(本記事は、玉川陽介氏の著書『常勝投資家が予測する日本の未来』光文社、2018年2月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
家はレゴブロックのように均一化される
2025年を生きるアッパー・ミドルたちはどのような生活をしているだろうか。
2018年現在の物価で年収800万円以上。有名私大から大企業の部長になった「悪くない」ポジションの50代だ。
会社では将来の役員候補とまではいわれないまでも、チームのトップを務め、課長、部長と順調に出世レースを勝ち抜いてきた企業戦士たち。
そこから得られる給料により、2025年の日本で上質な私生活をおくることができているのだろうか。
何が上質かは人により定義がことなるが、ひとまず、本項のテーマであるマイホームに焦点をあてて考えてみよう。
2025年の住宅は、その10年前よりも機能性は向上しており、これといって改善の必要な点はないといえるほど完成されたものになっているだろう。
ただひとつ、デザイン性を除いては。
戸建て壁面の主要な材料は、サイディング材といわれる偽物のレンガになった。室内のフローリングも木製かと思ったら、表面は印刷で仕上げた人工材料だという。
天然木よりも人工材料のほうが規格も揃っていて、虫食いや、そりもないから使いやすいそうだ。
また、窓は小さいほうが断熱性に優れエネルギー効率が良いという理由で、開放的で大きな窓は2025年のマイホームからは消える。
このように、普通の家は、プラスチックやセラミック、ビニールなど人工材料の集合体となるだろう。
そして、戸建てのデザインは規格化されて、色以外はすべて同じだ。レゴブロックのようなパーツを組み合わせて家が作られることになろう。
かつては「コピペ住宅」と呼ばれていたが、あまりにどこでも同じなので、2025年にはそれすら言われなくなるだろう。
これらの人工材料と均一化は、なぜ起きたのだろうか。それに至る理由を考えてみよう。
2025年の日本では、土地や建築資材の高騰に対して、給料は思ったほどは上がっていないだろう。
限られる月々のローン返済額のなかで、それなりの家を提供するには、コピペのような住宅を大量生産して安く届ける以外に方法がなかったのだ。
そのため、本物の素材を使用すること、デザイン性を考えることは、コスト面から割愛された。
すべては、低価格でそれなりのものを全員に届けるための設計思想だ。その思想をひとことで表現すれば「豊かさよりもコストパフォーマンス重視」だといえる。
これは、悲しむべきことなのだろうか。
バブルを経験した高齢者から「本物を知らない世代」といわれようとも、「所有より経験」をモットーとして育った世代が気にすることではないはずだ。
しかし、家の選択肢だけを見ると「一億総中流」といわれた過去の日本のように、再び社会主義的な世界に戻ったようだ。
都心のマンション群は「テネメント(Tenement)」と呼ばれた、旧ソビエト共産圏の味気ないデザインの集合団地を彷彿とさせる。
東京では、年収800万円はハイクラス人材だ。
しかし、彼らの住宅事情だけを見れば、必要十分とはいえ、人工材料でできたコピペ住宅に住むことを余儀なくされ、周辺に緑豊かな公園があるわけでもない。
お世辞にもハイクラスな住環境とはいいがたい。
ハイクラス世帯のためのシェアリングエコノミー
ただ、ハイクラス世帯は、シェアリングエコノミーで生活が少し便利になるかもしれない。
高級マンションの共用部分には、スパやネイルルーム、キッチンスタジオ、ワインセラー、ゲストルームなどが基本設備として浸透して久しい。
しかし、これらの設備は維持費がかかる割には、それほど頻繁に使うわけでもなく、なかば物件販売時の「広告塔」としての意味合いも強い。
これらの設備にお金を掛けるよりも、運用、サービス面を充実させるマンションが増えるだろう。設備というハードウェアにお金を掛けず、サービスやソフト面に使うという近年の潮流は、住宅の設計でも同じだろう。
ところで、家事代行サービスをご存じだろうか。
1回1万円程度の予算で、風呂や台所、床の清掃などを請け負う業者だ。
一度使えば、次から自分で掃除をするのが面倒になるという不可逆性も兼ね備えているため、リピート利用率の高いサービスだ。
忙しい共働き家庭が増える社会構造に合わせて、今後、拡大するビジネスのひとつだろう。
多くの人が家事代行の便利さを理解し、それを頻繁に利用するようになれば、次は家にメイドがやってくるかもしれない。
海外の富裕な家庭では、コック(家事使用人)が料理をして、メイドが子どものベビーカーを押し、掃除、洗濯など、一通りをこなすのが一般的だ。
海外のメイドやコックは、富裕層の豪邸の一室に住み込みで働く、出稼ぎ労働者の外国人だ。メイドは、日本の大学生が住む、ユニットバス付きのワンルームマンションのような狭い部屋に住み、二段ベッドに寝泊まりしている。
場所にもよるが、アジアの発展途上国から来た中年女性が多い。月給は3万円から6万円程度だ。
なお、本物のメイドは秋葉原のメイド喫茶で接客するメイドとはまったくことなる。メイドは、日本人の感覚では理解の難しい、一般の人々と比べて階級や扱いが明らかにことなる労働者たちだ。
たとえば、「家人が夕食を済ませる前にメイドが食べてはならない」「ときに台所や風呂場の床に寝泊まりすることを強いられる」などがその扱いだ。
都会で生活する日本人が、料理や乳児のケアなど繊細さの要求される仕事を、見ず知らずの外国人メイドに頼むかといえば、そうはならないかもしれない。
日本の狭い家にメイドが住み込むこともないだろう。
だが、家庭内の雑務や介護を外部委託する生活スタイルは浸透するのではないだろうか。
おそらく、マンション一棟に何人かのアジア人出稼ぎ労働者が住み込みで常駐し、入居者宅を輪番で回るような、通いメイドとなるだろう。
人件費が高い日本で、人の労務を時分割でシェアすることは理にかなっている。
これには、最低賃金や人権など日本の法律との兼ね合いもあるが、他国では一般的であることを考えれば、不可能ではないはずだ。
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