累計50万部を突破するベストセラー作家 ムーギー・キム氏が世界レベルの名医たちに取材をおこない、最強のコンディション作りのための知識を体系化していく。筑波大学医学医療系および国際統合睡眠医科学研究機構教授である櫻井武氏に、質の良い睡眠に関して聞いてみることにしよう。(本文、敬体は同氏の発言内容)
(本記事は、ムーギー・キム著書『最強の健康法 ベスト・パフォーマンス編 世界レベルの名医 の「本音」を全部まとめてみた』=SBクリエイティブ、2018年4月30日刊=の中から一部を抜粋・編集しています。)
【『最強の健康法』シリーズ】
・(1)老眼は30代から始まる パフォーマンスを高める「ドライアイ」予防法
・(2)「休日の寝だめ」が体内時計を狂わせる?パフォーマンスをあげる睡眠とは
本記事はキム氏が医療分野の名医たちに取材したもので、「」内は筑波大学医学医療系教授の櫻井氏の発言より。
睡眠は「時間」ではなく「質」にこだわろう~寝だめはむしろ逆効果的
・覚醒が次の睡眠の質を左右する~神経回路の組み換えには、十分な睡眠が必要
「よく、睡眠は7時間とることが理想とはいわれますが、体質、つまり遺伝子によって、個々の顔や体型、性格が異なるように、必要な睡眠時間も異なります」
「ただ、程度には個人差があるものの、歳をとるにつれて睡眠時間が少なくなるというのは共通した傾向です。脳の発達段階にある子どもは、それだけ多く神経回路の組み換えをする必要があり、大人よりたくさん眠る必要がありますが、ある程度、成長し、脳が発達しきるにつれて、その必要はどんどん低下していき、睡眠も短くてよくなっていくのです」
「ただ、歳をとると代謝が落ちて太りやすくなったり、老眼になったりしますが、そうなってくる年齢は人によってバラバラですよね。睡眠が短くなっていくスピードも程度も、やはり人それぞれです」
また、櫻井氏は、「睡眠は次の覚醒のためにあり、覚醒は次の睡眠の質を左右する」と語る。
そのココロは、質の高い睡眠をとった翌日はパフォーマンスが上がりやすくなり、より高いパフォーマンスを発揮する活動的な1日を過ごすと、その夜の睡眠の質が高くなるということだという。
「休日に寝だめ」では体内時計に狂いが生じる
「理想は、やはり毎晩、十分な睡眠を確保することです。睡眠が足りないことを『睡眠負債』と呼びますが、まず、その負債がゼロになるような質と量の睡眠をとることです。
この『睡眠負債』を後でまとめて返そう、などというやり方はよくありません。週末の長時間睡眠によって就寝時刻や起床時刻が変わると、夜になると眠くなり、朝になると目が覚めるという自然な睡眠リズムが乱れてしまいます。
すると、睡眠リズムをコントロールしている『体内時計』が乱れ、睡眠の質が下がり、疲れがとれないのです」
ビジネスパーソンは、平日の寝不足を休日に返済してしまいがち。規則正しい睡眠の確保を心がけたい。
日中、しっかり日光を浴びよう~体内時計の正常化が質のよい睡眠の鍵
・睡眠リズムは「朝日」を浴びることで整う~睡眠禁止帯とは?
「人の体は、朝、日光を浴びることで、夜にちゃんと眠くなるように体内時計が整えられます。それが休日に寝だめをしようと昼すぎまで寝ていると、起きて日光を浴びるのが、昼すぎになってしまうのです。この数時間のズレが夜に響き、真夜中になっても眠れない、そして朝には起きられない、という悪循環が生まれてしまいます」
「私たちの体は、夜に強い光を浴びるようには作られていません。それなのに、夜も明かりをともし、寝る直前までテレビやスマホ、パソコンの強い光を浴びている。これは好ましくありません」
1日のどのタイミングで光を浴びるかが、睡眠の質を高めるキーということ。朝に光を浴びれば、夜にはちゃんと眠くなる。ということは、体は「朝から時間がたつにつれて、眠くなっていく」ようにできているのか。
「朝に覚醒し、夜に眠くなるのが正常な生体リズムですが、徐々に眠くなるわけではありません。日中で最も覚醒度が高いのは、実は寝る3時間くらい前なのです。昼食を食べた直後に眠くなる人は多いと思いますが、夕食の直後って、大して眠くならないと思いませんか?」
寝る前の時間帯は、「睡眠禁止帯」と呼ばれる。「明日早いから、早めに寝よう」と思ったものの、寝つけなかった、という経験はないだろうか。これも、無理やり寝ようとしている時間帯が「睡眠禁止帯」だからだ。
「『睡眠禁止帯』も、体内時計でコントロールされています。よく、昔の人は日の出と共に起き、日の入りと共に眠った、なんて言われていますが、文明と隔絶された民族を使った研究では、彼らは夜の11時くらいまで、つまり暗くなってからも起きていたと言われています。つまり、朝の7時くらいに起きれば、夜の11時くらいまでは眠気が起こらない。それが私たちの生体リズムなのです」
快眠グッズは「おまじない」「プラシーボ効果」~気合を入れて寝てはいけない
最近は、アイマスクなどの「快眠グッズ」も見かける。現代人にとって「よく眠りたい」は大きな課題なのだろうが、快眠グッズの効果のほどはどうなのだろう。
この質問に対し、まず櫻井氏は「そもそも睡眠にこだわる人ほど、睡眠に問題を抱えやすい」と指摘する。
睡眠にこだわり、「よし、今日こそ、よく寝てやろう」と意識すればするほど、眠れなくなってしまうのだ。そういう人が、快眠グッズに走るのだろう。
ただし、櫻井氏はそれを一概に否定してはいない。
「快眠グッズは、効果があるという科学的根拠には乏しいものが多いと思いますが、効果は個々の感覚で判断すればいいと思います。『これを使うとよく眠れる気がする』というグッズがあるのなら、それはそれでけっこうなことですね」
「『眠れないのではないか』という不安にかられれば、やはり眠れなくなってしまいます。そういう意味では、おまじない的な効果、プラシーボ効果としての安心感をもたらすものとして、快眠グッズを利用するのもいいでしょう」
科学的根拠はなくても、信じることで安眠できる。「信じる者は報われる」ではないが「信じる者はよく眠れる」のである。
櫻井武(さくらい・たけし)
筑波大学医学医療系および国際統合睡眠医科学研究機構教授。筑波大学大学院医学研究科修了。1998年、覚醒を制御する神経ペプチド「オレキシン」を発見。睡眠研究の第一人者。主著に『睡眠の科学』(講談社)など。
ムーギー・キム(Moogwi Kim)
INSEAD にてMBA(経営学修士)取得。外資系金融機関の投資銀行部門などでの投資アナリストをした後、アジア一帯のプライベートエクイティファンド投資に従事。フランスなどでの留学を経て、大手バイアウトファンドに勤務。著書『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』 (東洋経済新報社)、『一流の育て方』(ダイヤモンド社)はベストセラー、2018年の近著に『最強の生産性革命』(竹中平蔵氏との共著、PHP 研究所)など。