(本記事は、川園樹氏の著書『未来を変える「外見戦略」』KADOKAWA、2018年5月25日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

外見戦略
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

【『未来を変える「外見戦略」』シリーズ】
(1)ジョブズも「ある場所」に行くときはスーツを着たーー外見戦略とは?
(2)大統領は「外見」で決まる ケネディの逆転勝利に学ぶ見た目の重要度
(3)外見を変えたければ最初に服を買ってはいけない、なぜ?
(4)服選びのときに意識したい「心の状態」とは
(5)なぜジョブズやザッカーバーグは「毎日同じ服」なのに記憶に残るのか?

外見は大統領を決める

外見戦略
(画像=chrisdorney / Shutterstock.com)

米科学誌『Science』(2005年6月10日号)に発表された、プリンストン大学の心理学者アレクサンダー・トドロフ博士らの研究によると、選挙では、有権者が候補者の外見から能力を判断して投票していることが分かりました。

博士らは、2000年、2002年、2004年に行われた、米上下両院の選挙候補者2人の写真をペアにして被験者に見せ、「どちらが有能な政治家か」という判断をさせました。被験者が写真の政治家のどちらかを知っている場合には、知らない政治家のペアに変えて行いました。

つまり、実験では「顔写真」のみから政治家の有能さを判断させたことになります。

被験者の回答を得た結果と、実際に行われた選挙の投票結果を比べてみたところ、米上院の選挙では、2000年の73.3%、2002年の72.7%、2004年の68.8%の結果が一致していたそうです。

つまり、約70%の人たちが、候補者を「外見だけで判断している」ことが説明できたのです。

国の代表を選ぶ大統領選でさえ、人は外見で判断し選んでいます。

ご存知の方も多いかもしれませんが、「外見戦略」の考え方と、それによる効果を分かりやすく比較し理解していただくために、1960年の米大統領選挙の例を引用させていただきます。

民主党のケネディ候補、共和党のニクソン候補が激しい選挙戦を繰り広げていました。

世論調査ではニクソン候補がケネディ候補をわずかにリードしていました。ニクソン候補は8年間の副大統領経験があり、政治家としてのキャリアも長く、演説も巧みでした。

一方、ケネディ候補は年齢が若く政治経験も少ないため、多くの政治評論家はニクソン候補の勝利を確信していました。

しかし、テレビ討論で流れが一変しました。ラジオで聴いていた人々は、ニクソン候補が勝利したと思っていましたが、8000万人が視聴したテレビ討論では、視聴者の多くがケネディ候補の勝利を確信し、事実ケネディ候補が勝利したのです。

ケネディ大統領誕生の裏側にはケネディ陣営の明確な「外見戦略」がありました。

一方、ニクソン陣営は、討論内容には力を入れましたが、「外見戦略」を怠っていました。

二人の外見の違いについて、いくつかのポイントから比較してみましょう。

(1)服装

【ケネディ候補】
濃紺のスーツ、薄水色のシャツ、赤と青のストライプのネクタイ、ポケットチーフ。
体型にフィットしたスーツ。

【ニクソン候補】
グレーのスーツ、白のシャツ、単色で薄めのカラーのネクタイ。
体型にフィットしないブカブカのスーツ。

まず色に関してですが、ケネディ候補のスーツは、濃い色でダイナミックさや堂々とした印象を与え、一方、ニクソン候補のスーツは、薄い色で弱さや控えめな印象を与えます。

また、ケネディ候補の濃い色のスーツと薄い色のシャツはコントラストが強く、生き生きとした強烈な印象を与えています。一方で、ニクソン候補の薄い色のスーツと薄い色の白シャツはコントラストが弱く、控えめでぼんやりとした印象を与えます。

特に白黒画像では濃い色、薄い色のコントラストは際立ちます。

そして、背景とのバランスを考えることも大切です。

例えば、プロフィール写真の撮影時やテレビなどの出演時は、背景の色や要素とのバランスを考えて、同化しないようにコントラストを強調するようにすることで、本人の存在感や表情、発言の情報を強めることができます。

次にサイズに関してですが、ケネディ候補は体型にフィットしたスーツを着用していることで、自身をきちんとコントロールしているように見え、主張が強く伝わり、存在感も増し、力強い印象になります。

一方、ニクソン候補は体型にフィットしないブカブカのスーツを着用していることで、スーツに自身をコントロールされているように見え、主張の伝わり方が弱く、全体的に弱々しい印象になります。

最後にVゾーンを見てみると、ケネディ候補は、2つボタンのジャケットの前ボタンを外し、胸元、Vゾーンがたくさん見えているので、隠し事がなく正直で、自信がある印象を与えています。

一方、ニクソン候補は、前ボタンを留め、胸元、Vゾーンの開きが少ないので、保身的で経験が浅く、自信がないような印象を与えます。

例えば、リクルートスーツなどは前ボタンの位置が高く、Vゾーンがあまり見えないので、初々しさや従順な印象を与えます。

またご年配の政治家の方や経営者の方に多く見られるのですが、前ボタンの位置が低すぎたり、ブカブカのジャケットの前を開けたままだったりするのは、Vゾーンの開きの面では、ある種の大物感を演出することはできますが、度がすぎると時代錯誤で融通が利かない、高圧的な印象になりますので、注意が必要です。

(2)顔色・表情

【ケネディ候補】
プロによるテレビ用のメイクアップを施し、健康的に見える。
笑顔が多く、終始表情が豊か。

【ニクソン候補】
プロによるテレビ用のメイクアップを拒否したため顔色が悪く見える。
笑顔は少なく、終始表情が硬い。

顔色や表情を見てみると、ケネディ候補は、顔色がよく、表情が明るいので、言葉のメッセージも明るく伝わります。

一方、ニクソン候補は、顔色が悪く、表情が暗いので、言葉のメッセージも暗く伝わります。たとえ、どんなに明るいメッセージであったとしても、言葉通り明るくは伝わりにくくなります。

(3)立ち居振る舞い

【ケネディ候補】
背筋をピンと伸ばして、堂々と立っている。
座っている姿勢も良く、終始落ち着いた動き。

【ニクソン候補】
背筋が曲がり、演説台に寄りかかっている。
座っている姿勢は悪く、終始落ち着かない動き。

立ち居振る舞いでは、ケネディ候補は、背筋を伸ばし、堂々とすることで、言葉の信頼性が増し、メッセージが力強く伝わります。

一方、ニクソン候補は、背筋が曲がり、体の軸が曲がっていることで、自信のなさや不安があるのではないかと感じさせ、言葉に疑いが入りやすくなりメッセージが弱く伝わります。

なお、ニクソン候補が演説台に寄りかかっていたのは膝を怪我していたためであり、頻繁に汗を拭いていたのは、ハードなキャンペーンをこなしていたため体調不良であったので、大量の汗をかいていたというのが理由でした。

演説や実績には絶対的な自信があり、それらの振る舞いは決して「自信がない」「焦りがある」ということではなかったのですが、見ている人への印象としてはそのように伝わってしまいました。

人は「事実であるかどうか」ということ以上に、「どのように見えているか」ということによって心が動き、大きな決断をするということが分かります。

このように、テレビが普及して初めての大統領選挙でケネディ候補を大逆転勝利に導いた理由は、緻密な「外見戦略」にあったのです。

川園樹(かわぞのいつき)
国際イメージコンサルタント。静岡県生まれ。明治大学法学部卒業後、富士通株式会社で営業戦略を担当。退職後、Image Resource Center of New York認定スクールで国際基準のイメージコンサルティングの手法と実践を学ぶ。アメリカにてAICI(国際イメージコンサルタント協会)の国際イメージコンサルタント資格を取得。帰国後、海外の要人や政治家、上場企業経営者、文化人やスポーツ選手、起業家など3000人以上のイメージコンサルティングを担当。成果を出すコンサルティングに定評があり、個別コンサルティングはキャンセル待ちが続いている。