「怒り」の感情をコントロールして、ストレスを最小限に抑える

疲れリセット術
(画像=The 21 online)

40歳前後になると出てくる「疲れがなかなか取れない」「若い頃のように働けない」という悩み。そんな疲れの大きな要因となるのがストレスだ。最終回のテーマは「ストレスのコントロール」。医師であり、コンサルタントとしても活躍する裴英洙氏に、ストレスの原因ともなる「怒り」をコントロールするアンガーマネジメントについてうかがった。

ムカッとしたときは我慢しなくていい!

40代における心身の変化と対処法について語ってきた本連載も、いよいよ最終回。最後のテーマは、「ストレスのコントロール」です。

ストレスは、第1回でお話しした3つの疲労のうち、心の疲れである「精神的疲労」に当たります。ストレスのない生活を送りたいものですが、ストレスをゼロにすることは不可能であり、また、その原因は人間関係や会社関係に起因することが多いため、すぐに解消することが難しいもの。

しかし、ストレスをゼロにしよう、と思う必要はありません。必要なのは、ストレスを自分でコントロールし、マネジメントしていくことです。

そこで今回は、ストレスの大きな要因ともなる「イライラ」などの「怒り」をコントロールする「アンガーマネジメント」を中心にお話ししましょう。

40代ビジネスマンの毎日はストレスが多く、ときには怒りを抑えられないこともあるでしょう。

「怒り」という感情は、喜びや嬉しさといったポジティブな感情よりも連鎖しやすい性質を持っています。怒りを誰かにぶつけると、ぶつけられた人がその悔しさを別の誰かにぶつける、というように、受け渡されては増幅していく、厄介な感情です。

ではその連鎖を止めるために、自分がグッと我慢をすればよいかというと、それも間違いです。怒りを抑え込むと、限界を超えたときに爆発的な怒りとなって表出するリスクもあります。

ですから、まずは「ムカッとしたときは怒ってもいいのだ」という認識を持つこと。大事なのは、その受け止め方・表わし方です。真正面から受け止め、そのまま感情を出すのではなく、上手に軽減させつつ受け止め、かつ発散する──つまり、怒りを自分でコントロールするのです。

怒りのピークは6秒間。その間を乗り切る!

そのポイントとなるのは「最初の6秒」。

人間の怒りのピークは6秒間と言われます。ですから、この6秒間をうまく乗り切ればいいのです。そのコツは「視点転換」。具体的な方法として、次の3つが挙げられます。

1つ目は、違うことを考えること。人間は同時に2つの異なることを考えることが苦手です。ですから、好きなものを思い出すなど、怒りを別の思考に置き換えるのです。

2つ目は、「~すべき(must)」という考えを捨てること。

怒りは、内心抱いている理想と現実とのズレによって起こります。たとえば「部下はこうあるべき」「上司はこうあるべき」といった思いを強く抱いている人は、それに相反する現実に怒りを覚えやすくなります。

対して、「他者は自分とは違う」と思える人は怒りを増幅させずにすみます。期限を守れない部下にも、考えを頑固に曲げない上司にも、その人なりの価値観や基準があるのだと思えば、怒りよりも「理解しよう」という気持ちを持てるでしょう。

「自分を曲げて相手に譲るなんて損だ」と思われるでしょうか? しかし、実はそうした考え方のほうが損につながります。なぜなら相手を自分の思うように変えることはとても難しく、そこにこだわるかぎりストレスはなくならないからです。

ベストなのは、自分の価値観を保持しつつ、接し方を相手に合わせて変えること。仕事の遅い部下なら指示のレベルを下げる、頭の固い上司なら折衷案をいくつか投げかける、というように相手に合わせた方法を提供していくことで、相手との関係性が変わり、結果的に相手の行動も変わっていくでしょう。

3つ目の視点転換は、「表わし方を変える」こと。怒りの感情をそのまま表わさず、笑いに変える──いわゆる「ネタ化」です。腹の立つことが起きてからの6秒間に「このエピソードを人に聞かせるとしたら?」と考える習慣を持ちましょう。

その出来事を誰かに面白おかしく話す自分を想像すると、「つり銭を間違えられた」「注文と違うものが出てきた」などの怒りのモトが、格好のネタになることに気づくはずです。

「細かいことならともかく、ビジネスシーンでの理不尽な出来事に関しては難しい」という意見もあるでしょう。確かに、努力を評価してもらえなかったり、手柄を横取りされたりすると、笑ってすませる気持ちにはなかなかなれないものです。

しかし、ここで大切なのは中長期的なスパンで考えることです。

手柄を取られたと思う人は、1プロジェクトにつき1評価と思いがちですが、評価や成果は一朝一夕で手に入るものではありません。一時的に手柄を人に譲っても、腐らずに真摯に仕事と向き合っていれば、必ずどこかでリターンが来るでしょう。近視眼的にならず、中長期的に捉えたいところです。

それはストレスの軽減につながるだけでなく、周囲の評価をも変えます。「良い働きをしているのにひけらかさない人」「人に手柄を渡せる器の大きい人」という印象がだんだんと浸透し、最終的に大きな人望を得られるチャンスともいえます。

自分の強みを認識すれば、怒りを制御できるようになる

そして、この中長期的視点に欠かせないのが「自信」です。自分に自信のない人は、良い評価や褒め言葉など、他者からの良い反応を常に求めています。ですから、その時々の評価にとらわれがち。他人を下げることで自分を上げて安心感を得ている人もいます。

そこに陥らないようにするには、自分の強みや個性をきちんと認識し、外ではなく自分の中に答えを見つけることです。

怒りを抱えているときも、怒りのモトとなった外的要因に目を向けるのではなく、「なぜ腹が立つのか」「そこにはどんな心理が働いているのか」などと、自分の内面を深掘りしていくことで、冷静さを取り戻すことができるでしょう。

同時に、自分のことだけでなく、部下や周りの人の個性もきちんと認めてあげることが肝要です。2つ目の視点転換でもお話ししましたが、40代ともなると、頭が固くなり、何事においても「こうあるべき」という「べき論」が増えてくる傾向があります。自分と違う考えもある、という多様性を認めることで、ちょっとしたことで腹が立ったり、ストレスを溜めたりすることが少なくなるでしょう。

また、もし部下に相談を持ちかけられたら、「君と似たケースで、こんな話を聞いたよ」「そんなときは確かに、そう感じてしまうよね」など、一般論に近づけた話し方でアドバイスを。この対処の肝心な点は、主語を「YOU」にしないことにあります。第三者のエピソードとして「THEY」で語ったり、一般論として「WE」で話すことが考えるヒントになります。

上司の立場から選択肢や答えを示したり、「べき論」で返したりしがちですが、部下の悩みを受け止め、結論は本人に出させることが、結果的に自分も多様性を認めるトレーニングになるでしょう。

こうやって周りの多様性を認め、自分の感情をコントロールできるようになることが、ストレスを最小限にする第一歩です。その中でも怒りの感情をコントロールできるようになれば、周りに安心感を与えられる「できるビジネスマン」と言えるでしょう。

裴 英洙(はい・えいしゅ)ハイズ〔株〕代表取締役社長/医師/医学博士/MBA
1972年、奈良県生まれ。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に勤務。医師として働きながら、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネス・スクール)を首席修了。ビジネス・スクール在学中に、医療機関再生コンサルティング会社を設立。現在も医師として臨床業務をしつつ、医療機関経営に関するアドバイスを行なう。著書に、『一流の睡眠「MBA×コンサルタント」の医師が教える快眠戦略』(ダイヤモンド社)など。(取材・構成:林加愛 写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年9月号より)

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