2017年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比6.9%増(1)と、前期の同6.7%増から若干上昇し、市場予想(2)(同6.6%増)を上回った(図表1)。

フィリピンGDP
(画像=PIXTA)

7-9月期の海外からの純所得(*3)は同5.7%増(前期:同7.0%増)と低下して、国民総所得(GNI)も同6.7%増(前期:同6.8%増)と若干低下した。

需要項目別では、主に政府消費の拡大と純輸出の増加が成長率を押し上げた。

民間消費は前年同期比4.5%増(前期:同5.9%増)と低下した。民間消費の内訳を見ると、通信(同6.3%増)と家具・住宅設備(同10.7%増)、レストラン・ホテル(同10.4%増)が好調だったものの、シェアの大きい食料・飲料(同3.4%増)や住宅・水道光熱(同5.4%増)、交通(同0.7%増)がそれぞれ鈍化して消費全体を押し下げた。

政府消費は同8.3%増と、予算執行が加速した前期(同7.1%増)に好調を維持した。

総固定資本形成は同7.1%増と、堅調な拡大ながら前期の同9.4%増から低下した。まず設備投資は同8.3%増(前期:同8.8%増)と鈍化した。設備投資の内訳を見ると、産業用特殊機械(同13.8%増)と一般産業用機械(同11.0%増)が上昇した一方、輸送用機器(同3.3%増)が1年半ぶりの一桁台まで低下した。また建設投資も同2.8%増(前期:同7.6%増)と鈍化した。公共建設投資(同12.6%増)と高水準を維持する一方、民間建設投資(同2.8%増)と低下した(図表2)。

純輸出については、まず輸出が同17.2%増(前期:同20.4%増)と小幅に低下したものの、高水準を維持した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出が同16.0%増(前期:同11.0%増)と、主力のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業を中心に好調だったほか、財輸出も同17.4%増(前期:同23.5%増)と主力の半導体や計算機を中心に高水準を維持した。一方、輸入も同13.9%増(前期:同18.7%増)と二桁増を記録した結果、純輸出の成長率への寄与度は+1.2%ポイントと、前期の▲0.1%ポイントからプラスに転じた。

フィリピンGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

供給項目別に見ると、第二次産業と第三次産業の改善が成長率上昇に繋がった(図表3)。

GDPの約6割を占める第三次産業は同7.1%増(前期: 同6.3%増)と3期ぶりに上昇した。運輸・通信(同3.9%増)が伸び悩んだものの、商業(同6.8%増)や金融(同8.6%増)、不動産・事業活動(同7.7%増)、行政・国防(同8.2%増)が堅調に拡大した。

第二次産業は同7.5%増(前期: 同7.4%増)と小幅に上昇した。製造業(同9.4%増)がラジオ、テレビ・通信機器や化学製品、家具・備品を中心に好調だったほか、鉱業・採石業(同4.6%増)もニッケルや原油・天然ガス、採石、粘土・砂を中心に2期連続のプラスを維持した。一方、建設業(同3.8%増)と電気・ガス・水供給業(同3.3%増)は伸び悩んだ。

第一次産業は前年同期比2.5%増と、天候に恵まれて好調だった前期の 同6.3%増から低下した。農業(同3.9%増)がトウモロコシの生産減によって緩やかな伸びに止まったほか、水産業(同2.6%減)と林業(同22.2%増)が低迷した。

7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は9期連続で6%を上回る高成長が続いている。大統領選挙の関連需要で押し上げられていた昨年同期からの反動減によって成長率が伸び悩んでいたものの、7-9月期の成長率は前年同期比6.9%増となり、成長率が上方修正された4-6月期の同6.7%増を上回った。景気は力強さを取り戻しつつある。

7-9月期は政府の予算執行の改善によって政府消費と公共建設投資が加速したほか、財・サービス輸出の好調が景気を押し上げた。今後もドゥテルテ政権が掲げるインフラ投資計画「ビルド・ビルド・ビルド」の着手(*4)によってインフラ整備が進展すると共に、海外経済の緩やかな景気回復を背景に輸出の拡大傾向も続くものと見込まれ、フィリピン経済は堅調な拡大が見込まれる。また政府支出も11月のASEANサミット開催を背景に10-12月期も高い伸びを維持しそうだ。

フィリピンGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、GDPの約7割を占める個人消費は昨年こそ7%成長で景気の牽引役となっていたが、今年上半期は5%台に低下、そして7-9月期は2011年以来の4%台の伸びまで減速している。年初の就業者数の減少やペソ安に伴う輸入インフレ(図表4)、海外出稼ぎ労働者からの送金額(ペソベース)の一時的な落ち込み(*5)により、家計の購買力が低下したことが影響したものとみられる。昨年まで景気の牽引役であった民間消費の鈍化傾向には懸念が残るが、消費者信頼感指数は依然として楽観圏で推移しており、潜在的な消費需要が減退しているとは考えにくい。また政府主導のインフラ整備計画が進展するなかで、雇用環境の改善や民間投資への波及も見込まれる。民間消費は徐々に持ち直しに向かうだろう。民間部門が回復すれば7%台の成長が続く可能性が高まる。

政府は来年、税制改革の一環としてタックスアムネスティ(税務恩赦)を実施する構えを示している。税収の見込み額は60億ペソと大きくないが、徴税能力向上を通じた長期的な税収の増加が期待される。またドゥテルテ大統領は、外交を通じて中国や日本からインフラ事業への手厚い支援を獲得している。6年間で8兆ペソもの巨額のインフラ整備計画を成功させるためには、こうした財源調達の取組みが欠かせない。ドゥテルテ政権は実行力の高さに対する国民の期待に応えられるか、フィリピンの動向から目が離せない。

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(1)11月16日、国家統計調整委員会(NSCB)が国内総生産(GDP)統計を公表。前期比(季節調整値)は1.3%増と前期の同2.0%増から低下した。
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2)Bloomberg調査
(3)フィリピンは海外の出稼ぎ労働者が多い。国内への仕送りは海外からの純所得として計上され、消費に大きな影響を及ぼす。
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4)ドゥテルテ政権の経済政策の主軸である「ビルド・ビルド・ビルド」では、首都圏を横断する南北通金銭、首都圏の地下鉄、ミンダナオ地方の鉄道などの大型案件を含み、インフレ関連支出を17年の5.3%から22年までに同7.4%へ拡大することを掲げている。
(*5)サウジアラビアにおける恩赦プログラム(4月、9月に実施)によって不法移住労働者のフィリピン人が帰国した影響と見られる。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員 http://www.nli-research.co.jp/

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