(本記事は、佐藤将之氏の著書『アマゾンのすごいルール』宝島社、2018年4月20日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

アマゾンのすごいルール
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

【『アマゾンのすごいルール』シリーズ】
(1)ジェフ・ベゾスが「1万年動き続ける時計」を作る理由
(2)アマゾン流 優秀な人を獲得する「ブレない面接」とは?
(3)アマゾンの「360度評価」はココが違う!正しくない評価のはじき方
(4)資料で箇条書きはNG アマゾンが「パワポ禁止令」を出した理由
(5)ジェフ・ベゾスが「顧客第一」のために排除する「ソーシャル・コヒージョン」とは?

未来に花を咲かせるために種を植える 誤解を恐れずイノベーションし続けよ

アマゾンの「すごいルール」を知る上で最も重要なこと、それは創業者であるジェフ・ベゾスの基本思考や行動原則を知っておくことだと思います。

なぜなら、アマゾンで働く従業員、すなわちアマゾニアンは、「ベゾスが描く未来のビジョンに共鳴し、そのビジョンを実現したい」と考えている人たちだからです。私ももちろんその1人であり、アマゾンジャパンという会社を離れた今でも、その思いに変わりはありません。

そこで、ベゾスの基本思考や行動原則が端的にわかるトピックスを、いくつか挙げていこうと思います。そのことによって、読者の皆さんに「アマゾンとはどんな会社か?」がイメージとして伝わると思うからです。

まず初めに、時間軸の捉え方について説明しましょう。

入社して以来、さまざまなプレゼンの場でジェフ・ベゾスが語ってきたのは、「種を植えること」の重要性です。私は、15年の在籍期間中、この言葉を何度も耳にしました。

20世紀末の「ドットコム・バブル」崩壊のあおりをうけ、日本でアマゾンジャパンが設立される2000年頃には、米アマゾン・ドットコムの株価は40ドルから一気に2ドル程度まで下落していました。にもかかわらず、ベゾスは設備投資の動きをゆるめるどころか、加速していきました。そのため、この当時は赤字が膨らみ、さまざまな雑誌が「アマゾンはまもなくつぶれる」「アマゾンの経営手段はおかしい」と書き連ねました。ウォールストリートの機関投資家なども辛辣な評価を与えていました。

当時のことを振り返りながら、ベゾスは我々にこんなふうに語りかけました。「その頃、僕は彼らに誤解されてきた。だけれど実際、それはイノベーティブなことをやっていたから、”将来的に花開くもの”に投資していたんだ。あのとき種を植えて、きちんと水をやっていたから、今すべてが花開いている。今、こうして繁栄しているんだ。

だけれど、忘れないでくれ。

あのとき、僕と当時の仲間たちが世間から誤解されるようなイノベーティブなことをやったから、今、花が咲いているということをね。

今、未来のために種を植えなかったら、この花はいつか枯れてしまうよ。

だから、今日もイノベーティブな種を植えよう。未来に花を咲かせるためにね。たとえ、それが今は誤解されるようなことであったとしても」

今の繁栄に満足し、ベンチャーマインドを忘れてはいけない──自戒の意味で、ベゾスはよくこのようなメッセージをアマゾニアンたちに送っていました。

遠い未来から、物事を考える──これはジェフ・ベゾスの素晴らしい才能だと感じています。実際、ベゾスは「ロング・ナウ協会」という協会の時計プロジェクトに関わっています。これは、「1万年動き続ける機械式時計を作ろう」という壮大なプロジェクトで、埋蔵場所として、テキサス州のロッキー山脈の麓に所有する自身の土地を提供しているのです。

常識で考えれば、「100年後だって生きていないのに、1万年後......いったい彼は何をやっているんだ」と言われる話でしょう。

でも、彼には関係ないのです。

1万年時計が、永遠に掘り出されない可能性は当然あります。

でも、ひょっとしたら、遠い未来の人間、あるいは別の生命体が見つけてくれるかもしれない。そして、この1万年時計を通じて「今から1万年も前に、このような技術を持った人類が存在していたんだ」と、私たちの生きた時代に想いを馳せてくれるかもしれない。自分の生きている時代、はるかその先をベゾスは見ているわけです。

はるか遠い未来を見ているのだから、誤解されることは当然あるだろう。でも、そんなことは関係ない。自分たちにできることがあれば、当然それをやる。

本当に自分たちがどこに行くべきか、を考えながら、アマゾニアンたちはビジネスをしています。

佐藤将之(さとうまさゆき)
企業成長支援アドバイザー。セガ・エンタープライゼスを経て、アマゾン ジャパンの立ち上げメンバーとして2000年7月に入社。サプライチェーン、書籍仕入れ部門を経て、2005年よりオペレーション部門にてディレクターとして国内最大級の物流ネットワークの発展に寄与。2016年、同社退社。現在は鮨職人として日本の食文化に携わるとともに、15年超の成長企業での経験を生かし、経営コンサルタントとして企業の成長支援を中心に活動中。ブログhttps://ever-growing.biz