(本記事は、ムーギー・キム&プロジェクト・ディズニーの著書『最強のディズニーレッスン』三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売、2018年4月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

【『最強のディズニーレッスン』シリーズ】
(1)ディズニーの厳しすぎる「著作権ビジネス」を生んだ失敗とは
(2)ジョブズはディズニーの「隠れミッキー」ならぬ「隠れリーダー」だった
(3)最強のディズニーレッスン 「口約束」でも契約を認めさせる方法
(4)東京ディズニーランドの「神掃除」とダスキンの意外な関係
(5)ディズニー流キャストへの「叱り方」と「モチベーション維持」する仕組み

最強のディズニーレッスン
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

「ほめる文化」と「ファイブスターカード」

顧客にサービスを提供する社員のモチベーションを高めることは、あらゆる企業にとって極めて重要な課題である。

そしてモチベーションの高め方を語るうえで、「ほめる文化」と「尊敬できる先輩・同僚の存在」は不可欠であり、この点われわれがディズニーランドから学べるものは大きい。

実際に、ディズニーランドには「ほめる文化」が定着していると、多くの社員が証言してくれた。

その秘密のひとつが「ファイブスターカード」である。

すばらしい行動をしたキャストを見かけると上司がその行動を称える「ファイブスターカード」を手渡す。これをもらった人は「ファイブスター・パーティー」に出席することができ、仕事に取り組むキャストのモチベーション維持に役立っている。

また、キャスト同士がすばらしい行動に専用カードに匿名でメッセージを書いて称えあうのが、「スピリットオブ東京ディズニーリゾート」活動だ。

カードが溜まると「スピリット・アワード」を受賞できる。

受賞者にはウォルト・ディズニーとミッキーマウスが描かれたスピリット・アワードピンが授与され、ミッキーたちを含めた同僚の祝福の中、表彰式が行なわれる。

そこではアラジン、ジャスミン、ジーニーも登場し、キャストのためだけの特別ショーが行なわれる。たいていの会社は社員同士が陰口ばかり叩いているのに、この”ポジティブ陰口”ともいえるディズニースピリットから、私たちが学べるものは大きい。

なお、キャストたちのあこがれとして「ディズニー・アンバサダー」が存在することもよく知られている。

ディズニー・アンバサダーとは、東京ディズニーリゾートの親善大使である。

社長の代理となり、ミッキーやミニーとともに各地を訪れ、イベントに参加する。この大役には、契約社員、正社員、アルバイトの分け隔てなく立候補できる。

ディズニーには、社員のモチベーションを高めるためにさまざまな仕組みが備えられているが、中でもほめられ、評価されていると実感させることがモチベーションの維持には重要なのだ。

なにせ人に感謝されるというのは、人間の根源的な欲求なのだから。

とある心理学で「ほめてはいけない」という言説が広められたが、その19世紀生まれの心理学者は複雑な近代企業で勤務したことはなく、時代と環境は大きく変わっている。この言説を、実際のビジネスの現場の人事戦略に当てはめてはいけないのである。

ゲストだけでなく、キャストにもハピネスを届ける

最強のディズニーレッスン
(画像=g-stockstudio/Shutterstock.com)

社員のモチベーションを高めるには、いかに会社に自分たちが大切にされているかを実感してもらえるかも非常に重要となる。

ウォルト・ディズニーは、社員をもてなし、楽しませる企業文化こそが、会社への誇りを生み、誇りこそがよいものを生み出す原動力だと認識していた。

そもそも、会社にこき使われていると感じながらモチベーションを維持できる人はいない。

また不当に搾取されていると感じ、自分の知性と感性を含め一人の人間として尊重されていないと感じながら、会社や顧客のために全力で働く人などいないのだ。

生前のウォルトはこう語っている。

「私たちはここで働く一人一人をトレーニングするんだ。彼らを楽しませ、もてなす。一回、ポリシーが築き上げられれば、あとは自然と継承されるものだよ」

社員を楽しませ、トレーニングさせる。

ウォルトが築いた「仲間をもてなす」というポリシーは彼の死後半世紀を経ても、見事に東京ディズニーランドにも継承されているといえよう。

きちんと評価され、ほめられ、感謝されているという誇りが、よい仕事をするモチベーションの源泉となるのである。

ディズニー式”叱り方”のベストプラクティスーー「なぜか」の理由をきちんと伝える

会社に大切にされていると思ってもらいながらも、もちろん叱るときはきちんと叱らなければならない。

そんなとき一番難しいのは”うまく叱る”ことではなかろうか。

ディズニーでは、キャストを叱るときに、「なぜダメなのか?」の説明を重視する。

また、問題点を指摘した後、そのまま放置してはいけない。

言いっぱなし、怒りっぱなしはNGで、現場に赴いて直接伝えたら、その結果どうなったかを見守り、評価までも伝える。

ディズニーランドではなんらかの行動をする際にはその理由が示される。

たとえばカストーディアル(ディズニーで「掃除」を示す言葉)において「肩、腰、膝、くるぶしが一直線になるように立ちましょう」という指示をするときには「そのほうが体に負担がかからないから」という理由が示される。

また「ダストパン(ちりとり)を持つときは、取っ手のところを持って、腰骨のあたりにつけて持ちましょう」というのは、万が一にもゲストにあたることのないよう安全上の配慮なのである。

「なぜ?」という問いに対し、「そういう決まりだから!」という返答はNGなのだ。

私の著書『一流の育て方??ビジネスでも勉強でもズバ抜けて活躍できる子を育てる』の中で、さまざまな分野で活躍するプロフェッショナルたちが人を育てるうえで、叱るときは感情的にならず、理由をきちんと伝えることの大切さを指摘していたが、それは夢の国でも共通しているのである。

指示には的確な理由を添えることで、キャストも受け入れやすくなる。

こんな”指示の仕方”や”叱り方”への配慮にも、”社員重視の姿勢”が現れるのである。

ムーギー・キム Moogwi Kim(ムーギーマウス)
INSEADにてMBA(経営学修士)を取得。外資系金融機関の投資銀行部門、外資系コンサルティングファーム、外資資産運用会社での投資アナリストを歴任した後、アジア一帯のプライベートエクイティファンド投資に従事。フランス、シンガポール、中国での留学を経て、大手バイアウトファンドに勤務。日本で最も影響力のあるベストセラー・ビジネス作家としても知られ、著書『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』『最強の働き方』(ともに東洋経済新報社)、『一流の育て方』(ダイヤモンド社)はすべてベストセラーとなり、6カ国語で展開、50万部を突破している。

プロジェクト・ディズニー
山田麻衣子 Maiko Yamada(ミニー麻衣子)
ハーバード・ビジネススクールにて、MBA(経営学修士)を取得。外資系コンサルティングファームを経て、外資系小売大手にて、商品から事業、全社レベルまでさまざまな分析および戦略の立案・実行に携わる。

楠田真士 Shinji Kusuda(ドナルド楠田)
オックスフォード大学ロースクールおよびビジネススクール修士課程修了。ハリウッドやシリコンバレーの、ディズニー社を含めた名だたるエンターテイメント企業やテクノロジー企業等を顧客とする米国西海岸の大手法律事務所の弁護士。外資系投資銀行でM&A業務に携わった経験もありファイナンスへの造詣も深い。