IPO銘柄の初値はどのタイミングで、どのようにつくのでしょうか。また、キャピタルゲインを最大化するためには適切なタイミングで売買しなければなりませんが、具体的にIPO銘柄の売買方法とはどのように行うべきかなどを理解していきましょう。
(本記事は、西堀 敬氏の著書『改訂版 IPO投資の基本と儲け方ズバリ!』=すばる舎、2017年10月14日=の中から一部を抜粋・編集しています)
【関連記事 『改訂版 IPO投資の基本と儲け方ズバリ!』より】
・(1) IPO株が買えるようになるまでの流れ
・(3) IPO投資、初値が伸びる傾向にある銘柄とは?
初値はいったいどう決まる?
ブックビルディング後の抽選に当選するのは、運の要素もからんでくるため、なかなか難しいものがあります。
公平な抽選にはさすがに必勝法はありませんから、根気よく申し込もう、としかいえません。
しかし、抽選に外れたものの、その株がどうしてもほしい、ということはあると思います。
その場合は、初値が決まってから取引を行うことになります。
初値とは、ある株が証券取引所に上場したあとにはじめて付く値段のことをいいます。
IPO株の場合、この初値が公開価格の数倍となることもあるため、人気が殺到している状態です。
ただし、必ず数倍になるわけではなく、中には公開価格を下回るケースもあります。
初値が決まるのは、売り注文の数が買い注文の数を上回ったときです。
上場直後、多くの場合はその株を買いたい人が成行の買い注文をこぞって入れているので、しばらくは売買が成立しないのが普通です。
そうすると、初値は付かず、株価が上がっていきます。
しかし、株価が上がれば上がるほど、今度は「この株価なら売ってもいい」という人や「高くなりすぎて買えない」という人が出てきます。
そうして、売り注文の数が買い注文の数をはじめて上回ったときに、初値が付くことになります。
人気のある銘柄の場合、上場日のうちに初値が付かないこともあります。
その場合は、初値が付くのも翌日以降に持ち越されます。
初値が付いたら売買可能
初値が付いたら、あとは通常の銘柄と同じ方法で売買できます。
ただし、上場したての銘柄の値動きは総じて大きいものです。注意して投資する必要があるでしょう。
また、信用取引のうち、制度信用取引は貸借銘柄に指定されるまでできませんが、一般信用取引については上場当日から利用できる証券会社もあります。
上場の際にお世話になる主幹事証券会社
会社が上場を目指すときには、証券会社や公認会計士、監査法人などのアドバイスを参考にしながら進めるのが普通です。
その一連の準備の中で、上場を目指す会社をサポートする証券会社を幹事証券会社といい、その中でも特に幹事証券会社の中心的な役割を担う証券会社を主幹事証券会社といいます。
主幹事証券会社は、上場のための準備作業全体にかかわります。
各市場への上場基準を満たすための資本政策や社内体制についてアドバイスをしたり、各種手続きのサポートをしたり、公募・売出し株の引き受けをしたりするのがその主な仕事です。
また、上場のための公募・売出し等を引き受ける際には、日程どおりに事務手続きを行う役割も担います。
さらに、上場に当たって主幹事証券会社は、取引所に対して「推薦書」を提出します。
これは、その会社が証券会社の信用を損ねるようなことがないか、事業内容や業績に問題はないかなどをチェックした上で、上場させるべきだと推薦する書類です。これを受けて、証券取引所は上場の審査に入るのです。
引き受けた株はすべて売りたい
上場会社が発行した株は、証券会社が引き受け、投資家に販売していることを紹介しました。
今、IPO株は総じて抽選が行われるほど人気ですが、仮に売れ残ってしまったら、株を広く流通させる目的が達成できないばかりか、証券会社が損失を被る可能性もあります。
そこで、主幹事証券会社と幹事証券会社は、引受シンジケート団(引受シ団・シ団)を結成することがあります。
引受シンジケート団はIPO株の販売力を強めます。そして、万が一売れ残りが出た場合にはそのリスクを分散させます。
引受シンジケート団は、IPO株ごとに証券会社のメンバーが変わります。
IPO株は、どの証券会社でも買えるわけではなく、この引受シンジケート団に加わっている証券会社(または主幹事証券会社・幹事証券会社)でしか基本的に購入できません。
引き受ける株数は証券会社によって異なる
上場するIPO株は、主幹事証券会社・幹事証券会社(または引受シンジケート団)が引き受け、投資家に販売します。
IPO株を購入したい場合は、これらの証券会社に口座を開設している必要があります。
このとき、証券会社によって取り扱い株式数が異なることに注意しておきましょう。
例えば上場に際して100株発行する会社があったとします。そして主幹事証券会社・幹事証券会社の合計が10社だったとします。この場合、「1社10株ずつ配分しよう」とはなりません。
銘柄ごとに大きく異なるのですが、一般的には主幹事証券会社が50~80株程度を引き受けます。
幹事証券会社は、残りの20~50株ほどを分けあうことになります。
主幹事証券会社は、多くの場合大手の店舗証券が務めています。
主幹事証券会社のほうが割り当て株数が多いのですから、これらの証券会社に口座を開けばチャンスが多くあるように思えます。
IPO株取引の口座を開こう
ここまでお読みになって、「よし、IPO株に挑戦するぞ」と思っても、証券会社に口座を持っていなければ、そもそも購入することができません。
本章の最後に、証券口座の開き方について簡単にお話ししておきましょう。
とはいえ、IPO専用の口座があるわけではなく、ほとんどの証券会社では一般取引用の口座でIPO株を購入できます。
証券会社の口座は多くの場合、インターネット経由で簡単に開けます(一部の店舗証券では来店が必要なところもあります)。
パソコンなどで証券会社のサイトを開き、「口座開設」などのボタンをクリックすると、必要事項の記入欄が表示されます。
住所、氏名、電話番号、メールアドレスなどを入力してデータを送信すると、追って口座開設申込書が郵送されてきます。
内容を確認して署名・捺印し、本人確認書類(住民票、健康保険証、運転免許証、マイナンバーなどのコピー)と一緒に返送します。
証券会社側で口座開設の審査が行われたあと、問題がなければ開設が完了します。
店舗証券の場合は口座開設完了のお知らせと一緒に証券会社のカードが届きます。 このカードは証券会社のATMや銀行・コンビニなどで入出金をする際に必要になります。
店舗証券とネット証券の違いに注意
一般的に、店舗証券では店舗の担当者による投資のアドバイスを受けることができます。
担当者からは個別の銘柄情報や経済情勢などを教えてもらえるため、情報をよく吟味して取引ができます。
しかし、株の売買手数料はネット証券よりも割高です。
IPO株の購入時には直接関係ありませんが、売却時や普段の売買の際には相応の手数料がかかります。
また、証券会社によっては、所定の口座管理手数料などがかかることもあります。
ネット証券は店舗証券に比べると売買手数料が割安で、口座管理手数料もほとんどの場合かかりません。
しかし、投資に関する情報は、自分で収集するのが基本です。
常に新鮮にしておきたいIPO株情報
「ある会社がIPOします」という告知がなされるのは、証券取引所が会社の上場承認を行ったときです。
そこからブックビルディングや抽選などを経て、約1カ月後にIPOとなります。
そんなIPOの情報は各メディアに掲載されますが、最新の公開情報といってもおおよそ1カ月前までのものしかわかりません。
さらに、新規公開が公表されたあとにも、仮条件が決まったり、ブックビルディングの結果がわかったり、公開価格が定められたりと、何かと動きがあります。
ですから、IPOの最新情報を集めるのは、印刷・刊行までのタイムラグが大きい書籍や雑誌よりも、即時に更新されるネットのほうが適しているといえるでしょう。
上場に関する正式な資料を見たい場合には、証券取引所の「新規上場会社情報」のページを確認するのが確実です。上場のルールにのっとって、提出資料や公開情報が粛々と更新されていきます。
あるいは手っ取り早く情報の要点をつかみたいならば、Yahoo!ファイナンスや日本経済新聞のウェブサイトなどで十分でしょう。
さらには、筆者が編集長を務める「IPOジャパン」でも、新規上場会社情報や過去のIPO情報などをまとめています。こちらも、よろしければ見てください。
膨大な情報が公開されている
IPOの準備は、一般的なケースでも2年程度かけて行われます。
株を公開するということは、その会社が上場基準を満たしていることを証明することでもあります。
上場に際して、会社は証券会社や証券取引所の上場審査のために、さまざまな資料を提出します。それらの資料をとりまとめたものを、私たちも閲覧できます。
もっとも注目すべき資料は、株式売出届出目論見書です。
新株の発行も同時に行う場合には、新株式発行並びに株式売出届出目論見書という名称になっています(以下、目論見書)。
目論見書は、投資家が投資するかどうかを判断するための情報を提供する書類です。
主に株の募集要項・売出要項・企業の情報・事業や設備の状況・経理状況・株式公開情報などが記載されています。
と、ひとことでいえば短いのですが、これだけで通常は100ページ以上もある専門的な資料です。
普通の人がこれらすべてを読むのは大変なので、本章では次項から、ぜひ目をとおしておいてほしい箇所のみ、かいつまんで説明していきます。
公開されている情報にはほかにも、財務情報をまとめた有価証券報告書、投資判断への影響が大きい情報を適時・適切に公開するコーポレートガバナンス報告書、証券取引所自体が上場会社を紹介する新規上場会社概要などがあります。
どんな会社なのか知っておこう
「IPO株だから初値は上がる」という考え方は、はっきりいって間違いです。
上がることが多いとはいえるかもしれませんが、全戦全勝ではありません。
それであれば、どんな会社なのか、今後も成長が見込めるのかを、事業内容からチェックしてみましょう。
事業内容は、第二部【企業情報】の第1【企業の概況】の3【事業の内容】に記載されています。
ここは会社によって説明が多いところもあれば少ないところもあって、会社のカラーが出ているように思います。みなさんにも、ぜひ会社ごとに見比べてほしいところです。
会社の数字を見ておこう
決算書も、目論見書に添付されています。
第二部【企業情報】の【第5】の1【連結財務諸表等】に子会社なども含めた連結の決算書、2【財務諸表等】に単体の決算書が掲載されています。
決算書は、会社の一定期間(普通は1年間)の成果を表したものです。
主なものに、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書があります。
詳しく説明しようとすると、それだけで本が1冊できるほどですが、以下簡潔に記しておきます。
貸借対照表は、会社の資金をどう集めて、それをどんな資産にして持っているかを表すものです。
会社の資金には、借金(負債)と財産(純資産)があります。
普通は左側に資産を並べ、右側に負債と純資産を並べることで、両者の金額を等しく表示します。一般に、純資産が多いほど、健全な経営をしていると判断できます。
損益計算書は、会社の売上から材料費、人件費、税金などの費用を順に引いて、利益(損失)を計算するものです。
本業の儲けを表す営業利益や、最終的な儲けとなる純利益が黒字かが問われます。
そしてキャッシュフロー計算書は、会社に今ある現金を示すものです。
いくら売上があっても、現金が人の血のように会社の中をめぐっていないと、会社は倒産してしまいます。
営業キャッシュフローがプラスかどうかが、第1のチェックポイントです。
IPO株によって大きく異なる
すでに第2章でお話したとおり、IPO株が上場するときは、まず主幹事証券会社と幹事証券会社(引受シンジケート団)が株を引き受けます。そして、それらを投資家に販売します。
主幹事証券会社をはじめ、引き受ける会社がどこになるかは、IPO株によって大きく異なります。
老舗の店舗証券が主幹事証券会社となっていることが多いようですが、一概にそうとはいいきれません。
主幹事証券会社については、第一部【証券情報】の【募集又は売出しに関する特別記載事項】、引受シンジケート団については同じく第一部【証券情報】の第1【募集要項】の4【株式の引受け】にそれぞれ記載があります。
意外とそれぞれがばらばらのところにあるため、わかりにくいかもしれません。
証券会社別の割り当ての割合は、上場の発表時には決定していません。しかし、主幹事証券会社と、幹事証券会社のメンバーはわかりますので、その中でどこを利用してIPOに申し込むのか、考えておくのがいいでしょう。
主幹事証券会社が必ず有利だとは限りませんので、どこが幹事でもいいように、証券口座は複数持っておくといいと思います。
幸い、ほとんどの場合に口座開設費用や口座維持費用はかかりませんので、あらかじめ複数開設しておきましょう。
目論見書は想定発行価格をチェックする
IPO株の公開価格は、ブックビルディングで決定します。
しかし、そのもととなる仮条件を決めるにも、どのくらいの資金調達をしたいのかの目安がわからないと決めにくい、という問題があります。
そこで、会社は有価証券報告書の作成時に、想定発行価格というIPO株の価格予想を立てます。
この数字をもとに、調達金額がいくらになるかを計算しているのです。
第一部【証券情報】の第1【募集要項】の5【新規発行による手取金の使途】を見てください。
目論見書は株主をチェックする
未上場なら経営者の家族や役員、社員などが多い
株式会社である以上、どの会社も株を発行しています。
ただそれが、未上場会社の場合は証券取引所で取引されていないというだけで、株自体は存在しています。
多くの場合、社長とその家族、役員、社員、そしてベンチャーキャピタルなどが持っていることが多いようです。
以前上場していた会社が、なんらかの理由で上場廃止になってしまった場合は、投資家の中にも株の保有者がいるかもしれません。
第四部【株式公開情報】の第3【株主の状況】には、発表時点での株主が掲載されています。
右に挙げたアズマハウス(3293・JQS)の場合は、大多数の株主の名前の後ろに、社長や社長の配偶者、役員、2親等内の血族などを示す表記があるので、例えば両親や子供などで大部分の株を保有しています。会社や社員持株会なども見えます。
また、所有株式数の欄にカッコ書きで表記されているのは、新株予約権の数です。
新株予約権を行使すれば、将来の株価にかかわらず一定の価格で株を買うことができるようになります。このうち、従業員に配るもののことを、特に「ストックオプション」といいます。
株価がその一定の価格以上になれば、新株予約権で株を手にしたほうが有利となるわけです。
ロックアップの期間に注目
ロックアップとは、IPO前の会社の大株主が、上場直後に株を売ることができないようにする契約のことです。
上場したての、まだ株の流通量が少ない状態で大株主が一気に株を売るようなことが起こると、需要に対して供給過多となって、株価が一気に下落してしまうことも考えられます。
それを防ぐため、90日・180日などと期間を決めて、その間は大株主が株を売買できないようにするのです。
第一部【証券情報】の第2【売出条項】の【募集又は売出しに関する特別記載事項】には、ロックアップの条項が定められています。
前述のアズマハウスの場合、社長一家は上場後90日間、主幹事会社による事前の書面での同意がなければ、同社の株は売却できない、となっています。
また、上場後180日間は、同社の株や新株発行権などを新しく発行しない、という条項も定めています。
ロックアップには解除の条件もあります。
株の売却価格が発行価格の1.5倍以上になった場合や、主幹事証券会社が特別に認めた場合などは、売却の制限がなくなります。
再上場を果たした会社などで、株を手放したいと考える投資家が多ければ、ロックアップの解除後いっせいに売られ、株価が下落する事態も考えられます。
ライブドアショック以後のIPO株離れ
ところが2006年になると、1月にライブドアショックが起こり、新興株は決算数値が不透明であるとして、大きな調整を余儀なくされました。
東証マザーズ指数は2800ポイントから、2年後にはおよそ10分の1の300ポイントにまで下落しました。
さらに2008年のリーマンショックの年には、勝率が40.8%、平均初値騰落率が18%にまで落ち込み、投資家の新興株式市場とIPO株離れが加速しました。
このことが暗示するのは、市場のモメンタム(勢い)が低下すると、新興市場に上場する株式に向かう資金が枯渇するということです。
新興株式市場は個人投資家中心の市場であるため、ボラティリティが高く(値動きの幅が大きく)、かつバリュエーション(投資の価値・経済性)が高い株式を信用取引で買っている人が多いために、株価が下方に一方通行になってしまうと、信用取引の追証づくりのために売り一辺倒になる傾向があります。
このような状態では、公開価格で買って初値で売る戦略さえも機能しなくなるケースがあるので、IPO投資そのものを手控える必要が出てくる場合もある、ということです。
では、市場のモメンタムをどのように測るかですが、これは市場の売買代金の増減トレンドを、しっかりとウォッチしておくことが肝要でしょう。
西堀 敬 (にしぼり・たかし)
「IPO ジャパン」編集長/IPO エバンジェリスト/日本テクニカルアナリスト協会検定会員
1960 年、滋賀県生まれ。大阪市立大学商学部卒。証券会社の国際部と海外現地法人に 10 年勤務。その後、気象情報会社ウェザーニューズの財務部長、米国系Eコマース会社の日本法人 CFO&COO、IR コンサルティング会社取締役を経て、2011 年から日本ビジネスイノベーションの代表取締役を務める。2002 年から 2015 年まで「東京 IPO」編集長、2016 年からは IPO 関連情報の集積度で日本一を誇るサイト「IPO ジャパン」編集長。日本経済新聞、週刊東洋経済、週刊エコノミスト、マネーポスト、日経 CNBC 等の各経済媒体に度々出演。年間数十回を超える IR 説明会、講演、セミナー等も行い、IPO 市場の啓蒙・発展に尽力している。著書に、『No.1 情報サイト〈東京 IPO〉編集長が教える! 「IPO 株」の本当の儲け方』(ソフトバンククリエイティブ)などがある。