(本記事は、ムーギー・キム&プロジェクト・ディズニーの著書『最強のディズニーレッスン』三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売、2018年4月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

【『最強のディズニーレッスン』シリーズ】
(1)ディズニーの厳しすぎる「著作権ビジネス」を生んだ失敗とは
(2)ジョブズはディズニーの「隠れミッキー」ならぬ「隠れリーダー」だった
(3)最強のディズニーレッスン 「口約束」でも契約を認めさせる方法
(4)東京ディズニーランドの「神掃除」とダスキンの意外な関係
(5)ディズニー流キャストへの「叱り方」と「モチベーション維持」する仕組み

最強のディズニーレッスン
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

ディズニー・オン・アイス、氷面下でのバトル

取引先との間に問題が生じた際、「契約書がないからダメだ......」と泣き寝入りしている方もいらっしゃるのではないだろうか。

しかし、契約書がないと約束がなかったことになるのだろうか。

答えはNOである。

メールや時には口約束だけでも、契約が成立しうることに十分気をつけよう。

ディズニーでも、ディズニー・オン・アイスの公演をめぐって、最終版の契約書が締結されていなかったために、取引先との間で紛争となり、裁判にまで発展した事件がある。

ディズニー・オン・アイスは、フィギュアスケーターが映画のストーリーや音楽にのせて氷上でパフォーマンスを行なう人気のショーである。

30年以上前から公演が開始され、世界70ヵ国以上で、のべ2000万人以上の観客を動員しているモンスター・エンターテイメントショーだ。

ディズニー側は取引先に契約を守ってもらおうとしたが、あろうことか、ショーに関連する重要な取り決めがされたこの契約書には、署名も押印もされていなかったのだ。

署名押印がされたときに契約が成立するという考え方からすると、契約がまだ成立していないということになりそうだ。

しかし、裁判所は、ディズニー側の主張を認めて、契約が成立していると判断した。

決め手となったのは、署名押印直前の書面を双方が確認して、これでいこうというコミュニケーションをとり、その記録を残していたことであった。

そもそも揉め事を起こさないためにも、そして裁判で争うことになった場合にも、契約交渉途中のメールや議事録を残すことは非常に重要である。

口約束でも契約は成立!

最強のディズニーレッスン
(画像=Liderina/Shutterstock.com)

ディズニー・オン・アイスの事例のように、裁判において、契約書がなくても契約が認められることがある。そもそも、民法の原則は、口約束でも契約が成立することになっており、書面は要求されていない。

ちなみに、婚約も口約束だけで成立する。実は書面も指輪も結納も不要なのである。

「愛してます。結婚してください!」と彼女に宣言したあとで、正当な理由がないのに、ほかの誰かに心変わりして、なかったことにしようとしても、婚約不履行で訴えられたら負けてしまうのだ。

ただし、泥酔した状態でのプロポーズは、有効にならないこともあるので気をつけよう。

日本では、契約書の作成に印紙税という税金がかかる。

契約類型によっては何十万円もの印紙税をとられたりするし、2通以上作成した場合にはその通数分の税金がかかるため、「印紙税かかるし契約書まではつくらなくていいですかね?」というような話になることも少なくない。

そんなとき裁判官は、一発で契約を証明できる証拠がなかったとしても、契約があったことを合理的に推測させる間接的な事情を積み木のように積み重ねていき、契約があったかなかったかを判断するのである。

契約が成立していなくても損害賠償発生???交渉相手への配慮や誠実さも重要

契約の成立が認められなくても、損害賠償の請求が認められることもよくある。

たとえば、ウォルトと「メリー・ポピンズ」の原作者のパメラ・トラバースの、同作の映画化権をめぐる交渉で考えよう。

契約内容については、双方が「基本的に」合意していた。

しかし、パメラは、セリフ、音楽、配役などに無理難題を次々と押し付けてくる。

それに対して、ディズニー側はなるべく要求に応えようと、セリフ、音楽、配役などを大幅に変更するなど、できるかぎりの対応を続けた。

それにもかかわらず、パメラは一方的に交渉を打ち切って、イギリスに帰ってしまう。

最終的には、契約が成立し、映画も無事公開された。

そのため法律問題には発展しなかったが、もしパメラに中断された時点で、ディズニー側が訴えていたら、パメラは損害賠償を支払わなければならなかったかもしれない。

裁判においては、契約交渉に入っている当事者同士は、相互に誠実な態度でいることが求められる一種の特別な関係だと考えられる。

それに違反した場合には損害賠償が認められるのだ。

契約書にサインはしていないが、セリフ、音楽、配役など映画製作の細かいところにまで好き勝手な要求をしていたパメラには、契約交渉相手への配慮や、誠実に契約の成立に努める義務が発生していたと考えられる。

そのため、パメラの一方的な交渉打ち切り行為には、そうした義務の違反が認められる可能性があるのだ。

先ほど、婚約の話をしたが、もし正当な理由なく婚約を破棄した場合には損害賠償の義務を負うことになる。

「結婚してください」を口に出すときには、彼女の人生はもちろん法的な責任まで負う覚悟がなければならないのだ。

何事も相手への配慮と誠実さが大事だということである。

ムーギー・キム Moogwi Kim(ムーギーマウス)
INSEADにてMBA(経営学修士)を取得。外資系金融機関の投資銀行部門、外資系コンサルティングファーム、外資資産運用会社での投資アナリストを歴任した後、アジア一帯のプライベートエクイティファンド投資に従事。フランス、シンガポール、中国での留学を経て、大手バイアウトファンドに勤務。日本で最も影響力のあるベストセラー・ビジネス作家としても知られ、著書『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』『最強の働き方』(ともに東洋経済新報社)、『一流の育て方』(ダイヤモンド社)はすべてベストセラーとなり、6カ国語で展開、50万部を突破している。

プロジェクト・ディズニー
山田麻衣子 Maiko Yamada(ミニー麻衣子)
ハーバード・ビジネススクールにて、MBA(経営学修士)を取得。外資系コンサルティングファームを経て、外資系小売大手にて、商品から事業、全社レベルまでさまざまな分析および戦略の立案・実行に携わる。

楠田真士 Shinji Kusuda(ドナルド楠田)
オックスフォード大学ロースクールおよびビジネススクール修士課程修了。ハリウッドやシリコンバレーの、ディズニー社を含めた名だたるエンターテイメント企業やテクノロジー企業等を顧客とする米国西海岸の大手法律事務所の弁護士。外資系投資銀行でM&A業務に携わった経験もありファイナンスへの造詣も深い。