はじめに
イタリアの財政問題を世界の金融市場が注視している。先の国債の格付け見直しでは投資適格に踏みとどまったものの、財政規律ルールへの違反から欧州連合(EU)に制裁を課される可能性もあり、国内政治の混乱から経済政策が停滞し、さらなる混乱を招く懸念が指摘されている。
ムーディーズが伊国債の格付けを引き下げ
米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは10月19日、イタリアの国債格付けを投資適格としては最低水準の「「Baa3」にき下げたと発表した。これまでは「Baa2」だった。ただ、格付けは引き下げられたものの、投資適格にとどまったことなどから市場の安心感を誘い、22日の欧州債市場では同国債が上昇した。
ムーディーズはこれに先立ち、イタリア国債を引き下げ方向で見直すと発表していた。このとき同国国債は「Baa2」で、投資不適格、いわゆる「ジャンク」級を2段階上回る水準にあり、万一「ジャンク債」になれば、投資家から正常な投資対象とは見なされなくなる恐れもあった。
EUとの対立の先には
「ジャンク債」に陥る危機はひとまず回避されたが、金融市場は引き続きイタリアの情勢を注視している。同国の2019年予算案は財政規律を重視しているとは言いがたい。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査部研究員、土田陽介氏は10月18日付レポートで「素人政治家の集まりと揶揄されるコンテ政権が掲げる公約は、そもそも実現可能性に乏しいものばかり」と指摘。「最大政党であるM5S(5つ星運動)が掲げる最低所得保障(ベーシック・インカム)はその最たるもの」としている。
このまま予算案をめぐるイタリア政府とEUの対立が続き、出口の見えない状況となれば、債券をはじめとする金融市場に動揺が走る事態も想定される。万一、EUによる制裁が実施されると、イタリアは「資金調達が制限される一方、EUに対して制裁金を支払う必要に迫られる」(土田氏)。マネックス証券のチーフ・アナリスト、大槻奈那氏は10月18日付レポートでイタリアは現在、ポピュリスト政権下にあるとした上で、「経済は最悪期を脱したとはいえ、欧州内の強国との格差はむしろ拡大している。今回再びEU側から財政規律を要求された場合、国民からは以前以上の反発が出る可能性もある」と指摘する。