イタリアの政局に、世界の金融市場が大きく揺さぶられている。

極右の「同盟」と左派色の強い「五つ星運動」という、従来あまり見られない左右の連立政権が誕生し、そのポピュリズム的な政策に懸念が広がっているためだ。ベーシックインカムを導入し、さらに減税も行おうとする政策は、イタリアの財政状況を更に悪化させることは間違いない。

また同盟も五つ星も共にEU懐疑派とされ、既にイタリアのEU離脱を懸念する声も聞かれ始めている。こうした状況を受け、信用格付会社ムーディーズが5月25日、イタリアの格付けを引き下げ方向で見直すことを発表した。

ムーディーズがイタリア国債の格付け見直しを発表

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(画像=PIXTA)

現在のムーディーズによるイタリアの格付けはBaa2であり、投資不適格級、いわゆる「ジャンク」級となる境界を2段階上回る水準にある。2段階の格下げは例が無い訳ではなく、ムーディーズがそれをイタリアに行えば、イタリアはこの境界を下回る。境界が持つ意味は大きく、境界を下回る格付けを持つ「ジャンク債」を投資対象としない投資家は世界に多い。

例えば、30年以上の実績を持つFTSE世界国債インデックス(旧シティ世界国債インデックス、通称「WGBI」)は、グローバルな機関投資家の95%が何らかの形で参照しているとされるが、そのインデックスを構成する国債の中にはジャンク級の国債は含まれない。同指数に占めるイタリア国債の比率は現在約8%だが、ジャンク債になれば、指数から除外される。その場合、このインデックスに連動するような運用をしている投資家やファンドもイタリア国債の売却を迫られることになる。

日本国内でも、WGBIに連動するETFは東証に3本上場されている(米国国債7〜10年サブ・インデックスを除く)。イタリア国債を直接保有する日本の個人は多くないかもしれないが、ETFや外国債券の投資信託などを通じて保有している人はかなり多いはずだ。WGBI以外にも、主要な債券指数として挙げられることの多いブルームバーグ・バークレーズ・グローバル総合インデックスなども含まれるのは投資適格以上の債券のみだ。

ただ正確に言えば、ムーディーズが2段階格下げしただけでは、イタリアが上記指数から直ぐに外れることはない。多くの債券指数では、その組み入れ基準とする格付けには主に大手3社のものを使用している。ムーディーズ以外の2社はスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)とフィッチだが、この2社のどちらかがさらにジャンク級にまで格下げしない限りは指数から外さないルールとなっているものが大半だ。S&Pとフィッチが現在イタリアに付けている格付けは共にBBBで、ムーディーズと同様に境界を2段階上回る水準だ。一方、両社はまだ格付けの見直しについては正式な見解を示していない。また、事例はあると書いたが、ムーディーズが2段階の格付けにまで踏み込むとしても新政権の実際の政治運営とその財政面への過度な悪影響を確認した上で、2回に分けて格下げする方が可能性は高いだろう。

今は中央銀行がイタリア国債を買い支えているが......

しかし、イタリア国債にとっては、その新政権以外にも難問が待ち構えている。欧州中央銀行(ECB)が量的緩和として行ってきた資産購入プログラム(APP)の縮小・終了だ。ECBは今年の9月末まで、毎月300億ユーロの債券を市場から買い入れる政策を続け、10月以降は月間150億ユーロに縮小し年内に終了する方針を決定した。しかしこのAPPは、今やイタリア国債にとって非常に重要な買い手となっているのだ。

中央銀行のイタリア国債の保有額は、2016年半ば以来保有を減らしてきたイタリアの商業銀行をすでに超えている。米投資会社ジェフリーズによると、海外の投資家も、2015年に量的緩和が開始されて以来、保有額を減らしてきているという。

既に民間の投資家の心が離れている中でAPPが縮小・終了すれば、イタリア国債の金利上昇(価格低下)は避けられないと見られる。多少の金利上昇でも、GDPの130%以上もの財政赤字を抱えるイタリアには大きな経済的打撃となり、これも格下げのリスクを高めることになる。

因みに、もしイタリア国債が完全なジャンク債となれば、APPの買入れ対象にならなくなることには注意が必要だ。APPは基本的に投資適格級(ジャンク債の境界より上の格付けのもの)であることを購入条件としているためだ。EU、或いはECBは制度の運用に柔軟なところがあり、市場に大混乱を招くことを避けて、完全なジャンク債となったイタリア国債も何らかの緊急措置を講じて受け入れ続ける可能性はある。しかし、イタリア新政権があくまで無責任な放漫財政を続けるようなら、ECBによるイタリアへの財政支援ともとられかねない柔軟策はやはり取りにくいだろう。

ジャンク債との境界手前が、一番売り圧力の高まるとき

つまり、先に述べたようなインデックスからの除外や、APPからの買入れ終了などにつながる「ジャンク債成り」は、イタリア国債にとっては致命的な打撃になるということだ。このため、現時点ではそうなる可能性がまだ非常に高いとは言えなくても、今後イタリアからの悪いニュースに市場は敏感に反応しそうだ。

では、今すぐにイタリア国債は売却すべきなのだろうか?もちろん、それも一つの選択肢だ。組閣後に下がったとは言え、イタリア国債の価格は2012年の欧州債務危機の時に比べれば、まだ高水準にある。しかし、インデックス投信の形などで保有している場合には、イタリア国債だけを売るわけにもいかない。またイタリアの新政権が現実を理解して、歳出拡大を抑える方向に舵を切る可能性も少しは残っている。悩ましいところだが、長期投資家にとっては、ブラジルの例などは一つの参考になるかもしれない。

日本の個人投資家にも人気のあったブラジル国債も、数年前にジャンク債へと転落した。まず2015年9月にS&Pから外貨通貨建てのものをジャンク級に格下げされ、その翌年2月には自国通貨建てもジャンク級に格下げとなった。フィッチとムーディーズも後に続き、2016年2月25日までには3社すべてからジャンク債と格付けされた。

しかしブラジル国債への売り圧力が最も強かったのは格下げ前とその直後であり、実際にジャンク債になってからは、通貨レアルもブラジル国債価格も徐々に回復基調となった(今、また足元で価格は下げ基調になっているが)。ジャンクの境界を超えるかどうかの不透明な時期が、警戒感から一番売られやすく、価格も一番低い可能性があることは、頭に入れておいても良いだろう。

北垣愛
国内外の金融機関で、グローバルマーケットに関わる仕事に長らく従事。証券アナリストとしてマーケットの動向を追う一方、ファイナンシャルプランニング1級技能士として身近なお金の話も発信中。ブログでも情報発信中。http://marketoinfo.fun