株主優待は株の面白さを実感できる魅力のひとつだ。居酒屋のお食事券、テーマパークの割引券、食品の詰め合わせやお酒、カタログギフトなど、お歳暮をもらうような楽しさがある。金銭的なメリットも大きい。株主優待の中には金額に換算すると利回りが1%を超えるものもある。銀行の定期預金よりもはるかにお得だ。

ただし投資である以上最低限の銘柄分析と運用戦略が必要だ。株主優待の基本やよくある疑問、うまい使い方や注意事項について、FPが詳しく解説する。

株主優待の受け方の基本

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(写真=PIXTA)

株主優待を受けるためには特に難しい手続きは必要ない。目当ての企業の株を買う、それだけだ。問題はいつ買うかである。株主優待は株主になれば必ずもらえるのではなく、「この日に保有していた人に権利を与える」という「権利確定日」に株主である必要がある。

では権利確定日に買えばいいかというとそうではない。証券会社に買い付け注文をして株主名簿に名前が記載されるまでに2営業日かかるので、その前日中に買い付ける必要がある。つまり権利確定日の3日前だ。これを「権利付き最終売買日」という。株式ニュースでよく耳にする「権利落ち日」とは、その翌営業日を指す。

この3つの用語は必ず押さえておきたい。

・「権利付き最終売買日」……権利確定日の3営業日前。この日までに現物株式を買付すれば、株主の権利が得られる

・「権利落ち日」……最終売買日の翌営業日。この日に売却しても権利がなくならない

・「権利確定日」……株主権利を得ることができる確定日。この日に買い付けても権利は得られない

たとえば2018年12月末が権利確定日の企業の場合、最後の平日である12月28日が権利確定日、その3営業日前の12月25日が権利付き最終売買日、その翌日の12月26日が権利落ち日である。株主優待の権利が欲しければ、12月25日の取引時間中に現物株式を買い付けする。土日をはさむと3日前が5日前になるので、優待カレンダーは念入りにチェックしておきたい。

株主優待でよくある12の質問

株主優待についてよくある疑問とその解説をまとめた。

Q:権利確定日はどうやって確認する?

A:権利確定日は3月と9月に多いが、企業によって異なる。12月も多いほうだ。

目当ての企業の権利確定日は企業Webサイトや四季報、Yahooファイナンスで調べられる。「12月に権利確定する銘柄は?」のように権利確定日から銘柄を検索したい場合は証券会社のWebサイトが便利だろう。優待の新設や変更に関する情報は東証ウェブサイトの「適時開示情報」で閲覧できる。

Q:優待はいつ送られて来る?

A:企業によるが、だいたい権利確定日から2〜3か月後に届く。

株主総会の決議や発送の手続きがあるためだ。受け取りは普通の宅配と同じように配送業者から受け取ればよい。

Q:最低どのくらいのお金が必要?

A:ここ数年、最低投資金額は低くなってきている。

株式の売買単位を100株に統一するという取組みが全国の証券取引所で進んでいるため、株主優待取得のために必要な株式数も少なくて済むようになった。

たとえば衣料大手の山喜 <3598> は2万円台で自社の買い物券がもらえる。Yahooファイナンスで検索すると10万円以下で権利が得られる銘柄は2019年2月末時点では388社に及ぶ。必ずしも50万円100万円の投資金額が必要なわけではない。

Q:どんな銘柄が人気?

A:食べ物関係が多い。

株主優待のランキングでは外食産業、食品メーカー、飲料メーカーの銘柄が上位を占める。他には家電量販店や総合スーパーなど、一般消費者に身近な企業が人気のようだ。これらの銘柄は権利確定日前に株価が値上がりする傾向がある。

Q:上場企業ならどこでも優待がもらえる?

A:株主優待をおこなっているのは上場企業の3分の1程度。

2019年2月末時点で1508社である。近年は個人投資家を増やしたい思惑から、優待を新設もしくは充実させる企業が増えてきている。

Q:保有株数が多いほど優待も多い?

A:株主優待の内容は企業によってまちまちで、保有株数によって優待の内容や品数が変わるケースもあれば、一定以上はすべて同じというケースもある。

たとえばANAホールディングスは保有株数100株で株主優待割引券を1枚(年間2枚)、200株で2枚(年間4枚)、300株で3枚(年間6枚)と保有数に比例する。一方松屋フーズは最低売買単位の100株以上の株主には一律のお食事券が送られる。

Q:優待品の配送日や配送時間帯は指定できる?

A:基本的に商品そのものを送るタイプの優待品は配送日や配送時間帯の指定はできない。

ただし、カタログギフトやポイントを付与して商品と交換できるタイプの優待であれば、商品を指定する際に希望配送日時を指定できることが多い。

Q:最終売買日の夜間取引で購入しても権利は取れる?

A:できない。

17時以降も取引ができる夜間取引は翌営業日扱いになるため、権利確定日の3日前であっても株主優待の権利を獲得することはできない。

Q:投資信託でも株主優待がもらえる?

A:もらえない。

個別の現物株を保有している必要がある。

Q:ミニ株(単元未満株)でももらえる?

A:基本的にはもらえないが、例外的に単元未満株でも優待品を用意している企業もある。

Q:2つの証券会社で同じ銘柄を保有していれば優待は2倍?

A:証券会社が別でも同一名義の株は合算して計算される。

保有数に比例して優遇されるしくみがなければ優待が2倍になることはない。たとえば100株以上で一律商品券1枚の場合は合計200株でも商品券は1枚しかもらえない。

Q:株主優待はずっともらえる?

A:株主優待の品物や金額の変更、もしくは優待自体の廃止は珍しくない。

株主優待だけを目当てに株を購入したのに期待した優待が受けられず、値下がりして売るに売れないという事態になりうる。東証の適時開示情報や四季報、マネー雑誌、証券会社のWebサイトなどで定期的にチェックしたい。

株主優待で注意すべき「値下がりリスク」

株主優待を買い付けるにあたり個人投資家に注意してもらいたいのが、「優待品にばかり注目して銘柄分析をおろそかにすること」だ。

優待品が魅力的、利回りが良いという理由だけで株を購入しても、株価が値下がりすれば優待で得た利益よりはるかに大きい損失を被ることになる。業績に問題がある企業や不祥事を抱えている企業には要注意だ。株の利益はキャピタルゲイン(値上がり益)とインカムゲイン(配当・優待)で成り立っている。どちらもバランス良く狙えるような銘柄を探したい。

企業業績に問題がなくても権利落ち日には優待銘柄は値下がりしやすい。特に人気の株主優待株は最終売買日に向けて株主優待狙いの投資家の買いが集中しその後売られるため、落差が大きい。

権利落ち後の値下がりリスクに対応するための技としては「つなぎ売り」がある。別名「クロス取引」とも呼ばれる。やり方は意外と簡単で、現物取引で必要な株を買い、信用取引で同じ単元数を空売りする。株価が下がることで現物取引ではマイナスになるが、信用取引でプラスになり相殺されるため、値下がりのリスクが避けられる。

FPがおすすめする優待の上手な使い方

株主優待をうまく活用するために知っておいて欲しい仕組みが2つある。「長期保有制度」と「貸株サービス」だ。

・長期保有制度

企業としては個人投資家にできるだけ長く株を保有してもらいたいと考えている。株主優待や配当を手厚くして買う人が増えても、すぐに売られてしまうのでは意味がない。そこで長期保有の株主を優遇する制度が長期保有制度だ。

どのくらいを長期とするのかは企業によるが、1〜3年以上で優待を上乗せするところが多いようだ。家電量販店ビックカメラは100株保有で2000円相当のお買物券がもらえるが、2年以上保有すると4000円と倍になる。長期保有者に限って優待をおこなう企業もある。精密部品加工のマルマエは6ヵ月以上の保有者にクオカードを贈る制度を新設した。すぐに売り抜けるつもりがないのであれば、せっかくなら長く持つメリットのある銘柄にするのが良い。

・貸株サービス

株式保有のメリットには「売却益」「配当金」「株主優待」があるが、それに「貸株金利」を加えることでより多くのリターンが見込める。貸株とは、証券会社に保有している株を貸し出すことで所定の金利が受け取れる制度だ。利率は0.1%から0.5%が主流だが、中には2%、期間限定で10%などというのもある。

1株1500円の株式を100株保有していると、年間で受け取れる金額は0.1%で150円、0.5%で750円、1%で1500円、10%で1万5000円だ。複数銘柄保有していると合計金額も大きくなる。株を貸すと言っても裏で名義が書き換えられるだけで投資家はほとんど意識することはない。株主優待自動取得サービスを利用すれば通常通り株主優待も受けられる。

ただ、先ほどの長期保有特典のある優待の場合は注意が必要だ。貸株サービスでは優待の権利確定日にもとの名義に一時的に戻す手続きが取られている。そのおかげで投資家は優待が受けられるのだが、長期保有の基準日が優待の権利確定日と異なる場合、継続の扱いとならず上乗せの優待が受けられないおそれがある。

基準日が異なる場合は自身で貸株解除の手続きを取り、また元に戻す作業が必要だ。解除中の金利は支払われないが、それほど手間はかからない。

株主優待を楽しむために

株主優待は個人投資家に大変人気があり、企業も優待制度を拡充させる流れにある。数字だけを追いがちな株式投資において、どのような優待を受けるか想像しながら銘柄選びをするのは楽しい。

ただし、株主優待には意外な落とし穴や誤解が多い。期待したものが手に入らずがっかりするようなことは避けたい。特に初心者は権利落ち後の下落についていけずそのまま塩漬けしがちだ。売るタイミングや損切り価格をあらかじめ決めておくなど、損失を最小限に抑える手立てを講じることが重要である。(篠田わかな、フリーライター)