1970年代生まれの「同級生」
今月末、2018年3月末をもって、JR三江線がいよいよ廃線となる。
別れを惜しみ、連日多くの人が詰めかけているという。私も最後にもう一度乗りたいとは思うが、別れを本当に惜しむ人の邪魔になるのではないか、この混雑では満足に別れを惜しめないのではないか、そんなことを考えつつ、廃線までひと月を切ってしまった。多分今月末まで、この心の葛藤が続くのだろう。
それほど熱狂的な鉄道ファンというわけでもない私が勝手に三江線に思い入れている理由の一つは、40代の私にとって三江線が「同級生」だということだ。三江線は1930年に部分開業し徐々に路線を伸ばしていったが、全線開通は1975年で、私の生まれた年と一緒。つまり、三江線と自分はこれまで、ほぼ同じだけの年月を過ごしてきたといえる。
その後の歩みもなんとなくシンクロしている。子供の頃、ジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれ、日本はこれからもっともっと発展していくと信じて育ってきた。しかし、バブル崩壊により徐々に潮目が変わっていき、学校を出て就職するとなったとき、世間はいわゆる「就職氷河期」。入社後は「バブルは良かった」という思い出話をあちこちで聞きながら、不景気に耐えつつ働く毎日。なんだか貧乏くじを引かされた気分だった。
一方の三江線。1975年はまだまだ鉄道華やかなりし頃とはいえ、国鉄の赤字が見逃せない問題となっていた時代でもあった。そもそも、全線開通前の三江線は三江北線と三江南線に分かれていたが、どちらも赤字路線であり、全線開通したところでそれが変わることもなかった。
そして訪れた1987年の国鉄の分割民営化。民営化したことでより収益性が問われるようになり、三江線は「赤字ローカル線」の代表として名前が取りざたされるようになってきた。そして、ますます進んでいくモータリゼーション。三江線が人ならば、「あれ、せっかく全線開通したのに、思ってたのと違わないか?」と感じたのではないか。
黙々と走り続けた三江線へのシンパシー
2000年代に入ると、実感はなくとも株価が回復し、世間的には経済が右肩上がりと言われるようになった。この世代は20代後半から30代の「中堅」と呼ばれる層に入ったが、企業が採用を絞ったこともあり、部下はなかなか増えなかった。来る日も来る日も現場仕事。さらに2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災が追い打ちをかける。この当時、疲弊して体調を崩す人、会社を去る人も多かった。
その間、三江線もまた山間の複雑に湾曲する路線を来る日も来る日も同じように、黙々と走り続けてきた。
三江線に乗ってみると、そのカーブの多さ、複雑さに驚かされる。三次から乗っても江津から乗っても、すぐに列車は街を離れ、大自然の中に飲みこまれる。川を渡り、山を潜り抜け、そしてまた川を渡る。雄大なる江の川沿いのわずかな平地を走る車両を傍からみると、そのちっぽけさと健気さについ心を打たれてしまう。
そして、そんな疲労が蓄積して溢れ出したかのように、2006年の豪雨による土砂崩れで、三江線は全線復旧まで約1年間の長期休暇を迫られる。
合理化の波も同時に!?
2010年代に入っても、この世代の仕事の状況は一向によくなる気配はなかった。部下はやっぱり増えずに仕事だけが増えていく。マネージャーとは名ばかりで、プレイヤーとしての結果ばかりが求められる。先を見ると、役職者のポストに空きはなく、年金不安がこれだけ叫ばれてはお金を使おうという気も起きない。この年代にとって明るい話題はほとんど聞かれない。
そして合理化の波がいやおうなく襲ってくる。世の中は人手不足と言われるが、一方で大企業によるリストラ計画も相次いで発表されている。AI化により「仕事がなくなる」と言われるが、その影響を一番受けるのは40代だ、などという記事も多い(弊誌でも何度も取り上げている)。
一方の三江線にも合理化の波が迫ってくる。何度も出ては消えていた廃線の話が現実味を帯びてくる。2013年には再びの長期休養(運休)。最後の希望だった増便実験の成果もはかばかしくなく、ついに2016年、廃線が発表された。
そして満員となった三江線
とはいえ、検事が対峙するのは犯罪者だ。なかには殺人や強盗などの凶悪犯もいそして、廃線が決定したことで三江線に乗る人はぐんと増えた。こうした光景は先日廃線となった江差線や留萌本線(留萌―増毛間)などでも、これまでにも何度も見られた光景だ。そうした人たちを揶揄した「葬式鉄」などという言葉もあるそうだが、それでも、満員で走る三江線を見ると、同い年として誇らしい。
なかなかに難儀な人生を経てきた三江線と今の40代だが、唯一違うのは、我々の40年はその半分がモラトリアムだが、三江線はその間ずっと、来る日も来る日も働き続けたこと。
というわけで、シンパシーを感じつつも、三江線に比べたら40代の苦労などまだまだひよっこ。今後も頑張らねばとも思ってしまう。
そして同級生・三江線に改めて「お疲れ様」を。
(執筆:「THE21」編集部、吉村健太郎)
(『The 21 online』2018年03月10日 公開)
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