(本記事は、ムーギー・キム&プロジェクト・ディズニーの著書『最強のディズニーレッスン』三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売、2018年4月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【『最強のディズニーレッスン』シリーズ】
(1)ディズニーの厳しすぎる「著作権ビジネス」を生んだ失敗とは
(2)ジョブズはディズニーの「隠れミッキー」ならぬ「隠れリーダー」だった
(3)最強のディズニーレッスン 「口約束」でも契約を認めさせる方法
(4)東京ディズニーランドの「神掃除」とダスキンの意外な関係
(5)ディズニー流キャストへの「叱り方」と「モチベーション維持」する仕組み
世界最大の総合エンターテイメント企業──映画を中心に、世界最大の総合エンターテイメント企業に成長
2016年には、ディズニー社が年間の世界興行収入の記録70億ドル(約7700億円)を達成し、業界記録を塗り替えた。
2017年も「美女と野獣」の実写版で大成功を収めている。
2018年には「リメンバー・ミー」がオスカー部門を獲得して注目を集めた。
この間、大型買収も繰り返し、2017年末に21世紀フォックス社を実に524億ドル(約6兆円)で買収することを発表したのは、記憶に新しい。
同社が映画から得ているものは興行収入だけではない。
映画から派生する、ありとあらゆる事業を展開し、稼ぎまくっているのだ。
ディズニー社はメディア・ネットワーク、パークス&リゾーツ、スタジオ・エンターテイメント、コンシューマ・プロダクツ&インタラクティブ・メディアの4つの事業部門を持っている。
メディア・ネットワーク部門は、アメリカ三大ネットワークの一つである地上波放送局ABCテレビの広告収入、ディズニー・チャンネル、そして世界最大のケーブルテレビ向けスポーツ専門チャンネルESPNなどの視聴料などで稼いでいる。
実は、ディズニー社の4つの事業部門のうち一番の稼ぎ頭はこの放送事業である。
パークス&リゾーツ部門の収益源は、文字どおり米国および世界各地のテーマパークの入場料や飲食・物販、およびディズニー・クルーズ・ラインなどからの収入だ。
ちなみに、米国内のディズニーランドおよびディズニーランド・パリ、香港ディズニーランド・リゾート、上海ディズニーランドはディズニー社の直営だが、世界最大級の売上げを誇る東京ディズニーランドだけは、唯一ディズニー社の直営ではない。
オリエンタルランド社がライセンス契約によって運営しているため、この部門に計上されているのは東京ディズニーリゾートの売上げの一部にあたるライセンス料のみである。
スタジオ・エンターテイメント部門は映画や音楽の制作販売部門で、買収したピクサー、マーベル・エンターテイメント、ルーカスフィルムに加え、ミュージカルなどもここに含まれる。
コンシューマ・プロダクツ部門は、ディズニーキャラクターの商品化権を売っており、インタラクティブ・メディアはゲームなどを取り扱っている。
テントポールとフランチャイズ──稼げるコンテンツに投資し、超長期で回収しつづけるディズニー戦略の神髄
ディズニーの戦略として重要なのは「テントポール戦略」と「フランチャイズ戦略」だ。
さまざまな周辺事業に横展開し、長期間にわたって収益を上げつづけることを狙ってキャラクターやストーリーなどのコンテンツに投資することが、ディズニー社の戦略の要である。
「テントポール戦略」は厳選された大型作品に制作費をつぎ込み、メガヒットを狙う戦略だ。”テントポール”とは、大作映画をテントを支える一番高い柱に見立てた表現である。
ヒットすればテントを支えることができるが、しなければテントごと倒れてしまう、つまり大きな赤字になるリスクがある。近年のディズニーは年間配給作品を絞り、ほかのハリウッドスタジオの年間本数と比べても圧倒的に少なく、一本当たりの制作予算が高い。
映画が、まんじゅうや、ディズニーランドのパレードへ
「フランチャイズ戦略」は、さまざまな商品に横展開が期待できるキャラクターやストーリー”フランチャイズ”をさまざまな形でマネタイズ(収益化)する戦略である。
たとえば「アナと雪の女王」の”フランチャイズ戦略”を見てみよう。当然のごとく、映画が公開されるや、キャラクターグッズがありとあらゆる店の棚に並んだ。
ファミリーマートではなんと雪だるまのオラフをかたどった「オラフまん(中華まんじゅう)」まで登場し、話題を集めた。
もちろん、映画はDVDやブルーレイになり、サントラCDは爆発的なヒットを記録した。
総合エンターテイメント企業であるディズニー社の強みが生きるのはここからだ。
東京ディズニーランドではスペシャルイベント「アナとエルサのフローズンファンタジー」を開催、エレクトリカル・パレードにも「アナと雪の女王」のシーンが加わった。
ディズニー・オン・アイスでは「アナと雪の女王」の劇中歌をふんだんに使い、映画のストーリーが氷上で再現された。スマホ向けのゲーム「LINE:ディズニーツムツム」ともコラボし、アナとエルサがゲームキャラクターになった。
強いコンテンツに果敢に集中投資し、徹底的に横展開して稼ぎ尽くす。これこそがディズニー社特有の戦略の骨子なのである。
ガチガチの契約で権利を固める、ライセンス戦略
キャラクターの使用権を認める代わりにライセンス料を得るというビジネスモデルを生み出したのは何を隠そう、ディズニー社である。
ディズニー社は著作権に厳しい。
それを日本人に思い知らせたのは、1987年のとある事件だ。
滋賀県の小学生が卒業記念としてプールの底に描いたミッキーマウスとミニーマウスの絵を「消さなければ著作権違反で訴える」として塗りつぶさせたのだ。
そもそも、ディズニー社が著作権に厳しくなったきっかけは、1927~28年に制作された短編映画シリーズ「しあわせウサギのオズワルド」の主人公オズワルドである。
オズワルドのシリーズはヒットしたが、ディズニー社はオズワルドの所有権をめぐって配給先のユニバーサル・ピクチャーズと対立。交渉は決裂し、ディズニー社は配給先と人気キャラクターを失ってしまった。
そのうえ、アニメーターもごっそり引き抜かれ、ウォルトたちは倒産ぎりぎりまで追い込まれた。そこで、オズワルドの耳のデザインなどを少しいじって誕生したのがミッキーマウスといわれている。
その後、ミッキーマウスは音声入り短編アニメーション「蒸気船ウィリー」(1928年)で一躍人気者になった。
災い転じて福となすとは、まさにこのことであろう。
オズワルドの一件以来、ウォルトは著作権の管理に非常に神経質になったといわれ、彼の死後もディズニー社は著作権に厳しい姿勢を貫きつづけている。
オズワルドの失敗があったからこそ、厳格に権利を確定したキャラクターライセンスビジネスが生まれたのである。
七人の小人が支えた、ディズニー創世記─安すぎた”ミッキーマウス子ども手帳”の失敗
今や、ディズニーのキャラクターがついた商品にはより高い値段を払うのが当然のこととして受け入れられている。
しかし実はディズニー社はかつてキャラクターグッズの販売を超格安で始めてしまうという大失敗を犯している。
1929年、資金繰りに困っていたウォルトは、現金わずか300ドルと引き換えに、ペンシルタブレット(子ども用のメモ帳)の表紙にミッキーマウスのイラストを使用することを許諾してしまった。
しかし、これにウォルトは不満だった。キャラクターグッズ販売に大きな可能性を感じ、高品質の商品だけをディズニーグッズとして販売したい、と考えていたからである。
そこへ登場したのがケイ・カーメンという人物だ。
1932年、ディズニー社は儲けを折半する条件でカーメンとキャラクターグッズの開発から販売・流通までの委託契約を結ぶ。
カーメンのおかげで、百貨店にはディズニーのあらゆるグッズが並び、商品カタログの定期刊行も開始され、その収益でディズニー社は「白雪姫と七人の小人」の制作に着手する。
また、映画公開に合わせてマーケティングキャンペーンを打ち、市場をキャラクターグッズであふれ返らせたおかげで、映画は大ヒットした。ディズニー社はカリフォルニアに最先端のスタジオを建設することができたのだ。
ディズニー社の苦境を救ったのは、白雪姫の大ヒットとそのライセンス戦略の成功であった。
カリフォルニア州バーバンクのディズニー本社に1990年に建設されたチーム・ディズニー・ビルには屋根を支える七人の小人のデザインが施されている。これは「白雪姫と七人の小人」の成功が同社を経営危機から救ったことにちなんだものだ。
「人生で経験したすべての逆境、トラブル、障壁が私を強くしてくれた。そのときにはわからないかもしれない。しかし、ひどい挫折を味わうことが何よりも自分を成長させるのだ。」 ??ウォルト・ディズニー
いったんは苦境を免れるためにやむを得ない決断をしながらも、同じ失敗を繰り返さなかったウォルト。
魅力的なキャラクターライセンスビジネスを生み出すことができたのは過去の失敗から彼が教訓を学んだからである。
ムーギー・キム Moogwi Kim(ムーギーマウス)
INSEADにてMBA(経営学修士)を取得。外資系金融機関の投資銀行部門、外資系コンサルティングファーム、外資資産運用会社での投資アナリストを歴任した後、アジア一帯のプライベートエクイティファンド投資に従事。フランス、シンガポール、中国での留学を経て、大手バイアウトファンドに勤務。日本で最も影響力のあるベストセラー・ビジネス作家としても知られ、著書『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』『最強の働き方』(ともに東洋経済新報社)、『一流の育て方』(ダイヤモンド社)はすべてベストセラーとなり、6カ国語で展開、50万部を突破している。
プロジェクト・ディズニー
山田麻衣子 Maiko Yamada(ミニー麻衣子)
ハーバード・ビジネススクールにて、MBA(経営学修士)を取得。外資系コンサルティングファームを経て、外資系小売大手にて、商品から事業、全社レベルまでさまざまな分析および戦略の立案・実行に携わる。
楠田真士 Shinji Kusuda(ドナルド楠田)
オックスフォード大学ロースクールおよびビジネススクール修士課程修了。ハリウッドやシリコンバレーの、ディズニー社を含めた名だたるエンターテイメント企業やテクノロジー企業等を顧客とする米国西海岸の大手法律事務所の弁護士。外資系投資銀行でM&A業務に携わった経験もありファイナンスへの造詣も深い。
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