(本記事は、小池修氏の著書『日本一社員が辞めない会社』ぱる出版、2018年3月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【『日本一社員が辞めない会社』シリーズ】
・(1)「日本一社員が辞めない」会社の社長が教える「本当の退職理由」とは?
・(2)社員のやる気も結果も変わる「山分けインセンティブ」の中身とは
・(3)「信頼されないリーダー」がやりがちなコト 社員が辞めない会社づくり4つのポイント
・(4)「高離職率」の介護業でも社員が辞めなくなる「3つのK」とは?
・(5)なぜ「辞めさせたい社員」を継続雇用した方が良いのか?「強い組織」のつくり方
社員のやる気と定着率アップにつながるインセンティブ制度
給料が社員にとって大きな関心事であることは間違いありません。
私がこれまで多くの社員と面談してきた中で、「今の給料で十分満足しています」という社員は少数派で、「できることならたくさん欲しい」と思っている社員のほうが多いのが実情でした。
実際、面と向かって「今の給料では足りないので、給料を上げてほしい」と言ってくる社員もいました。
こうした要望に対して、「できない」と答えていたのでは、社員のモチベーションが下がってしまいます。
そこで当社では、「できる方法」「社員と会社がWin-Winになる方法」を考えるのです。
その一つが、インセンティブ制度です。
これは主に訪問看護ステーションの社員を対象としたもので、基準となる訪問件数を超えた分については報奨金を出すという仕組みです。
介護業界でインセンティブ制度を導入している会社は、まだそれほど多くはないと思いますが、当社は訪問看護ステーションを始めたときからこの制度を導入しています。
この制度を導入したことで、「がんばってもがんばらなくても給料が同じなら、がんばらないほうがいい」というマイナス発想をせずに、「がんばり甲斐があるぞ!」「家族のためにがんばって稼ぐぞ!」と意欲的に考える社員が大多数になりました。
実際、多くの社員がインセンティブを受け取っており、これだけではないですが、これが社員のやる気と定着率のアップの要因の一つになっていることは間違いないといえるでしょう。
チームプレーの組織でもインセンティブ制度の導入は可能!
個々で動く「訪問看護ステーションの社員にはインセンティブ制度は導入できても、チームで動くデイサービスの社員に導入するのは難しいのでは?」と思った人もいるのではないでしょうか。
確かに、訪問看護ステーションは1日の訪問件数という明確な指標があり、かつ個人訪問にかかる部分が多いので、インセンティブ制度が導入しやすい職種です。
一方、デイサービスの仕事は個人ではなくチームプレーなので、インセンティブ制度を導入しにくい職種ではあります。したがって、当社でも最初のころはデイサービスの社員には、インセンティブ制度は導入していませんでした。
しかし、同じ会社の中で差はなるべくなくしていきたいと思い、いろいろ考えた結果、2014年からデイサービスの社員にも状況に応じてインセンティブ制度をテスト導入することにしたのです。
といっても、デイサービスはあくまでチームプレーなので、社員一人一人にインセンティブをつけるわけにはいきません。
そこで、どうしたかというと、求人にも雇用契約にも載せていないのですが、デイサービスの施設全体にがんばりが反映するインセンティブを導入してみることにしたのです(2018年1月現在)。
具体的には、1カ月ごとの売上目標を設定し、それを超えた分については、社員みんなで分けていいというものです。
たとえば、1カ月の売上目標を400万円に設定した場合、450万円の売上を上げることができれば、目標を超えた50万円分はそのデイサービスの社員で山分けしてもいいというものです。
この仕組みを社内では「山分けインセンティブ」と呼んでいます。
もともと志で入社した社員たちでも、ゲーム感覚で取り組んでくれているこの制度。導入する前と後では、社員たちの仕事に対する姿勢と結果が大きく変わりました。
たとえば、以前は利用者さんの新規開拓は「誰かの仕事」にさえ見えたのが、導入後は「自分の仕事」として楽しんでやってくれていますし、利用者さんの当日キャンセル率を下げる工夫も自主的に行ってくれるようになりました。
また、この制度を導入してから、辞める社員が減ったことも事実です。
社員の昇給希望にはできるだけ応えるようにする!?
「給料を上げてほしい」という社員の要望に応えるために、当社で行っているもう一つの方法が個別対応です。
ここだけ聞くとなんだそれという感じですが、これは先ほどのインセンティブ制度のように仕組み化したものでもなく、もちろん、社長が社員の好き嫌いで勝手に上げるのでもありません。また、無条件に上げるものでもありません。
当社の場合は、きちんと社内の人事評価制度に則って上げるようにしています。
たとえば、「あと5万円上げてほしい」と言う社員がいた場合、今の役職のままだと難しいとしても、センター長になれば5万円上がるのであれば、その役職を目指すように指南します。そして、その社員ががんばってその役職になれば、無条件で5万円上がることになります。
また、現状が20万円なのに2倍の40万円欲しいという社員もいます。このような場合、普通に考えると無理なのですが、当社の場合は何とか応えようと努力します。
たとえば、新たに始める事業の責任者になり、当社の目標労働分配率を加味した売上目標をクリアすれば、当たり前に翌月から給料を40万円に給与アップするという具合です。
会社にも大きなメリットがあります。志だけでなく、数字にもこだわる本気のリーダーの誕生です。
要するに、給料アップへの道筋を示してあげるわけですが、この道筋を示せるのと示せないのとでは大きな違いだといえるでしょう。
当社の場合、すべての社員の要望にはまだまだ応えられているとは言えないかもしれませんが、最初から「無理」というのではなく、「こうすれば希望を実現できる」という姿勢を見せることは、社員の定着率とモチベーションのアップには重要な要素であることは間違いありません。
小池修(こいけおさむ)
リハプライム株式会社代表取締役。早稲田大学法学部卒業後、不動産会社の営業マンを経て、上場企業(フィットネスクラブ)の役員まで上りつめる。しかし、2010年、両親がほぼ同時に倒れ、介護が必要になったことを機に2011年4月に埼玉県さいたま市にデイサービスの1号店をオープン。その後、デイサービスのFCを全国展開しつつ、訪問看護ステーションや介護タクシー、福祉用具販売などの事業も次々に展開。さらに2018年1月にはシニア向け美容室を併設したカフェ「茶の間」をオープン。同時に、離職率50%が当たり前の介護業界で、定着率96%を達成し、業界の注目を集めている。