており、生産効率改善のための設備需要などが増えてきている」(北海道・その他非製造業[鋼材卸売])や「主要客の新製品販売が好調で、客の完成品生産拠点は1工場生産から2工場生産体制となっている」(中国・輸送用機械器具製造業)など、設備投資や受注は引き続き活発のようだ。一方、「過去数か月は製品出荷が好調で、取引先からは、今後も生産は好調を維持できるとの連絡を受けている。ただし、化学品の原料価格上昇により、利益はあまり増加しない」(近畿・化学工業)など、受注の増加が利益に結び付かないといったコメントもみられる。ただし、「原材料の値上がり分の製品価格への転嫁も徐々に進み、販売量も多少増加しており、景気はやや良くなっている」(東海・パルプ・紙・紙加工品製造業)や、「一部の受注に関して、大手からの価格提示に対して価格交渉ができるようになった」(九州・電気機械器具製造業)など価格転嫁に向けた動きもみられる。また、「好調な受注が続いており、なかには断る案件もある。人手不足により製造できないことが原因の1つであることから、動向を注意深くみていく必要がある」(東北・金属製品製造業)や「仕事の受注は順調であるが、警備員不足により、思うように受注できない。単価を上げることで業況は改善している」(南関東・その他サービス業[警備])など人員が足りず、旺盛な受注に対応できないケースもあるようだ。

雇用関連 では、「求人件数が増加しているが、求職者は少ない上、職種のミスマッチによって採用は増えない」(北関東・職業安定所)など求職者が少なく求人の職種にも偏りがあり、ミスマッチが起きていると指摘するコメントが目立った。一方、「人手不足だが人材が集まらないため、求人を諦める事業所が増えている。一方で、正社員化や制度、待遇の見直しなど、現在いる従業員を定着させるための動きが出てきている」(北海道・求人情報誌製作会社)や、「派遣している非正規社員の中で、正社員としての就職が決まったといって契約途中で辞める者が数人いた。派遣社員の中にも、正社員を目指したいという理由で契約を更新しないスタッフが徐々に出てきている。正社員の求人が増えている」(九州・人材派遣会社)など、人手不足が深刻化する中、企業側は従業員の処遇改善に取り組み、労働者側もより良い条件を求めて転職活動を行っているようだ。

景気の先行き判断DI(季節調整値):家計・企業・雇用関連の全分野で大幅に改善

先行き判断DI(季節調整値)は54.9(前月差+3.9ポイント)と2ヵ月ぶりに改善した。DIは、2013年12月の56.7以来3年10ヵ月ぶりの高水準となった。DIの内訳をみると、企業動向関連(前月差+3.4ポイント)、雇用関連(同+3.1ポイント)だけでなく、現状判断では大きく落ち込んだ家計動向関連(同+4.2ポイント)も大幅に改善しており、景況感の回復は全分野に広がっている。

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家計動向関連 では、「年末年始にかけて北朝鮮情勢が緊迫化することが懸念されるため、外国人観光客の客離れを心配している」(北海道・観光型ホテル)など北朝鮮情勢を不安視するコメントがみられたが、「株価が良い状態であり、富裕層がお金を使う機会が増えるのではないか。この先3か月も現在の良い状態が続くとみている」(東北・一般小売店[医薬品])や「株価の上昇に連動して、高額品の動きが良くなってきたことが、肌で感じられるようになっている」(近畿・百貨店)など株高による資産効果に期待するコメントも目立った。

企業動向関連 では、「中国から輸入する原材料価格が上昇の見込みであるため、収益面に影響を与えそうである。製品への価格転嫁は難しく、厳しさが増していく」(中国・金属製品製造業)などコスト増加を懸念するコメントがあったが、「売上や単価が少しずつ上向いてきており、1年前に比べれば明らかに利益が改善してきている。客も価格重視から内容重視に少しずつ変わってきている」(北海道・コピーサービス業)など、徐々に商品価値に見合った価格への値上げも進んでいるようだ。一方、輸送業では、「年末を控え、徐々に件数、物量も増えてくると期待したいが、今のところは感じられない。人材確保のための募集費や給与、燃料費等の上昇による収益悪化など、先行きが心配である」(南関東・輸送業)といったコメントが多く、労働力不足や燃料費の上昇などを受けて先行きに対する不安が広がっている。

雇用関連 では、「年末へ向けて求人数は引き続き増加するが、求職者の動きが鈍く、傾向は変わらない」(九州・職業安定所)や「求人は増加傾向で、求職者は減少傾向にあることから、今後も求人倍率は上昇すると見込まれる」(甲信越・職業安定所)など、引き続き労働需給の逼迫した状況が続くとするコメントが目立った。

景況感は、企業動向関連や雇用関連で一段と改善している。企業の受注は、好調なだけでなく、価格転嫁の動きも広がりがみられる。雇用に関しても、人手不足は依然として一部の業種で深刻だが、安定した雇用を確保しようと正社員の求人も増えている。家計動向関連も、台風の影響が剥落した先行きについては大幅な改善をみせており、今後も景況感は好調を維持しそうだ。

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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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