サッカー日本代表の快進撃もあって、日本中がサッカー観戦に夢中だが、試合終了後に行われる監督や選手のインタビューをみていて、彼らの背後の透明なボード上に見慣れない漢字表記のロゴがいくつかあるのに気付いた方はいるだろうか。そこに映し出されるロゴはスポンサーのものであるが、その多くが中国企業によって占められている。
FIFAのスポンサーには、パートナー、ワールドカップ、リージョナルの3種類がある。
FIFAパートナーは、アディダス、コカ・コーラ、大連万達グループ、ガスプロム、現代自動車グループ、カタール航空、ビザの7社である。大連万達グループは不動産、ホテル、文化・旅行、映画、スポーツ、ネットビジネス、金融など、幅広く本土で事業を展開するコングロマリット企業である。
2016年からパートナー契約を結んでおり、期間は2030年までの15年間。ちなみに、日本企業では2007年から2014年までの間、ソニーがパートナーとなっていたが、今は外れている。
また、FIFAワールドカップスポンサーは、バドワイザー、ハイセンス(海信)、マクドナルド、蒙牛乳業、Vivoの5社である。このうち、大手テレビメーカーのハイセンス、大手乳製品メーカーの蒙牛乳業、大手スマホメーカーのVivoは中国企業である。
さらに、リージョナルサポーターは、欧州地域では4社、アフリカ地域では1社がスポンサーとなっているが、アジア地域では、電動二輪車の雅迪、男性ファッションアパレルの帝牌、仮想現実技術を手掛ける指点芸境の3社がスポンサーとなっている。ここではすべてが中国企業となっている。
中国企業がスポンサーとして登場するのは2010年の南アフリカ大会が初だった。この時は太陽光パネルメーカーで発電所の経営もおこなう中国英利がワールドカップスポンサーとなっており、2014年のブラジル大会でも中国英利はワールドカップスポンサーを務めている。
今回のロシア大会では中国企業7社がスポンサーとなっている。米国企業は、パートナーとしてコカ・コーラ、ビザ、ワールドカップスポンサーとしてマクドナルド、バドワイザーが名を連ねているが、全体の数では中国企業を下回っている。
6月17日付のレコードチャイナの報道によれば、「市場研究会社のZenithが7日に発表したデータによると、今大会で中国企業が支払う広告料は8億3500億ドル(約918億円)で、米国の4億ドル(約440億円)や、開催国ロシアの6400万ドル(約70億円)よりずっと多い」と伝えている。
巨額の広告宣伝を出せる中国企業
中国チームは今回のワールドカップには出場していない。それどころか、2002年日韓大会で1度、出場経験があるだけで、その時は、全敗、無得点に終わっている。
ナショナルチームは弱く、ゲームに出られないにもかかわらず、なぜ7社もの中国企業がスポンサーとなっているのか、気になるところである。
まず考えられるのは、中国のサッカー人気が高いからである。筆者は1994年春から北京に駐在したが、多くの中国人がその年の夏に行われた米国大会について話題にしていた。当時の国務院組織の某委員会トップとの宴席では、サッカーの話で盛り上がったのを記憶している。中国のサッカー熱は数十年の歴史がある。
ネットでは、連日、各メディアが詳しく試合結果を伝えており、その内容は非常に充実している(たとえば、http://2018.qq.com/ など)。若者から年配者までサッカーファンの層は厚い。スポンサーとなっている男性ファッションアパレル、食料品、スマホメーカー、電動自転車などの消費関連企業にとっては大きな宣伝効果が望めよう。
もう一つ見逃せない要因として、習近平国家主席が熱狂的なサッカーファンであるという点である。スポーツ振興の中では特にサッカーに力を入れおり、企業の政治的なアピールにも役立ちそうである。
ただ、もっとも重要なのは、中国には収益力の高い企業がたくさんあるという点である。中国の消費市場は規模が大きいだけでなく、豊かである。収益力、成長力が高く、豊富なキャッシュフローを持ち、多額の宣伝広告費を出すことのできる企業がたくさんある。
誰のための米国第一主義なのか
トランプ大統領の保護主義政策はより過激になってきた。
米国は1102品目、500億ドル相当の輸入製品に対して追加関税を課すと発表しており、このうち、340億ドル相当分については7月6日より、実施すると表明している。実際に実施されれば、それが引き金となり、米中の貿易摩擦は、紛争を通り越して一気に戦争状態となりかねない。
米国側は、追加関税措置を更に2000億ドル追加、さらに投資制限にまで発展させれば、中国側もその影響に見合うだけの追加関税以外の方法を含め、制裁を行うだろう。その中には、米国企業による中国市場からの締め出しがあるかもしれない。
それによって大きなダメージを受けるのは、グローバル化した米国の優良企業である。GM、フォードといった自動車メーカーや、スターバックス、マクドナルド、コカ・コーラ、P&G、ナイキ、アップルといった消費関連、ボーイング、キャタピラーといった資本財関連、金融関連など、米国を代表するグローバル企業の中国ビジネスに大きなダメージを与えることになる。これから中間層の増加が見込まれる中国の消費市場は、規模、成長性の面だけでなく、質の面でも世界で最も優良な市場となるはずだ。
トランプ大統領は自国の市場を守ることが米国第一主義だと考えているようだ。しかし、それは、米国において最も競争力のあるグローバル企業にとっては最悪の政策である。現状を客観的に分析する限りでは、意図的(政治的)にグローバル企業叩きをしているかのようである。本当の米国第一主義は米国人、米企業全体にとって第一であるべきだ。
田代尚機(たしろ・なおき)TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/