本土株の下げが厳しい。

6月19日の上海総合指数は前営業日比3.8%下落、2907.82ポイントで引けた。4日続落、節目となる3000ポイントを大きく割り込み、終値ベースで2016年6月27日以来の安値を付けている。

下落した要因はいくつか考えられる。まず、ファンダメンタルズをみると、5月の経済統計は貿易を除き、軒並み前月の伸び率を下回りかつ、市場コンセンサスを下振れしている。

順を追って詳細をみると、まず、鉱工業生産は6.8%増で、前月と比べ0.2ポイント低く、市場コンセンサスと比べ0.1ポイント下振れした。ただし、伸び率の水準自体は、2015年、2016年と比べれば、まだ、ほぼ上回っている。底割れしているわけではない。

一方、全国固定資産投資(累計)は6.1%増で、前月(累計)と比べ0.9ポイント低く、市場コンセンサスと比べ0.9ポイント下振れした。単月の推計値でみると3.9%増にすぎない。手元には2005年以降のデータがあるが、累計でも単月推計値でも、この十数年で最も低い水準となっている。項目別にみると、インフラ設備(累計)が9.4%増に留まっており、前月(累計)と比べ3ポイントも鈍化している。

マクロ政策として重大なリスクを予防し解消するといった方針のもとで、既存案件について厳しく精査し、違法なインフラ投資があれば停止させる一方、新たな投資の審査を厳しくしている。インフラ投資の主体となる地方政府に対しては、ロールオーバーを除き、起債を厳しく抑制している。

消費についてみると、5月の小売売上高は8.5%増で前月と比べ0.9 ポイント低く、市場コンセンサスと比べ1.1ポイント低かった。こちらも、2005年以降の統計では最低となっている。昨年は5月中に3日間の端午節休暇があったが、今年は6月にずれ込み、その影響が出た。さらに、7月1日より、自動車や一部の日用品について税率が下がることから、消費者による買い控えが起きた。

唯一、貿易統計だけは、外需、内需ともに好調であった。輸出(米ドルベース、以下同様)は12.6%増で、前月(ただし、今回の修正値)と同じ、市場コンセンサスと比べ2.6ポイント上振れした。輸入は26.0%増で、前月と比べ4.5ポイント増加、市場コンセンサスと比べ7.3ポイント上振れした。

当局の姿勢、景気よりも構造改革

景気が低迷する中、金融政策は引き締め気味である。5月末のM2伸び率は8.3%で前月末と同じ。5月の人民元新規貸出純増額は1兆1500億元で前年同月を405億元上回ったが、社会全体の総融資純増額は7608億元で前年同月を3023億元下回っている。両統計の差は、銀行勘定ではオフバランスとなる理財商品などが縮小していることによるものとみられる。当局は、景気に対して配慮することなく、構造問題の解消を進めており、そのために結果的に金融が引き締め気味となっている。

金融政策が景気に対して引き締め気味となる中、足元の景気は減速傾向を示しており、そのことが投資家のリスク許容度を低下させている。

米中貿易紛争、報復合戦へ

もっとも、こうした内部要因よりも、もっと大きな悪材料がある。それは、米中貿易紛争の激化である。

トランプ政権は6月15日、中国製造業2025について言及、関連する製品を含む1102品目、500億ドル相当の輸入製品に対して25%の追加関税をかけると発表した。2段階に分けて実施。まず、第1段として340億ドル相当分について7月6日より、追加課税を実施する。残りの160億元に対しては、さらに評価を行ったうえで実施するとしている。

一方国務院は16日、この決定を受けて、アメリカを批判、「アメリカが国際義務違反を犯しているといった緊急事態に及び、国際法基本原理に照らし合わせ、“中華人民共和国対外貿易法”、“中華人民共和国輸出入関税条例”などの法律・法規・規定・国際法の基本原則に基づき、アメリカからの659品目、500億ドル相当の輸入製品に対して25%の関税をかける。このうち、農産品、自動車、水産品など545品目約340億ドル相当分については7月6日から課税を開始し、化学工業製品、医療設備、エネルギー製品などその他の製品品目、実施時期については別途公表する」としている。

米中は真っ向から正面衝突しようとしている。中国側の報復措置に対してトランプ大統領は18日、中国が知的財産権の侵害をしていると主張、新たに2000億ドル相当の輸入品に対して10%の追加関税措置を検討するように通商代表部に指示している。

これに対して中国商務部は同日、声明文を発表、「このような威圧的で恫喝するようなやり方は、これまで繰り返し行われてきた協議で得られた合意に反しているだけでなく、国際社会に対して大きな失望を与えている。もし、アメリカが理性を失い、追加輸入課税リストを公表するようであれば、中国側は、数量、質を合わせた総合的措置を取り、強力な反撃をせざるを得ない」と述べている。

中国の報復、トランプ政権を直撃

米中貿易紛争が収束しない限り、本土株式市場は不安定な状態が続くだろう。

それは、アメリカ市場でも同じである。19日のNYダウ指数は1.1%下落、24700.21ドルで引けており、6日続落となっている。トランプ大統領にとって、政権誕生以来、株価上昇は、大きな成果の一つとなっている。株価急落への耐性は強くない。

また、中国側の報復は、ピンポイントでトランプ大統領の支持母体である中西部農民を直撃する。トランプ大統領はどこまで耐えられるのか、その限界点は高くないはずだ。

アメリカ側の措置は7月6日から実施される。それまでの間、米中の神経戦が続きそうだ。日本も含め、世界の株式市場でも、リスク回避の動きが強まりそうである。その後どうなるかは、トランプ大統領次第である。

田代尚機(たしろ・なおき)TS・チャイナ・リサーチ株式会社 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/