なんとなく知っている方も多いでしょうが、まずは「IPO(Initial Public Offering)」とはどんなものかを正確に理解しましょう。そして、どのように購入するのかなど、IPO株による利益享受の具体的な方法を知っていきましょう。
(本記事は、西堀 敬氏の著書『改訂版 IPO投資の基本と儲け方ズバリ!』=すばる舎、2017年10月14日=の中から一部を抜粋・編集しています)
【関連記事 『改訂版 IPO投資の基本と儲け方ズバリ!』より】
・(2) IPO投資・銘柄選びで見るべきところはどこ?
・(3) IPO投資、初値が伸びる傾向にある銘柄とは?
投資家が株を買えるようにするIPO
それでは、具体的にIPO株への投資法を紹介していく前に、まずはそもそもIPOとはどんなものなのかをおさらいしていきましょう。
すでに知っている、という方もいるかもしれませんが、IPO投資ではとかく株価の値動きばかりがクローズアップされがちです。ここで、基本をしっかりと押さえておいてください。
IPO(Initial Public Offering)は、日本語では「株式公開」と訳されます。
これは、上場していない会社の株を株式市場で売買できるようにすることをいいます。
国税庁「会社標本調査(平成27年)」によると、日本には約249万社も株式会社があるそうです。これは日本の会社の94.3%を占めます。
そのうち、株式市場に上場している会社はわずかに約4000社。全体の1%にも満たないのです。
しかしその1%は、比較的大企業であったり、業界のトップを走る企業だったりします。
上場には一定の会社の規模が求められます。
IPO株が買えるようになるまでの流れ
会社がIPOを行い上場するには、まず証券会社による事前審査を受けます。
次に、その会社が上場するのに適した会社かを、証券会社が正式にチェックします。このチェックは、その会社の株の上場事務を取り扱う主幹事証券会社が中心となって行います。
この審査で問題がなければ、証券取引所に上場申請をし、今度は証券取引所が審査を行います。そしてここでも問題がなければ、上場が承認されるという順番です。
上場日は、上場が承認されてから約1カ月後となります。
投資家が「今度、この会社の株が上場するから、IPOで買えるようになる」と知ることができるのは、この段階です。
IPO株を引き受ける主幹事証券会社・幹事証券会社では、その株の購入申込を受け付けます。
IPO株をほしい投資家は、株の目論見書に目をとおし、購入手続をします。
とはいえ、申し込んだからといってすべての人が必ずその株を買えるわけではありません。
証券会社によって手続きは少々異なりますが、申し込みが多かった場合には原則として抽選となることが多いようです。
首尾よく抽選に当たったら、購入代金を支払います。あとは上場日を待つだけ。
上場後は、通常の株と同様に取引ができます。
外れてしまうと、残念ながら上場日の前に買うことはできなくなります。
上場は優良会社のお墨付き
会社がIPOを行い、株式市場に上場する一番のメリットは、会社の社会的な信用力のアップでしょう。
「上場し、誰でもその会社の株を売買できるようになったが、すぐに倒産してしまった……」ということが続くと、投資家も安心して投資できなくなってしまいます。
また、業績や財務状態などに間違いやウソがあってはいけません。
それを防ぐために、各証券市場は「経常利益●億円以上」「監査法人の監査を受けていること」など、上場のための厳しい基準を設けています。
上場する会社はこれらの基準をクリアするべく、ときには年単位の時間をかけて準備しているのです。
そうして、晴れて上場した会社は、いうなれば株式市場が「この会社の株はみんなで売買しても大丈夫ですよ」とお墨付きを与えたのと同じような状態といえます。
上場したことで会社の知名度がアップしますので、営業もしやすくなるでしょうし、社員採用も円滑に進むことが考えられます。
また、銀行の融資も受けやすくなるでしょう。信用力のアップは、会社に多くのメリットをもたらすと考えられます。
さらに、新しく株を発行し、株主にそれらを買ってもらうことで、自ら資金を調達することも可能になります。
これによって得た資金は株主資本、つまり自己資金ですから、財務体質を強化することにつながります。
上場にはデメリットもある
このようにお話しすると、上場にはメリットばかりがたくさんあるように思えます。
しかしながら当然、デメリットも存在します。
そのもっとも大きなものは、M&A(企業の合併・買収)の可能性でしょう。
誰もが会社の株を買えるということは、会社が資金力のある他社に買い取られてしまう危険性をはらんでいます。
また、上場している以上、会社の情報は細大漏らさずIR情報などの形で公開しなければなりません。
有価証券報告書などの書類もスケジュールどおりに提出する義務が生まれます。
中には、十分に上場できるほど規模が大きいのに上場していないケースもあります。
株主の意向を気にせず経営を行いたいと考える会社や、資金調達に困っていない会社、M&Aを防止したい会社などは、あえて上場する必要性はないのです。
取引のほとんどは東証経由に
上場している株を売買できる場所が株式市場です。
証券取引所と呼ぶこともあります。
日本の株式市場の歴史は古く、明治時代初期までさかのぼることができます。
戦前に11あった証券取引所は、戦中に日本証券取引所として合併しました。そして戦後、日本証券取引所の解体後に東京・広島・新潟・大阪・神戸・京都・名古屋・福岡・札幌と、新興市場のJASDAQ(ジャスダック)が誕生しました。
この中で現在も運営している証券取引所は、東京・名古屋・福岡・札幌の4つとなっています。
その他の6取引所は、最終的に東京証券取引所に併合、あるいは吸収合併されました。
結果、今では全売買代金の約99.9%が東京証券取引所経由となっています。
東証に一極集中している状態なのです。
アジアで一番の証券取引所を目指す
世界的な証券取引所の再編の動きは、2000年ごろに起こりました。
フランス・オランダ・ベルギーの3カ国の証券取引所が合併して、ユーロネクストという証券取引所が発足。
これを皮切りに、日本でも、2000年に広島・新潟証券取引所、2001年に京都証券取引所がそれぞれ合併・併合されています。
さらに2013年には、当時国内の株取引高第1位だった東京証券取引所(東証)と、第2位だった大阪証券取引所(大証)が合併。
日本取引所グループとして新たなスタートを切りました。
もともと、東証は現物市場、大証はデリバティブ市場を得意としていました。
合併することで互いに補完しあい、取引量を増加させ、アジアで一番の証券取引所になることを目指しています。また、IPOの取り扱い件数を増やしたいとも考えています。
証券取引所「市場」の種類
東証をはじめとする4つの証券取引所の市場には、それぞれいくつか種類があります。
東証には、第1部・第2部・マザーズ・JASDAQ・TOKYOPROMarket(東京プロマーケット)という市場があります。
第1部は、いわゆる大企業が軒を連ねる、東証内でもっとも上場基準の厳しい市場です。
第2部は第1部よりは上場基準が緩やかな市場で、中堅の企業が上場しています。
第1部上場への橋渡しとしての役割も担っています。そして、マザーズやJASDAQは、新興企業向けの比較的上場基準の緩やかな市場です。
TOKYOPROMarketはその名のとおり機関投資家向けの市場で、個人の投資家は取引できません。
なお、名古屋証券取引所には「セントレックス」、福岡証券取引所には「Q-Board」、札幌証券取引所には「アンビシャス」という新興企業向けの市場がそれぞれ用意されています。
また、それとは別に一般向けの市場もあります。
しかし、取引量は東証と比べるとごくわずかです。
以後本書で特に注意書きのない場合には、(TOKYOPROMarket以外の)東証の各市場を指している、と考えていただければと思います。
IPOは景気動向に大きく左右される
単純にいえば、IPOが行われる件数が多ければ多いほど、IPO株の購入のタイミングがやってきます。
本書ではIPO株への投資を考えますので、多いほどよさそうです。では、IPOの件数はどのように推移しているのでしょうか?
IPOの件数は、景気の動向に左右されます。そのことは、1991年のバブル崩壊後の急激な落ち込みを見ていただければおわかりになると思います。
しかしその後回復を見せ、1995年から2007年くらいまでの期間は、おおむね年100社以上がIPOによる上場を果たしていたことがわかります。
2003年ごろまではIPO株の勝率は約6~7割程度となっていました。
長期的に考えるならば、日経平均がバブル崩壊後の最安値7607円に向かって下落していた時期で、IPOでも利益を出しにくい相場だったのです。
しかし、日経平均が底を打った2003年5月ごろから2005年にかけては、相場がいくらか持ち返したこともあり、IPO株にも人気が集まりました。
このころは勝率も9割前後と非常に高くなっていて、初値売りだけでもかなりの確率で利益を手にできていました。
リーマンショックからの回復の兆し
2008年に、アメリカの低所得者向けの住宅ローン関連商品「サブプライム」についての信用不安が広がりました。
そのあおりを受けて、アメリカの投資銀行であるリーマンブラザーズが経営破たんしました。そして、その影響が世界各国に飛び火していきました。
日本もその例に漏れず、持ち直しかけていた景気が再び悪化。
直後の2009年にはIPO件数が19件と、バブル崩壊時よりも少ない状態となってしまいました。
直近数年間では、1995年から2007年までのように、年100社を超えるような年度はまだありません。しかしながら、IPOの件数は緩やかに上昇傾向にあります。
2013年以降はアベノミクスで日本の株式市場の回復が鮮明になり、初値騰落率も上昇、勝率も80%以上で推移しています。
2017年以降も増加基調は続きそう
アベノミクスが始まって以降、もっともIPOの件数が増えたのは2015年の92社でした。2016年には少し減って83社となりましたが、2017年は復調して80~90社のレンジとなりそうです。
この先、東京オリンピックに向けて、2015年の日本郵政グループのような超大型IPOは少なくなると考えられますが、このまま株式市場の環境が良好に推移するなら、中小型株を中心に、IPOの件数は年間90社前後で推移すると考えられています。
特にFinTec(フィンテック)やAI、IoT(モノのインターネット)、クラウド関連など、広義のIT銘柄のIPOは続伸するでしょう。
東京オリンピックが開催される2020年には、日本経済も当面の絶頂期を迎え、再び年100社以上のIPOが行われるようになるかもしれません。
IPOといえば「寄り天」だと考える方も少なくないと思います。
寄り天とは、「寄り付きが天井」の意味。つまり、IPO株の初値が付いたところが一番高値だから、すぐに売って利益確定をしてしまおうということです。
証券取引所がゴーサインを出す
そもそも、「IPOが行われます」という情報は、いつ出されるのでしょうか。
会社がIPOを行って上場するには、証券会社と証券取引所が審査を行い問題がないことを確認する手順が必要です。
もちろんどのような大型の銘柄でも、例えば国が株主になっているような日本郵政グループ(6178・東1)や九州旅客鉄道(9142・東1、以下JR九州)のような銘柄でも、それは例外ではありません。
超大型株や新興分野の著名な大企業であれば、上場の申請をすること自体がニュースになり広く報じられます。しかし、これは例外だといえます。
有名ではない企業の場合は、上場の申請自体がニュースになることは少ないようです。では、いつIPOがわかるかというと、証券取引所の審査終了後です。
証券取引所が出す、上場してもいいというゴーサインを「上場承認」といいます。この上場承認が出たことは、インターネットの経済ニュースや新聞などで必ず報じられます。
上場承認後にも動きがたくさん
IPO株が上場承認されてから実際に上場するまでの流れを、もう少し詳しく確認しておきましょう。
上場承認が降りて上場が決まると、まず仮条件の決定が行われます。
仮条件とは、主幹事証券会社がその会社の財務内容や業績などをもとにして決める株価の参考価格です。
通常、「1200~1400円」といった具合に、一定の幅が提示されます。
次に、仮条件をもとにブックビルディング(需要申告)が行われます。ブックビルディングとは「私は●●円でこの株を△△株買います」と申告することです。この申告の一番多かった株価が公開価格となります。
公開価格はほとんどの場合、仮条件の上限の価格になります。
というのも、抽選の対象になるのは、公開価格以上でブックビルディングした人だけだからです。
従って、ほしいIPO株の場合には、必ず仮条件の上限価格で申し込みましょう。
抽選の結果、当選すればそのIPO株を公開価格で購入できます。
購入する場合には手続きを行い、その代金を入金しておきます。なお、購入を辞退することもできます。
購入の手続きをしておけば、受渡日にIPO株が割り当てられます。
IPO株の購入手数料はタダ
ネット証券でも店舗証券でも、通常、株の売買を行う場合には売買手数料がかかります。
「約定金額10万円までの指値注文は●●円」「約定金額の合計が100万円に達するまでは△△円」などと、注文1回ごと、あるいは一定額ごとの料金体系が提示されています。
しかし、IPO株の購入には手数料がかかりません。
ブックビルディングの申し込みも無料ですから、投資家としては「これから値上がりするであろう株を、手数料無料で手に入れられるなんてラッキー」などと思ってしまいそうです。
しかし、これにはそれなりの理由があります。
実は、IPO株の手数料は、すでに公開価格の中に含まれています。
株を発行する会社が、証券会社に株を引き受けてもらう際の値段を引受価額といいます。
そして証券会社は、引き受けた株を公開価格で販売します。
引受価額と公開価格の間には、通常4~8%程度の差が設けてあります。この両者の差額こそが、証券会社の手数料となるのです。
証券会社も利益を出したい
例えば、2017年3月22日に東証1部に上場したマクロミル(3978)の仮条件は1900~2100円で、公開価格は1950円になりました。それに対し、引受価額は1867.78円となっています。
100株単位で売買されますので、単純計算で1単元売れるたびに8222円の手数料が証券会社に入る計算になります。いい商売です。
また、同月に上場したスシローグローバルホールディングス(3563・東1)の仮条件は3600~3900円で、こちらは公開価格が下限の3600円となりました。一方、引受価額は3433.95円でした。
こちらも単元株は100株なので、1単元当たり1万6605円の手数料を得たことになります。たとえ公開価格が仮条件の下限となっても、証券会社はきちんと儲かるしくみになっているのです。
なお、手に入れたIPO株を売るときには、通常の売買手数料が適用されますので、注意してください。
仮条件はヒアリングをもとに決める
IPO株の公開価格を決めるため、ほとんどすべての場合にブックビルディングが用いられています。
ここではブックビルディング前後の動きを詳しく見ていくことにしましょう。まずはブックビルディング前です。
証券取引所から上場承認が降りると、その翌日から会社の幹部などが中心となって機関投資家のもとを訪ね、「ロードショー」と呼ばれる個別面談を行います。
ここでは、会社の目論見書を用いて事業内容などを機関投資家に説明します。その上で、株価の評価に詳しい機関投資家たちに、株価の妥当なレンジについてのヒアリングを行います。
その後に主幹事証券会社が機関投資家に対し、発行条件などのヒアリングを行います。
およそ2週間前後で数十社を回り、出てきた株価のレンジを平均して算出した株価が仮条件です。
こうして出てきた仮条件の幅の中で、今度は一般の投資家たちが「私は●●円でこの株を△△株買います」と申告することをブックビルディングと呼んでいるのです。
このブックビルディングは仮条件を公開した翌日から1週間程度は続きます。そしてブックビルディング後、寄せられた結果をもとにして、公開価格を決めていくというわけです。
ネット証券と店舗証券では取得までの流れが違う
ブックビルディングが終わって公開価格が決まっても、最終的にその株が買えるかどうかはわかりません。というのも、そのあとに抽選が行われるからです。
証券会社には大きく分けて、インターネット上でのみ取引をするネット証券と、実際に店舗を構える店舗証券の2つがあります。
ネット証券の場合は、ブックビルディングに参加し、公開価格が決まってから改めて購入の申し込みを行います。
その後、抽選が行われ、晴れて当選した場合にはじめて購入できます。
抽選のしくみも、ネット証券によって違います。
完全に公平な抽選にしている証券会社が多いようですが、中にはIPOに申し込むたびに付与されるポイントが多いほど当選しやすくなる証券会社や、IPOではなく通常の株取引を一定以上していると当選確率が上がる証券会社もあります。
一方、店舗証券では、担当の営業マンがある程度自由にできる株を持っているといいます。これを担当のお客さんに割り振って、期日までに購入代金を受け取れば買えることになります。
やや極端ないいかたをすれば、公開価格さえ決まってしまえばブックビルディングもする必要がなく、購入できるかどうかは担当の営業マンとの人間関係しだいとなってくる側面があります。
西堀 敬 (にしぼり・たかし)
「IPO ジャパン」編集長/IPO エバンジェリスト/日本テクニカルアナリスト協会検定会員
1960 年、滋賀県生まれ。大阪市立大学商学部卒。証券会社の国際部と海外現地法人に 10 年勤務。その後、気象情報会社ウェザーニューズの財務部長、米国系Eコマース会社の日本法人 CFO&COO、IR コンサルティング会社取締役を経て、2011 年から日本ビジネスイノベーションの代表取締役を務める。2002 年から 2015 年まで「東京 IPO」編集長、2016 年からは IPO 関連情報の集積度で日本一を誇るサイト「IPO ジャパン」編集長。日本経済新聞、週刊東洋経済、週刊エコノミスト、マネーポスト、日経 CNBC 等の各経済媒体に度々出演。年間数十回を超える IR 説明会、講演、セミナー等も行い、IPO 市場の啓蒙・発展に尽力している。著書に、『No.1 情報サイト〈東京 IPO〉編集長が教える! 「IPO 株」の本当の儲け方』(ソフトバンククリエイティブ)などがある。