中国では「中方医」と呼ばれる医術者がいる。一定規模以上の市街地なら、漢方医院や鍼灸院など、彼らのの看板を、見ないことはない。そしてそれらのほとんどは、高血圧、糖尿病、痛風など生活習慣病に効くとうたっている。

それだけの需要が存在するのは間違いない。中国の宴会文化は、生活に深く根差したものだ。接待される方は、盛大に食べ散らかすのが礼儀である。社会的地位の上昇に伴って、宴会の頻度は増し、生活習慣病の引き金を引く。また都市化の進展も、中国人の不健康な飲食スタイルを助長している。

最近、生活習慣病の中でも、特に糖尿病への関心が高まっている。「中商情報網」や「新浪医薬新聞」などのメディアが、中国糖尿病の現状について伝えている(1元=17.26日本円)。

世界の30%弱を占める中国の糖尿病患者

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(画像=PIXTA)

中商産業研究院によれば、中国は世界最多の2型糖尿病(インスリンの作用不足に起因する生活習慣型糖尿病)患者を抱えている。2017年には1億2000万人、2028年には1億6000万人と推計されている。

また国際糖尿病連合(IDF)によると、2017年の世界糖尿病患者総数(1型、2型トータル)は、4億2500万人である。この統計では中国の患者数は1億1400万人となっている。いずれにしろ世界の30%近くを占めている。そして中国人患者1億2000万人のうち、52.3%は医療機関を受診していないという。

ちなみに日本は、厚生労働省の2016年調査では、推計1000万人となっている。患者数は増加しているが、予備軍は減少している。少しずつ抑制に向かいつつあるようだ。

糖尿病を取り巻く社会背景

糖尿病患者増加の背景には何があるのだろうか。

1 高齢者の増加

2017年、中国の65歳以上の高齢者は1億5830人になり、総人口の11.4%を占めている。この数字は年々増加していく。それに従って糖尿病患者も増加する。一足先に高齢化の進んでいる日本は、糖尿病患者総数では世界トップ10に入っていない。しかし65歳以上に限れば、430万人で世界6位である。中国もこの道程を歩みつつある。

2 可処分所得の伸長

中国人の可処分所得は順調に伸びている。2013年の1万8311元(31万6000円)から2017年には2万5974元(44万8000円)へ増加した。患者の治療に対する意欲も、治療薬の購入も併せて増加している。

3 慢性病政策

さらに政府は「中国防治慢性病中長期計画(2017-2025)」に基づき、2025年以前に、4000万人の糖尿病患者の治療を行う計画だ。医療改革の中でも重要な体系の一つと位置つけている。

4 治療方法の刷新

糖尿病は慢性疾患で、長期にわたる服薬や、血糖値コントロールが必要だ。糖尿病治療に付随する研究は、今ブレイクスルーが求められている。医薬品市場の拡張につながっていくのは間違いない。

5 医療保険の適用拡大

インシュリン注射は除外されているもの、その他治療薬の医療保険適用拡大を進めている。最新の医療保険では、36種の治療薬が追加された。そのうち24種は2型糖尿病用途である。政府は「動態薬物清単計画」を実施し、新薬開発を奨励している。

これらのような環境の変化が、隠れた糖尿病患者を表に押し出しているのだ。

治療薬市場の可能性

こうした背景を考えると、糖尿病治療薬市場の拡大は間違いない。2013年332億円だった市場規模は、2017年には515億元と1.55倍に成長した。2018年は576億元(9940億円)と12%の伸びを見込んでいる。

糖尿病治療薬世界大手のノボノルディスク(デンマーク)は2014年以来、中国市場で一定の地位を獲得した。しかしシェアは11%前後で停滞している。17年9月、中国食品医薬品局は、同社のTreslbaという糖尿病薬を認証した。販売許可、薬価ともに当局のさじ加減次第である。薬価は引き下げの方向のため、同社のシェアは再び上昇するとみられる。

一方、中華医学会は、70%に上る糖尿病患者がインシュリン注射針の使い回しをしていると警告を発した。

中国の糖尿病患者は、最適な治療薬を得られていない。そして治療方法や、予防に関してもまだまだ洗練を欠いている。中国的混乱を脱していないのである。しかし巨大な市場空間が拡がっていることだけは間違いない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)