(本記事は、ムーギー・キム&プロジェクト・ディズニーの著書『最強のディズニーレッスン』三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売、2018年4月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【『最強のディズニーレッスン』シリーズ】
(1)ディズニーの厳しすぎる「著作権ビジネス」を生んだ失敗とは
(2)ジョブズはディズニーの「隠れミッキー」ならぬ「隠れリーダー」だった
(3)最強のディズニーレッスン 「口約束」でも契約を認めさせる方法
(4)東京ディズニーランドの「神掃除」とダスキンの意外な関係
(5)ディズニー流キャストへの「叱り方」と「モチベーション維持」する仕組み
ピクサー・アニメーション・スタジオはもともとルーカスフィルムのCG制作ツールを開発するコンピュータ部門だった。
1986年、ジョージ・ルーカスが離婚慰謝料の支払いのために売りに出したこの部門を、当時アップルから追放されたばかりだったジョブズが買収し、ピクサーが誕生した。
ピクサーはその後もしばらくコンピュータの会社だったが業績は伸びず、もともとコンピュータのデモンストレーション用につくっていたCGアニメーションの制作のほうに軸足を移していき、今日に至る。
ジョブズはピクサーをルーカスフィルムから買収して分離独立させただけでなく、その後も巨額の資金を投じて経営危機を救ったという。
スティーブ・ジョブズがいなければ長編CGアニメーションもピクサーも、この世に存在しなかったかもしれない。その意味でジョブズこそそれらの生みの親といってもいい存在なのだ。
ジョブズとアイガーが、ピクサーとディズニー社の間を取り持つ
ピクサーは「トイ・ストーリー」以降の主要な長編のCGアニメーション作品をディズニー社と共同制作している。この契約やピクサー買収にかかるディズニー社との交渉も、スティーブ・ジョブズが主導したといわれている。
当初、ピクサーとディズニー社は、ディズニーが制作費用の大半を負担する代わりに、ピクサーが制作した作品をディズニー社のものとして配給する不平等な契約を結んでいた。
「トイ・ストーリー」が大ヒットすると見込んだジョブズは、映画公開に合わせて新規株式公開(IPO)を行ない、資金力を武器にディズニー社とより有利な条件で提携を結ぶことに成功した。
ジョブズは、その後の契約更新の交渉でもマイケル・アイズナー相手に一歩も譲らず、結局はピクサーを手放そうとしたアイズナーのほうが、反発する株主にCEOの座を追われることになった。
ジョブズとの関係修復を図ったのは、アイズナーの後任、ロバート・アイガーだ。アイガーから電話をかけてピクサー買収を提案し、ジョブズが応じたという。
ディズニー社のピクサー買収後、ピクサーの70%の株式を所有していたジョブズはディズニー社の個人筆頭株主となり(7%の株を所有)、役員にも就任した。
さらに、エド・キャットムルにピクサーとディズニー・アニメーションの社長を、ジョン・ラセターに同チーフ・クリエイティブ・オフィサーを兼務させるようアイガーに進言した。
ジョブズが媒介役となって、ピクサーの伝統の維持と、ディズニー・アニメーション・スタジオの復活を同時に実現したのだ。
言い換えれば、アイガーがディズニー社とジョブズの仲を取りもたなければ、ディズニー社の復活はなかったのである。
「私の死後に、私を真似てはならない」
スティーブ・ジョブズとウォルト・ディズニーは、いずれも、世界中にマニアックなファンを持つカリスマクリエイターだ。
生い立ちや、活躍した年代、分野は異なるが、二人には共通点がある。
機器内部の配線にも美しさを求めたというジョブズのこだわりは、ウォルトがパークに地下道を張りめぐらせて夢の国を実現しようとした姿に重なる。
また、新製品のプレゼンテーションを行うジョブズと、建設中のディズニーランドについて語るウォルトには、同じ熱量が感じられる。
そして、二人とも比較的若くしてこの世を去った。
ウォルト・ディズニーが亡くなったあと、ディズニー社は混乱に陥った。
新しいアイデアよりも「What would Walt do?(ウォルトだったらどうするか?)」を求める風潮があったという。
その結果、続編ばかりがつくられるようになり、アニメーションの質が急激に低下してしまう。
テーマパークの建設が財政状況を圧迫し、救世主アイズナーの登場を待つまで経営不振は20年にも及んだ。
スティーブ・ジョブズは亡くなる前、現CEOのティム・クックに「Never ask what he would do,just do what’s right(スティーブ・ジョブズだったらどうするかではなく、とにかく正しいことをしろ)」と話したという。
ウォルト亡きあとのディズニー社のように、「What would Steve do?(スティーブだったらどうするか?)」という思考に陥らないように、ということであろう。
真のリーダーは自分のやり方を後継者に押しつけない。
リーダーシップのスタイルには個人差があり、自分のやり方をほかのリーダーに期待するのは大きな間違いなのだ。
ムーギー・キム Moogwi Kim(ムーギーマウス)
INSEADにてMBA(経営学修士)を取得。外資系金融機関の投資銀行部門、外資系コンサルティングファーム、外資資産運用会社での投資アナリストを歴任した後、アジア一帯のプライベートエクイティファンド投資に従事。フランス、シンガポール、中国での留学を経て、大手バイアウトファンドに勤務。日本で最も影響力のあるベストセラー・ビジネス作家としても知られ、著書『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』『最強の働き方』(ともに東洋経済新報社)、『一流の育て方』(ダイヤモンド社)はすべてベストセラーとなり、6カ国語で展開、50万部を突破している。
プロジェクト・ディズニー
山田麻衣子 Maiko Yamada(ミニー麻衣子)
ハーバード・ビジネススクールにて、MBA(経営学修士)を取得。外資系コンサルティングファームを経て、外資系小売大手にて、商品から事業、全社レベルまでさまざまな分析および戦略の立案・実行に携わる。
楠田真士 Shinji Kusuda(ドナルド楠田)
オックスフォード大学ロースクールおよびビジネススクール修士課程修了。ハリウッドやシリコンバレーの、ディズニー社を含めた名だたるエンターテイメント企業やテクノロジー企業等を顧客とする米国西海岸の大手法律事務所の弁護士。外資系投資銀行でM&A業務に携わった経験もありファイナンスへの造詣も深い。