「クラウド会計ソフト freee」を3か月で生んだ創業者に聞く
「3か月」の使い方で人生は変わる
「やりたいこと」があるけれど、いつも「やらなければならないこと」に追われ、日々が過ぎてしまう人が少なくありません。一方で、「どこにそんな時間があるの?」と聞いてみたくなるほど、次々と新しいことを成し遂げる人もいます。
グーグル在籍時代に「クラウド会計ソフト freee」を構想した佐々木大輔さんもその1人です。著書『「3か月」の使い方で人生は変わる』(日本実業出版社)には、以下のような時間に対する佐々木さんの考え方が書かれています。
「時間の使い方」というと、「仕事を効率化して、処理するスピードを速めて時間を捻出する」ことがゴールと考える人が多いかもしれません。しかし僕は「効率化して生みだした時間で、信頼関係の構築や組織作りなど非効率なことに情熱を注ぐ」ことが、時間の使い方のゴールだと考えています。
そうした時間の使い方と、「3か月」の区切りごとに成果を出していくことを意識することは、実際に僕の人生にイノベーションをもたらしました。
ここに出てくる「3か月」という期間は、佐々木さんが以前働いていたグーグルで「3か月サイクル」としてプロジェクトや人事の区切りとして使われ、圧倒的なスピードや成果を生み出す力の源となっていたのだそうです。
佐々木さん自身も「3か月」という時間の単位は、「何かをつかめる、何かが変わる」時間の最小単位だと考えており、起業など、転機となるときはいつもこの期間がポイントになったのだとか。本書では、佐々木さん自身の体験から得た時間の使い方や、限られた時間のなかで「やりたいこと」を実現するための方法が、さまざまな観点から紹介されています。
今回、freee株式会社の代表として、中小企業や個人事業主といったスモールビジネスに携わる人たちが生産性高く働ける環境を実現するために日々邁進されている佐々木さんに、「時間の使い方」についてざっくばらんにお話をうかがってきました!(文責:日本実業出版社)
アイデアは、思考と議論の両方から生まれる
――佐々木さんは、限られた時間でさまざまなことを実現されていますね。その「やりたいこと」のアイデアはどこからでてくるのでしょうか?
僕は色々なことに挑戦したいタイプなので、常にやりたいことが頭のなかにあります。ただ、もちろん自然にアイデアがわいてくるわけではなくて、インプットに加えてアウトプットを色々な方法ですることを常に意識しています。
読書をしたり、ニュースを見たり、普段感じていることをパソコンやノートに自分で書き出してみたり……。たとえば「この業界は今後どうなるかな」と書いてみる。そして自分で書き出した内容を誰かと議論してみる。自分だけで思考するときと、書くというかたちで表現をするとき、また誰かに話して議論するときに使う頭の筋肉ってそれぞれ違うんですよね。1つに限定しないで、様々な筋肉を使っていると、アイデアが生まれてきます。
また、自分と同じような考え方やスキルをもっている人とのコミュニケーションは、楽でとても話しやすいと思うのですが、自分とまったく違う発想をもつ人と関わることも大切です。自分だけでは気づかない新たな気づきを得られます。
――常にさまざまなことにアンテナを張り、思考したり議論することで、アイデアがストックされるのですね。
そうです。ただ、そのアイデアを一気に実行しようとすると時間が無くなってしまうので、少しづつ今やっていることに関係した領域に広げてみる。そのとき発見をしたことを次への要素として取り入れてみる。
また、目の前のことだけではなく3年後を見据えて、次の「3か月」を使ってみるとか。そうすると、また次にやりたいことがいっぱいでてきます。
やりたいことのリストを常に持っておいて、さらに次に成すべきことを探す時間を意識してつくるようにしていますね。
世の中の「問題解決」につながるかを、問いかける
――リストに加える「やりたい」ことは、やはり好きなことや興味のある分野が多いのでしょうか?
新しいことに取り組むとき、ただ「好き」だけではなく、どう世の中に貢献できるのかということに着目するのが一番重要かなと思っています。
世の中には色々な課題があり、表に出ていない「なんだか不便」「このままだと困るな」ということがたくさんあると思んですよね。そうしたことに目を向け、問題解決に取り組むというのは社会にインパクトをもたらすだけでなく、目標に向かって長く走り続けるモチベーションを保つという点でも重要です。
僕にとってそれは中小企業やバックオフィス業務に関わることですが、他にも見過ごされている小さな問題は世の中にいっぱい存在していると思います。世の中の限られた人しかもっていないような課題や、みんなが注目していないこと、やりたがらない分野は、そこに投資がなされていないし、開発もされていません。そういった「ニッチ」な問題に気づき、自分なりの面白さを発見して取り組んでみると、インパクトのある成果につながりやすいのではないでしょうか。
それに、世の中に貢献するという発想で目標に取り組めば、たとえ失敗しても「このやり方だと失敗する」という貴重なモデルケースを世の中に示すことができます。また、その取り組み自体が価値になるから、おのずと使命感をもって思い切った決断や行動もしやすくなるはずです。
世の中の課題解決につながるか、貢献できるかという発想は、自分自身の成長に大きく関係すると思っています。もちろん、すぐには課題を見つけられないかもしれません。しかし新しい挑戦を常に求め続けていれば、きっと必ずその課題にたどり着くのではないでしょうか。
「悩まない」「立ち止まらない」ことが結果につながる
――なるほど。一方で、「やりたいこと」がみつかったとしても、なかなか実行できない人も多いですよね。限られた時間のなかで、アイデアを実現するためのポイントはありますか?
僕に限らず、色々なことに挑戦し成果を出している人にはいくつか共通の特徴があるように思います。
1つは「思い悩まない」こと。こうだと思ったらとにかくやってみる。もし途中で間違いを発見し方向転換の必要性を感じたらすぐに対応する。思い悩みながら物事を進めていくのはとても難しいし、そこに陥ってしまうと動けなくなってしまいます。「これでよかったのかな」と、考えているうちに時間がどんどん過ぎてしまう。これはすごくもったいないことです。
たまに、悩みつつ全力で取り組めるという超人的な人もいますが、普通の人には無理です(笑)。私たちがやるべきことはしっかりと「考えるモード」と「やり抜くモード」を意識して切り替えることです。
――そうはいっても、ついつい「これでいいかな……」と思い悩んでしまいます。切り替えるための具体的な方法はありますか?
たとえば、グーグルでは「OKR(Objectives and Key Results)」という目標管理指標を使っていました。目的(Objectives)を設定し、進捗や達成度を定量的に判断できる結果指標(Key Result)をおき、その達成を目指してものごとを進めていくものです。このOKRには、「考えること」と「行動すること」を分けるという意味もあるんです。考えて目標を立てたら、とにかくいったんやり抜こうよ、という。もちろん軌道修正が必要なら臨機応変にしなければいけませんが、大まかには決めて、決めたら走ろうよということを繰り返していました。それはfreeeでも同じです。
――「目標を決めて、3か月間走ろう」ということですね。freeeでのプロジェクトには多くの成功事例があると思いますが、とくに印象的な「3か月」の事例はありますか?
freeeのなかでも大きなヒットになったのが「会社設立 freee」というソフトです。会社設立って日本では、いっぱい書類を作らなくちゃいけないからとても大変なんですね。これらの書類を簡単に、かつ短時間でつくれるツールがあればfreeeとしては意味があるんじゃないかと、開発を考えていました。
ただこれは、本当に意味があるのかわからない実験的なプロジェクトでした。だらだらやっても意味がないから、3か月で結果を出そう、それができるんならやろう、ということでGOサインを出した。それから人をアサインして数人の小さなチームを組み、1人が企画して細かいスケジュールを組んで、とにかく3か月間は全力で走り切ってみようとスタートしました。
結果的には、短期間でほんとうにクオリティの高い製品がつくれました。ユーザーのみなさんにもすごく満足してもらうことができた。また、みんな全力で3か月間走り切ったので、チームの雰囲気もすごくよかったんですよね。
このときのチームに迷いはありませんでした。「どうしようか」というのがなく、「もういいんです。これでいくんです」みたいな(笑)。プロジェクトの回し方としては理想的で、関わった人たちにも大きな学びになりました。そして、「こんなに早く、こんなに大きなインパクトをユーザーに与えることができるんだ」ということがわかって、社内においても大きな意味のある事例になった。
ーなるほど。やはり迷いがないということは大きなエネルギーになるんですね!
つけ加えると、ついつい考え込んで立ち止まってしまったときのために、「指摘してくれる人、相談にのってくれる人」を身近につくっておくといいですね。「こういうことをやりたいんだけど、○○が壁になって行動に移せない」というとき、「それって、本当に問題なのかな?」と指摘してもらえる。そうすると「あれ? もしかしたら他の方法があるかも」と気づけたりします。率直なフィードバックをくれる相手がいることは、とても大切です。
他には、周りの人に「○○をいつまでに実行する」と、宣言してもいいですね。明示的に約束することで実現に向けた意気込みは確実に変わります。結局、「いつかやれたらいいな」はいつまでたっても実現しないものです。そういう意味で、プロジェクトを進める最中で、ミッションの意義なども折に触れメンバーと言葉にして確認することも大切ですね。
行動が中途半端なら、結果も中途半端になる
――「思い悩まない」以外に、時間を有効に使うために意識した方がいいことはありますか?
実際に動き出した「過程を楽しめる」というのもポイントの1つです。たとえば趣味や仕事など、夢中になって取り組んでいるとき、気づけば3日たっていたなんてことがあるはずです。夢中なときは集中力もありますし、後悔のない時間の使い方となります。
――夢中で取り組むって、けっこう熱量がいりそうですね。
もちろん、人には得手・不得手があるので、その部分をしっかりと自己認識して、その対策をとっておくことは必要です。たとえば、自分の苦手な作業は他のメンバーに頼んでみるとか、取り組む作業のペースを守るのが苦手であれば、アラートで時間を区切るようにするだとか。苦手なものは気合で乗り越える! という精神論じゃなくて(笑)。夢中で取り組むための仕組みを準備しておくことは大切です。
ときには、「行動」を振り返る時間を取ることも必要ですが、まずはやると決めたら、楽しみながら「行動」する。不安を感じながらだと行動も中途半端になるので。結果につながらないことが多くなります。
――夢中でやっていても結果的にうまくいかないこともあると思うのですが、対処法は?
もし結果として失敗に終わってしまったとしても、夢中で取り組んだならば「あのとき、きちんと行動しなかった」という状況を避けることができます。
成果を出している人というのは、意外とたくさんの失敗をしているものです。しかし彼らは、その失敗も必ず次への糧にします。「3か月」きちんと行動した結果うまくいかなかったのなら、そもそもの方針が間違っていたことがわかります。そして次回はそれを踏まえて新たな「3か月」をスタートする。それができれば、僕は成功だと思っています。
やりたいことを見つけて、「思い悩まず」「夢中」でゴールへ向かう。その結果で得た学びを活かして、次の「3か月」をスタートさせる。そうすれば結果的に、短時間でやりたいことを実現できると思います。
――時間の使い方がうまくいかない……、と悩んでいる方にメッセージをいただけますか?
みなさん実感されていると思いますが、時間は貴重な資産です。その貴重な時間を使ってどう生きるか、限られた時間とどううまく付き合っていくか。今回書いた本『「3か月」の使い方で人生は変わる』は、そういったことを知りたい方のお役に立てる本かなと思っています。
また、「やりたいことがわからない」と漠然とした不安を抱えている人にも読んでもらいたいなと思います。新しく行動できることは、実は身近にたくさんあります。こんな時間の使い方もあったんだという、みなさんの「最初の一歩」に貢献できたら、嬉しいです。
日本の社会人はこれまで、「外向的であること」を過度に期待されてきた気がするんです。他者との関係を重視して、目の前のお客さんや上司、同僚などからの要求にはとにかく最優先で応じる、というような。それができてはじめて他者から承認されるんだよ、というカルチャーがある。
でも本来は他者との関係性などよりも、自分のやりたいこととかミッションが仕事の中心になるべきで、その実現のためには極度に外向的であったり内向的であってりしてはいけない。もっとバランスのいい働き方や時間の使い方があるはずです。そんな仕事を、みんなができるような世の中になればいいと思うし、自分としてもそういう流れを推進していきたいですね。
佐々木 大輔(ささき だいすけ)
freee(フリー) 創業者・代表取締役CEO。1980年東京生まれ。一橋大学商学部卒。卒業後は、株式会社博報堂でマーケティングプランナーとしてクライアントへのマーケティング戦略の立案に従事する。その後、未公開株式投資ファーム・CLSAキャピタルパートナーズでの投資アナリストを経て、株式会社ALBERTの執行役員CFOに就任。2008年に Google に参画。日本におけるマーケティング戦略立案、Google マップのパートナーシップ開発や、日本およびアジア・パシフィック地域における中小企業向けのマーケティングの統括などを担当。中小企業セグメントにおけるアジアでのGoogleのビジネスおよび組織の拡大を推進した。2012年7月、freee 株式会社を創業し、シェアNo.1クラウド会計ソフト「freee」等を提供している。日経ビジネス 「2013年日本のイノベーター30人」「2014年日本の主役100人」、Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング」BEST 10に2015年、2016年選出。
(提供:日本実業出版社)
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