米国との貿易摩擦による影響はあるが、短期的には中国本土株が上昇傾向にある。上海総合指数は7月24日現在、3営業日で4.8%上昇(7月19日~24日、終値ベース)している。上海市場に上場する時価総額の大きな50社で構成される上海A50指数は同じ期間に5.7%上昇、新興企業で構成される創業板指数は2.5%上昇に留まっている。超大型株がけん引する相場となっている。

本土市場は僅か3営業日で様変わりしたが、上昇の起点となったのは20日後場からだ。この日の前場は商い閑散で、上海総合指数は前日の終値を挟んで売り買い交錯、前引け段階ではわずかに前日終値比マイナスとなっていた。

少し前の状況を補足しておくと、12日(木)から19日(木)までは6日続落となっている。20日(金)前引けの段階では、底割れに向かう危険性の高い状態であった。しかし、後場に入り突如として大量の資金が銀行、保険、証券といった金融セクターなどに流入、指数は急反転したのである。

この時の場中や、大引け直後における本土の市場コメントをみると、政府による株価安定化資金が入ったのではないかといった見方が多かった。相場つきをみれば、誰でもそれしか考えつかない値動きである。

ただし、大引け後、重要な政策が発表された。

銀行理財業務の規範化が好材料

中国,景気,株
(画像=PIXTA)

中国銀行保険監督管理委員会は20日16時過ぎ、商業銀行理財業務監督管理弁法(意見徴収稿)を発表した。内容は理財商品の分類、管理、運用の規範化、透明化、リスク・レバレッジの管理、流動性のコントロール、運用機関の管理、ディスクロージャーの強化、商品の管理などで、詳細な規定が記されている。

少し時間を置いて中国人民銀行は「金融機関の資産管理業務指導意見を更に一歩進めて明確に規範化するための関連事項に関する通知」を、さらに、中国証券監督管理員会は20日夜間、「証券先物経営機関私募資産管理業務管理弁法(意見徴収稿)」を発表した。これによって、資産管理に関する新規則の細則がすべて出そろった。

これらの新規則が打ち出された狙いは、これまで銀行、証券、保険に分かれていた資産管理に関する行政管理を一本化したことにあり、過度に期待することはできないかもしれない。しかし、年初からの金融リスク縮小政策の加速によって、銀行は理財商品の販売を自粛せざるを得ない状態に追い込まれていた。

そうした中で、資産管理に関する新たな細則が発表されたことで、今後の業務拡大に期待できる状況となった。銀行の理財商品は株式で運用される部分も多く、当然、株式市場にとってポジティブである。

20日(金)の後場、相場をけん引したのは金融株である。相場の動きから判断する限り、政府系ファンドを含め、事前に知りえた大手金融機関が買いに入った可能性がある。

積極財政金融政策、景気に配慮

23日(月)寄り付き前には大きな悪材料があった。長生生物科技(002680)による狂犬病ワクチン生産に関する記録ねつ造事件である。生後3か月の乳幼児が接種を受ける狂犬病ワクチンが違法な工程によって製造されていたとあって、世間に与える影響は極めて大きい。

事件自体は15日に発覚、16日から20日にかけて同社の株価は5日間連続でストップ安となっていたが、22日(日)夜間、国家薬品監督管理局はこの件を公安機関に移送し、刑事事件として追及することになったと発表した。

さらに、マスコミが23日(月)早朝、あらゆるワクチンの生産、販売、流通に関して徹底的に調査するよう李克強首相が指示したと伝えたことで、バイオ医薬関連セクター全体に影響が出るとの見方が広がり、関連銘柄が売られ、相場全体が売り一色といった状態で寄り付いた。寄り付き直後に0.7%安まで売られたものの、その後は断続的に資金が流入、大引けでは1.1%高で引けている。

24日(火)には政策面での好材料も出ている。李克強首相は23日、国務院常務会議を召集、財政金融政策の作用を更にしっかりと発揮するように、内需構造の調整を拡大し実態経済の発展を促すこと、弱点部分の補強を巡り、後方からの支えを増強し、民生に恵みをもたらすよう有効な投資措置を推し進めることなどを指示した。

国家融資担保基金は資金拠出を加速することで、毎年新たに15万件の零細企業に1400億元の貸出を行うといった目標を実現できるよう努力するとしている。決して、株式市場に一気に資金が入るような華々しい緩和策ではないものの、当局は景気に配慮しているという点が確認できただけでもポジティブである。

個人が割安感から買いに入ったことで起こる自律反発ではなく、比較的長期に持つことが多い機関投資家が買いに入ったことで上がっているとみられることから、今回のリバウンドは相対的に強力なものとなりそうだ。

田代尚機(たしろ・なおき)TS・チャイナ・リサーチ株式会社 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/