(本記事は、佐藤将之氏の著書『アマゾンのすごいルール』宝島社、2018年4月20日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【『アマゾンのすごいルール』シリーズ】
(1)ジェフ・ベゾスが「1万年動き続ける時計」を作る理由
(2)アマゾン流 優秀な人を獲得する「ブレない面接」とは?
(3)アマゾンの「360度評価」はココが違う!正しくない評価のはじき方
(4)資料で箇条書きはNG アマゾンが「パワポ禁止令」を出した理由
(5)ジェフ・ベゾスが「顧客第一」のために排除する「ソーシャル・コヒージョン」とは?
■価軸の1つは「業績」 もう1つの評価軸は......?
アマゾンでは、年に1回、1~3月頃に、大きな人事評価を行っています。評価軸は、2つあります。
1つの軸は、「業績」です。いわゆる「KPI=Key Performance Indicator(重要業績評価)」を達成しているかどうか。アマゾンでは、KPIを「メトリックス」と呼び、各部門のファイナンスが作成しています。目標が達成できたか否か、数字できちんと管理された評価軸です。
もう1つの軸は、「OLP(リーダーシップ理念)を体現できていたか?」です。リーダーシップ理念に基づく行動を、普段の業務の中でしっかりとできていたかが問われるのです。
・「OLPを体現できていたか?」を360度評価
業績は、毎週通達されるメトリックスの数字と照合され、各自評価されます。こちらは「あらためて評価される」のではなく「1年中随時評価されている」わけです。
一方、「OLPを体現できていたか?」は、「360度評価」によって行われます。
上司からの一方的な評価で、1人のアマゾニアンの査定が決まることは絶対にあり得ません。部下がいるマネージャークラス以上の人間は、部下からも査定されます。
人事評価プロセスは、大きく2段階に分かれます。「部下のいるマネージャーAさん」を例に紹介しましょう。
第1段階は、「上司、本人、同僚、部下からのフィードバック」です。これは「OLPを体現できていたか?」をチェックするのが主目的です。
Aさんの上司は、Aさんの評価を行います。
Aさんは、今期の活動を自己分析して強み・弱みを洗い出し、来期に対する行動指針を上司に提出します。
さらにAさんの上司は、Aさんの同僚3~5名に「Aさんのフィードバックを私に送ってほしい」とお願いをします。同僚とは、同じ部署の人や、他部署であってもAさんとよく仕事をしている人などを指します。
Aさんの部下へのフィードバック依頼は、組織図に基づいてシステムで自動的に送られます。入力がされると自動的に上司に送られます。ですので、Aさんがその内容を目にすることは決してありません。
このようにしてAさんの上司は、Aさん本人、同僚、部下からのフィードバックに自分の評価を加え、「OLPを体現できていたか?」を多角的に判断します。そして、「業績」と併せてAさんの評価を”仮決定”します。
第2段階は、「キャリブレーション」と呼ばれる、整合性をチェックする評価会議です。「組織全体で見て、Aさんへの評価は本当に正しいか?」を検討するわけです。
1つの倉庫にAさんと同じレベルのマネージャーが何人かいるとします。
Aさんの上司が辛口評価をする傾向があり、その他のマネージャーの評価が甘口傾向だとしたら、同じ働きをしても評価に差が出てしまいます。そのような事態になるのを防ぐため、Aさんの上司以上の役職の人間が、Aさんとそれ以外のマネージャーの評価を見比べるのです。
「Aさんの評価はもっと高くあるべきなのでは?」といった疑問が生じると、Aさんに対する同僚や部下からのフィードバックまで立ち戻り、再度検証していきます。
Aさんは倉庫のマネージャーなので、評価会議での比較対象は「自分の倉庫の他のマネージャー」だけにとどまりません。
最終的には「日本の全倉庫のマネージャー」まで横並びで検討するのです。VP(各オーガナイゼ―ションのトップ)などは世界各国に何十人も存在しますが、各国でまず評価会議を行った上で、最終的にはアメリカ本社が何十人を横並びで検討するわけです。
このようなプロセスを毎年行うほど、アマゾンは人事評価を重要視しています。
・「フィードバック」では何を書くのか?
さて、人事評価の第1段階は「上司、本人、同僚、部下からのフィードバック」と書きましたが、フィードバックシートにはいったい何を書くのでしょうか?
「OLP(リーダーシップ理念)」に基づくファクト(事実)を書きます。
例えば、Aさんの上司から「同僚の1人としてAさんのフィードバックを書いてほしい」と依頼されたとしましょう。「Aさんはこういう場面でこういう行動をしたので、リーダーシップ理念を体現できていると思う」といった内容を書くのです。
1人のフィードバックを作成するだけで最低でも30分程度はかかってしまうほど、しっかり書き込めるフィードバックシートです。
また、あくまでもファクト(事実)が必要なので、普段から丹念にファクトを収集しておく必要があります。
私の場合、倉庫のネットワーク全体を見ていた頃には、全倉庫のセンター長+αで15~16人の部下がいました。
それ以外にもフィードバックをお願いされるので、その頃には30人ほどのフィードバックを作成していました。その人のファクトをベースに書かなければならないのですが、記憶に頼るのは難しかったので、私は「こういうことがあったメモ」と名づけ、部下が何か行動をするたびにメモをとっていました。
ちなみに、部下以外の人間、例えば同僚などからフィードバックの依頼を受けても、そこまで深く仕事をしていないとファクトベースでフィードバックを作成できません。その際は、「残念ながら正当な評価ができないので」と断っていました。
ちなみに人事評価の第2段階である「キャリブレーション」と呼ばれる評価会議の時も、OLPに基づいて議論をします。「AさんはOwnershipはすごく強いけれど、Hire and Develop the Best、つまり採用とか部下を育てるっていうところがちょっと弱いよね」 といった感じです。
OLPは、アマゾニアンにとってそれほど重要な存在なのです。
佐藤将之(さとうまさゆき)
企業成長支援アドバイザー。セガ・エンタープライゼスを経て、アマゾンジャパンの立ち上げメンバーとして2000年7月に入社。サプライチェーン、書籍仕入れ部門を経て、2005年よりオペレーション部門にてディレクターとして国内最大級の物流ネットワークの発展に寄与。2016年、同社退社。現在は鮨職人として日本の食文化に携わるとともに、15年超の成長企業での経験を生かし、経営コンサルタントとして企業の成長支援を中心に活動中。ブログhttps://ever-growing.biz