累計50万部を突破するベストセラー作家 ムーギー・キム氏が世界レベルの名医たちに取材をおこない、最強のコンディション作りのための知識を体系化していく。医学博士である、順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科助教の猪俣武範氏が推奨するドライアイ予防法とはどのようなものなのだろうか。(本文、敬体は同氏の発言内容)
(本記事は、ムーギー・キム著書『最強の健康法 ベスト・パフォーマンス編 世界レベルの名医 の「本音」を全部まとめてみた』=SBクリエイティブ、2018年4月30日刊=の中から一部を抜粋・編集しています。)
【『最強の健康法』シリーズ】
・(1)老眼は30代から始まる パフォーマンスを高める「ドライアイ」予防法
・(2)「休日の寝だめ」が体内時計を狂わせる?パフォーマンスをあげる睡眠とは
目の健康は「目を休ませる」ことから
「テレビ、パソコン、スマホの画面から適度に離れる、1分間目を閉じる、などの習慣が眼精疲労に関わる『ドライアイ』の予防に効果的です」
どうしてもスマホやパソコンと向き合う時間が長くなりがちだ。
長時間、近い距離にあるものを見続けると、「目が疲れる」「目が痛い」などといった眼精疲労に悩まされてしまう。眼精疲労は、「加齢によるピントを調節する力の低下」や、「ドライアイ」が要因である。
日本では、約9割の裸眼視力が1.0以下と言われているが、目の健康を維持するための知識を得ることは、重要になってくる。
順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科学教室の猪俣武範氏曰く、「近視、遠視、乱視…さまざまな原因で視力が低下していきますし、皆が老眼を経験するのは避けられません。しかし眼精疲労と視力低下に関わる『ドライアイ』を予防することは、日々の習慣で可能です」
予防法として、猪俣氏が指摘するのは、「時間を区切って目を休ませる」ことの重要性である。「目の疲れ」というのは、不快であるのみならず、仕事の生産性を低下させる。ここで視力低下のメカニズムと、ドライアイを防ぎ、目の健康を守る極意を押さえよう。
「視力低下」の仕組み~網膜にピントが合うのが「正視」
まず、「視力低下」のメカニズムを押さえておこう。
猪俣氏曰く、「物を見るとき、眼球に入る光が最初に通過するのは角膜(黒目の部分)です。角膜は光を屈折させる凸レンズの役割を担っています。
しかし、角膜の形状は変えられないので、屈折率は変化せず、ピント調節はできません。 角膜を通過した光が次に通過するのは水晶体です。水晶体は、光の屈折率が一定な角膜とは異なり、周囲にある毛様体という筋肉の働きで、その厚みを変えることができます。つまり、屈折率を調節することが可能なのです」。
「網膜に映し出される像のピント調整は、角膜と水晶体が行っています。カメラのようにピントがきちんと合って網膜に映し出されているのが『正視』。これが『よく見えている状態』です」
老眼は30代からはじまっている
老眼は、ピントの調節をしている水晶体の調節力が、加齢と共に低下するから起こる。
「こうした視力低下が起こるかどうかには個体差がありますが、自然な老化現象として、『老眼』が万人に訪れます。年をとると筋肉が衰えるのと同様に目の奥の筋肉も衰え、ピントの調整機能(水晶体を調整する筋肉である毛様体)が落ちます。同時に水晶体も、老化と共に固くなります。こうしてピントが合いづらくなり、物が見えにくくなるのが老眼です」
猪俣氏によると、老眼は、30代を境にはじまるそうだ。多くの人が「老眼が出る時期は人によって異なる」と感じているのは、「老眼」と意識するタイミングの違いだという。
「近視」も「乱視」も角膜が鍵を握る
近視では網膜より前で焦点が合ってしまうため、遠くが見えづらい。
反対に遠視では、網膜より後ろで焦点が合ってしまうため、どこにもピントが合わず、近くも遠くも見えづらい。
だが角膜の屈折力は基本的に変わらない。それなのに網膜より手前で結像されたり、奥で結像されたりするのは、目が成長や加齢に伴って伸びたり、縮んだりすることにあるという。
乱視の場合はさらに厄介で、角膜が歪んでいるため、光が入ってくる方向によって屈折の具合が異なる。遠くも近くも見えづらかったり、物がにじんで見えたりブレて見えたりするという。
それでも、なってしまったら?~ライフスタイルに合わせたレンズを選ぼう
とはいえ、低下した視力を根本から回復させる方法はない。手軽なのは、メガネやコンタクトレンズで屈折具合を矯正し、正しい位置で結像させるようにすることである。
メガネやコンタクトレンズを使って暮らすコツは、ライフスタイルに合わせてレンズの度を選ぶことだという。
デスクワークの多い人が、強い度のレンズを選んでしまうと、どうなるだろう?
これだと「遠くを見る用のレンズ」になり、眼精疲労が生じやすくなる。こういう場合は、あえて度が弱めのレンズを選ぶといい、と猪俣氏は語る。
視力矯正手術「レーシック」と「ICL」とは?
近視で物に頼らず見えるようになりたい場合、手術という道もある。
視力矯正の手術といえば、「レーシック」が有名だ。いっとき感染症などがとり沙汰されたが、実績と評判を踏まえて病院を選んでいただきたい。
また、目の中にレンズを入れる「ICL(Implantable Collamer Lens)」という手術もある。レーシック手術とは違ってレンズを直接、目に埋め込む方法なので、強度の近視にも対応できる。
レーシック手術もICLも保険適用外であり、数十万円の費用が必要だが、適切な医師の下で施術を受ければ、視力矯正の選択肢となるだろう。
視力の矯正には、メガネやコンタクトレンズ、レーシックやICLなど、ライフスタイルなどに合わせて、お選び頂きたい。
猪俣武範(いのまた・たけのり)
順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科助教/医学博士/MBA。順天堂大学大学院医学研究科眼科学にて医学博士号取得。ドライアイ指数を測定するアプリ「ドライアイリズム」と花粉症アプリ「アレルサーチ」の研究代表を務める。主著に『働く人のための最強の休息法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。
ムーギー・キム(Moogwi Kim)
INSEAD にてMBA(経営学修士)取得。外資系金融機関の投資銀行部門などでの投資アナリストをした後、アジア一帯のプライベートエクイティファンド投資に従事。フランスなどでの留学を経て、大手バイアウトファンドに勤務。著書『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』 (東洋経済新報社)、『一流の育て方』(ダイヤモンド社)はベストセラー、2018年の近著に『最強の生産性革命』(竹中平蔵氏との共著、PHP 研究所)など。