貸出動向: 3ヵ月連続で鈍化

11月9日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、10月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.79%と前月(同2.97%)から低下した(図表1)。水準としてはまだ高いものの、伸び率の低下は3ヵ月連続となった。都銀等の伸び率が前年比2.0%(前月は2.3%)と引き続き大きく低下したうえ、地銀(第2地銀を含む)の伸び率も3.5%(前月は3.6%)とやや低下した(図表2)。主に前年にあったM&A資金など大口貸出の反動が出ているようだが、金融庁から問題視されたアパートローンやカードローンで自粛の動きが出ていることも一部影響している可能性がある。

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次に、為替変動等の影響を調整した実勢である「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)(1)を見ると、直近判明分である9月の伸び率は前年比2.82%と8月の3.08%から低下している。8月から9月にかけてのドル円レートの円安幅(前年比)は8.5%で横ばいであったため、見た目(特殊要因調整前)の銀行貸出の伸び率低下(8月3.24%→9月2.97%)に沿った動きとなった。昨年後半以降、見た目の伸び率上昇に作用してきた円安による押し上げ効果は一服している。

10月の「特殊要因調整後」伸び率は未判明だが、10月におけるドル円レートの円安幅(前年比)は8.8%と9月から若干拡大した(図表4)。円安は外貨建て貸出の円換算額を押し上げることで見た目の伸び率を押し上げる。9月から10月にかけての円安による押し上げ幅は若干拡大したと考えられる。従って、10月の特殊要因調整後の伸び率は、見た目の伸び率の低下幅(0.18%)より若干大きめに低下したと考えられ、前年比2.6%程度になったと推測される。

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1)特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは9月分まで。
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主要銀行貸出動向アンケート調査: 企業・個人向け資金需要の増勢強まる

日銀が10月23日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2017年7-9月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は6と前回(4-6月期)の3から上昇した。同D.I.は長らくプラスが続いており、従来から「増加」が優勢な状況であったが、今回は増勢が強まったとの実感が示されている(図表5)。

企業規模別では、中小企業向けが8(前回は7)と小幅に上昇したほか、前回はマイナス(「減少」が優勢)であった大企業向けも2(前回は-4)とプラス(「増加」が優勢)へと転じた(図表6)。業種別でも、幅広く上昇がみられる。

資金需要が増加したとする先に、その要因を尋ねた問いでは、大企業については「売上の増加」、中小企業については「売上の増加」、「手許資金の積み増し」、「貸出金利の低下」を挙げた先が最も多かった。

個人向け資金需要判断D.I.も8と、前回の2から上昇した(図表5)。消費者ローンは低下(前回6→今回3)したものの、主力の住宅ローンが5と前回の0から上昇した。
個人向けD.I.は、前回資金需要に一服感がみられたが、今回再び増勢が強まった形となっている。

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今後3ヵ月の資金需要については、企業向けD.I.が3、個人向けが2となっている。どちらも銀行全体では、引き続き緩やかに増加するとの見立てになっているが、今後増勢が強まることは見込まれていない(図表5)。

マネタリーベース: 今年の増加ペースは昨年の2/3に

11月2日に発表された10月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は14.5%と、前月(同15.6%)から低下した。伸び率の低下は2ヵ月連続。内訳のうち、日銀当座預金の伸び率が前年比17.7%と前月(19.3%)から低下したことが原因である(図表7・8)。

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一方、10月末のマネタリーベース残高は477兆円となり、引き続き過去最高を更新したが、前月末からの増加幅は2.0兆円(前月は5.5兆円)に留まった。また、季節性を除外した季節調整済みの月中平均残高ベースでも、前月比2.7兆円増と前月(4.8兆円増)からペースダウンしている(図表9)。

なお、今年1月から10月までの平均(季節調整済み月中平均残高ベース)でも、月間増加額は4.4兆円増に留まり、昨年の同時期における平均6.5兆円のおよそ2/3のペースに減速している。マネタリーベース(末残)の前年比増加額を見ても、59.0兆円と2013年9月以来の小幅に留まっている。日銀の国債買入れペースが縮小していることが、マネタリーベース増加ペースの鈍化という形で現れている。

今後についても、引き続き日銀の大量国債買入れによって市中に残存する国債残高が減少に向かうため、日銀の国債買入れペースはさらに縮小に向かうとみられ、マネタリーベースの増加ペースも緩やかに鈍化していくと考えられる。

マネーストック: 投資信託の前年割れが継続

11月10日に発表された10月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比4.1%(前月改定値は4.0%)と前月からやや上昇、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率も同3.5%(前月は3.4%)とやや上昇した(図表10)。それぞれ、比較的高い伸びを維持しており、引き続き高水準の経常黒字や貸出増加が寄与しているとみられる。

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M3の内訳を見ると、預金通貨(普通預金など)の伸び率は前年比7.9%(前月改定値は8.1%)と低下したものの(図表10)、現金通貨の伸び率が前年比4.8%(前月は4.7%)と上昇したほか、準通貨(定期預金など、前月改定値▲1.3%→当月▲1.1%)、CD(前月改定値▲0.6%→当月▲0.1%)の伸び率がマイナス幅を縮小し、M3の伸び率上昇に寄与した(図表11)。

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また、M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比4.0%(前月は3.8%)と上昇し、2015年8月以来の高い伸びとなった(図表10)。伸び率の拡大は12ヶ月連続となる。

内訳では、残高規模の大きい金銭の信託(前月7.1%→当月8.0%)が引き続きプラス幅を拡大し、従来同様、広義流動性の伸びを牽引している(図表12)。また、円安を背景として外債(前月15.8%→当月17.3%)の伸びも引き続き上昇した。一方、家計が大半を保有し、注目度の高い投資信託(元本ベース)の伸び(前月改定値▲0.9%→当月▲1.1%)はマイナス幅を拡大。3ヵ月連続の前年割れとなった。

投資信託の低迷については、金融庁の批判を受けて、かつての大ヒット商品であった毎月分配型投信が販売自粛されていることや、株価上昇に伴う利益確定売りの影響もあるが、基本的には盛り上がりを欠く家計の投資マインドを反映したものと考えられる。一方で、家計保有の預金通貨(普通預金など)は統計開始以来の高い伸び(9月時点で前年比7.5%)となっており、「貯蓄から投資へ」の動きは確認できない。

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上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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