Googleが中国ネット通販2位の京東/JDに5.5億ドルの出資をする。このニュースは日本でも伝えられた。グーグルは中国ネット通販大手と提携することで、株式時価総額で争うアマゾンへの対抗を見据えている、などの観測記事も出た。それでは京東にとってはどのような意味をもつのだろうか。

中国ではこれ以外にも京東の話題でもちきりだ。それは京東の仕掛けた6.18セールと重なった(重ねた?)からである。京東の戦略とは何か。「今日頭条」「中商情報網」など、各メディアが競って報じている(1元=16.91日本円)。

京東618全球(世界)年中購物節

中国経済,米中関係,IT業界
(画像=Webサイトより)

中国ネット通販のお祭り、11月11日(双11)独身の日セールは、その売上と仕掛けの派手さによって、すっかり有名になった。これはネット通販首位、アリババ創業者の馬雲が、2009年に始め、アリババ躍進の原動力ともなった。京東は翌年の2010年から、創立記念日の6月18日に細々とセールを行ってきた。

それがここ2~3年、急速に認知度を上げてきた。上半期にもう一つのピークを作るのにちょうどよい、ということで、ライバルのアリババや蘇寧易購、アマゾン中国まで便乗するようになった。それらの相乗効果が現れてきたのだ。

京東のセール期間中(6月1日~18日)売上は、1592億元(2兆6900億円)前年同期比37%のプラスだった。これはウォルマートをはじめ、提携している50万に上る実体店舗と共同で、O2O(オンラインとオフライン)連携の販促活動を行った結果である。6月18日当日のウォルマートのオンライン売上は前年の4倍を記録した。

また通販トップのアリババもO2Oに注力し、6月18日当日には、アリババの直営店や、提携小売店に7000万人を集客した、と発表した。

京東の始めた618セールが天下を覆い始めたのである。しかし618期間中シェアを伸ばしたのはアリババの方だった。アリババは5.2%伸ばし45.9%に、京東は3.2%シェアを落とし44.1%となり、この時期として初めて逆転された。これは予定外だったろう。

国際化戦略

国内のライバル、アリババは余りにも強力である。そこで京東は世界展開へ向けてのシフトを強めていた。

2017年9月、京東は5億ドルを投じ、タイ最大の小売商の一つ、尚泰集団と合弁会社を設立した。

2018年2月、欧州を訪問した京東の創業者・劉強東は、2019年には欧州市場へ進出しアマゾンと戦いたい。進出から“若干年”で欧州大陸全体に展開すると述べた。

4月、京東はスペイン語サイト「Joybuy.es」を立ち上げた。このサイトは中南米など4億人のスペイン語圏市場に、サービスを提供する。

そして端午節休暇(6月16~18日)前日、バンコクを訪問した劉は、2年以内にACMECS諸国(ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム)へ、ネット通販、物流、および金融業の技術を提供する。各国のデジタル経済化、生活水準の向上に寄与すると述べた。そして京東のシステムと中国家電の導入により、各国の家電価格は30~50%下落するという。

そして6月18日、京東は、タイ用の通販プラットフォームを正式にオープンさせた。それと時を同じくしてグーグルの出資が発表された。

さらに6月末には、京東は、インドのB2B物流プラットフォームShadowfaxへ出資すると報じられた。

グーグルとの提携

ロイターや京東のWebサイトによると、グーグルは京東の発行する新規株式2710万株を、5億5000万ドルで取得する。双方は戦略的に提携し、共同で国際小売市場の開拓を行う。グーグルとの提携は、京東にとって広範な“創新(イノベーション)空間”をもたらす。京東の新たな一章が始まるのだ、と京東の声明は高揚している。

欧米においてはグーグルショッピングのページに、京東の精選商品を掲載する。米国では商品検索の重要なツールだ。新規顧客の流入が見込める。

京東にとって、618のセール、タイでのネット通販開始、グーグルとの提携発表は、ワンセットである。注目を一身に集め、国際化の進展をアピールすることが目的だ。そしてWEBサイトを見る限り、それは相当の成功を収めている。

アマゾンとアリババは単独でやっていくだろう。そして京東はグーグルという新たな燃料を得て、世界ネット通販第3極の地位を狙う。ここでも中米の争いに収れんされていくのである。日本企業の存在感はどこへ行ってしまったのだろうか。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)