『失敗しない銀行員の転職』著者・渡部昭彦氏に聞く

地銀行員,転職市場
スルガ銀行本店入り口(画像= kamonegi101.3/wikipedia)

Fintechの発展など金融を取り巻く環境が激変する中で、メガバンク3行は自然減による大規模リストラ策を相次いで発表。とりわけ、みずほ銀行の19,000人削減は大きな話題になった。しかし「本当に深刻なのは、地方から首都圏へのマネー流出などにより地盤沈下が止まらない地銀だ」という指摘も多くみられる。

元々、銀行は役員になれる極一部を除いたほぼ全員を最終的に行外に放出するが、上記のような状況もあるため、地銀行員にとって転職は一層差し迫った問題だといえる。そこで、自身も銀行の人事部で働いてきた経験を持ち『失敗しない銀行員の転職』を著した渡部昭彦氏に、地銀行員の転職について伺った。

出口の見えない地銀の出口は?

昨年から今年にかけメガバンクで相次いで人員削減のリストラが発表され、週刊誌上には「銀行員大量失業時代到来」と言った刺激的な言葉が並んだ。「生き残りをかけた」と言う表現にある通り、銀行界の置かれた構造的な厳しさは確かだろう。

それでもメガが生き残る可能性を本気で疑う人はまずいない。「Too big too fail」を持ち出すまでもなく、バブル崩壊後の合従連衡で大手銀行の体制は一応の秩序を回復したのも事実だからだ。

ちなみに、当時の大蔵省が「大手行は潰さない」と宣言した23行(都銀13行+信託7行+長信3行)は、3メガ中心の大手4行体制に収れんした。こうした供給側における事実上の寡占化は、不断の効率化努力を前提としつつも、企業維持への懸念を大きく後退させた。

それに比べ、地銀は出口がないと言われて久しい。まさに先週、懸案だった九州での地銀の統合が認められ「今回の『長崎方式』が地銀再編の起爆剤になるか」と言った趣旨の記事がニュースで取り上げられている。

地銀業界の構造的問題が「オーバーバンキング」である以上、再編は今後も続くだろうし、出口戦略の本命であることは間違いない。大都市圏から離れた地銀であれば「籠城作戦」で時間を稼げるのに比して、メガ等大手行との競合が激しい首都圏等についてはガチンコ勝負で行くしかない。従って、(他業態も含めた)統合は必至だ。

ここで行員に目を転ずれば、時間の軸はともかく、メガと同様な人員削減と処遇の切り下げは必至だ。実際に、若手行員の流出が増えているのは、このような「行く末」を現場で敏感に感じ取っているからだろう。そこで、中堅層も含めた大都市圏における地銀行員の転職について、あらためて考えてみたい。

大都市圏における地銀行員の優位性

一番目は地域的に転職候補先企業の数が多いと言うことだ。「地方創生」の掛け声とは裏腹に、経済面での都市集中が進んでいるのは周知の通りだ。グローバルには遅れていると言われながらも、日々多くの新規事業が大都市圏では生まれている。IPO銘柄を見れば分かるが、設立10年以内の企業が少なからず並ぶ。成長企業における人材ニーズは膨大だ。

また、大企業も新しい業態への進出を買収やスピンオフで続けている。マネジメントストラクチャーの変更は人材ポートフォリオの再編を伴うため、ここでも外部人材ニーズが生じる。

さらにこれは社会問題化しつつあるが、高齢化に伴う「後継者難=大廃業時代の到来」だ。国の試算では2015年までに約250万社で後継者を探す必要があるものの、後継者難でその3割が廃業する可能性があるとしている。この問題は、質的にはむしろ地方の方が深刻だが、数で言えば圧倒的に大都市圏でのインパクトが大きい。ここでも人材ニーズは膨大だ。

二つ目の優位性は、逆説的な言い方だが、地銀行員の給料は大手行に比して高くないという点だ。

メガバンクの報酬水準は、30代で1000万円台に乗って来るなど高水準だ。年齢層によって異なるが、ざっくり言えば地銀行員はその6~7割の水準だろう。これでも一般の事業会社、とくに中堅・中小規模の企業と比べれば高水準だが、大手行の行員との比較では、その分だけ事業会社への転職に伴う給料差(ダウン)の障壁は低い。

言い換えれば、大都市圏地銀行員はメガバンクの行員や都市圏以外の地銀行員(かつ地元での就職を希望する人)に比して、処遇ギャップの障壁という点からは一般事業会社への転職をしやすい環境にあると言える。

三つ目は、むしろこれを最初に上げるべきだったが、厳しい環境下で鍛えた(はずの)営業力や企業を見る目だろう。

メガ行員は本人達は気づいていないが、圧倒的に優位な立ち位置で仕事ができている。ゼロ金利下の厳しい環境とは言え、メガバンクのステータスと信用力は引き続き絶大だ。中小企業にとって、自社サイトに掲載している会社概要の取引銀行欄にメガバンクの名前があることはそれなりの意味を持つのだ。

一方、必ずしもステータスの強みを持てない地銀行員にとって企業を引き付けるのは営業力しかない。簡単に言ってしまえば顧客目線のビジネスだろう。昔風に言えば「どぶ板を踏む営業力」かも知れない。だが、その分だけ企業、とくに中堅・中小企業を見る目も涵養されているはずだ。

融資判断は地銀においても、メガ同様、スコアリングモデルに基づく格付け(信用ランク)に応じて融資限度額や金利・期間などの諸条件が決められている。しかし決定的に違うのは、日々の資金管理等の付き合いを通じて、企業の経営者や財務責任者と接する機会が多いことだろう。

言葉はストレートだが、メガ(の担当者)にとっては「単なる一取引先」に過ぎなくても、地銀にとっては「死命を共有する大切なお客様」なのだ。企業を見る際の真剣味が違うのは当然だろう。

それではどうすれば意味ある転職ができるのか。

地銀を取り巻く環境が厳しくなっているいま、処遇の切り上げやポスト不足による人事(昇進)の停滞はあるだろうが、信用第一の業種柄である以上いきなり「クビ」になるという事態は考えづらい。言い換えれば、なり振りさえ構わなければ、定年またはその近くの年齢までずっとぶら下がってはいられるだろう。

とはいえ、いまは人生100年時代・社会人50年時代と言われている。当然ながら、若い年代であればあるほど「ぶら下がり人生」への抵抗感は強くなる。その観点からあらためて考えると、地銀行員にとって転職の目的となるのは「将来に広がりのある仕事」に就くことではないだろうか。

「意味ある転職」と大上段に構えなくても、まず考えるべきは、自分が何をできるかと自分は何をしたいかだ。とくに年齢が若ければ若いほど、後者が重要となる。

失敗しない銀行員の転職
(画像=日本実業出版社)

「漠とした将来への不安」があるから転職するというのは、動機としては分かるが「何を目指すか」とは異次元の話である。事業会社で経営幹部を目指すのか、金融大手に入ってリベンジをするのか、コンサル・ソリューション系の会社に転身を図るのか、まずはよくよく考える必要がある。

その目標を定めたうえで、これまで自分のキャリアが使えるのかどうか。不足している部分があるのならそれを自己研鑽で補えるのか、そのための時間はあるかなど、各々の状況に応じた対応が必要なのは言うまでもない。

そのなかで地銀行員に一般的に言えることは、メガバンク等大手行の行員との比較でみた際の優位性は、中堅・中小企業の事情に通暁している、またはそう見える、ということだ。

メガの行員にとってのキャリアパスは、営業であれば「法人>個人」、法人であれば「大企業>中堅・中小」、職種で言えば「本部>営業」の優先順位だ。言い換えると、本気で中堅・中小企業と付き合う気持ちを持っているのは少数派だろう。地銀行員は、自身が持つこの優位性を軸に転職先を順番に考えてみよう。

トレンディなところで見ると、M&A仲介会社に移る人が増えている。外資系投資銀行は言うに及ばず、メガ系など日系の大手金融機関もグローバル大型案件など「目立つM&A」に注力しており、社会問題化している事業承継を含む中堅・中小のM&A仲介の担い手は、専業のM&Aハウスの独壇場に近い。

こうした専業のM&Aハウスの大手は上場もして高収益を上げているが、人材採用ニーズは旺盛だ。中堅・中小のオーナーと話をして事業承継の悩みを聞くことができる、地銀行員の得意分野ではないだろうか。

リテールに強いキャリアを生かすと言う意味での本丸は、やはり中堅・中小のオーナー系事業会社への転職だろう。事業承継者(=社長)とまでは行かずとも、財務・経理をベースに事業企画までを守備範囲としてオーナーの懐刀としての活躍が期待できる。実際、CFOとして活躍している地銀OBは多い。

この場合、当初の年収は銀行より多少見劣りするかも知れないが、オーナー系企業は気に入られさえすれば、60歳どころか70歳を超えて働くことができる。こと報酬と言う観点に絞ってみても、生涯を通じてみるとこうしたキャリアの方が多くなる可能性も高い。

オーナー系事業会社の流れで再度トレンディに目を移すと、ベンチャー企業への転身も増えている。メルカリを見れば分かるが、最近のベンチャーの主流は「ネット+BtoC」、または「CtoBtoC」だ。これに「シェアリング」が応用問題として加わるが、いずれにせよ軸はリテールだ。

地銀行員,転職市場
自分のキャリアの方向をどう定める?(画像=ra2 studio/fotolia)

地銀行員が職種としてWEBマーケティングの分野に飛び込むと言うのは余りないかも知れない。しかし、ベンチャーがもつ課題の一つとして資金調達がある。IPOも視野に入れながら、これまでに培ったリテールの目線で財務や事業企画に携わることは、元・地銀行員にとってはやりがいが感じられる仕事に違いない。

年収やキャリアの連続性を勘案した転職であれば、ノンバンクを含めた大手金融会社への転職も視野に入るだろう。カード・信販会社やリース会社での営業は違和感なくできるだろう。既に老舗の域に入りつつあるが、流通系の銀行や証券での企画・営業業務も地銀行員の守備範囲だ。これらの企業でもリテールへの目線は比較優位なキャリアとして機能する。

地銀行員のキャリア(異動歴)はそれほど複雑ではない。伝統的なバンキング業務が中心だからだ。本支店での預貸業務をベースに、マーケット・投資業務、大手のシ団(シンジケート団)に入る形での証券・国際業務、金融周辺としてのリース・不動産関連業務が一部加わる程度だ。

非預貸業務については、既に主業務として位置づけられているメガ等大手行の経験者にはかなわないだろう。よって、地銀行員が自己研鑽などで地力を上げるとすれば、財務・会計・税務についての専門知識のシェープアップが望まれる。

会計士・税理士などの高級資格取得ができればべストだが、不動産鑑定士・証券アナリスト・中小企業診断士などの資格取得によるベース能力の向上も十分意味がある。要は、目標を定めて着実に準備、努力をすると言うことだ。

地銀行員のこれからの道

地銀に入る人材のパターンは大きく分けて二つだ。

一つはメガ等大手銀行に入りたかったがそれが叶わなかった場合。もう一つは地元志向だ。「地元名門高校→大都市有名大学→Uターン就職」や、逆に「近隣県の高校→地元国立大学→土着型就職」だ。

もともと、大企業の少ない地方都市において地銀は数少ない名門企業だ。とくに後者の人材にとって「厳しい環境下だから外の会社に行きます」と言うのはすぐに決められることではない。プライドの問題もあるが、それ以上に、外の世界でやっていけるかどうかの不安もあるだろう。

その意味では前者に転職者が多いのも事実だが、これはどちらがいいとか悪いとかの問題ではない。キャリアとはそういうものなのだ。大都市圏の地銀行員は転職の環境に恵まれているからこそ悩みも深い。とはいえ、本質的には同じだろう。

転職とは、詰まるところ「人間関係の新たな構築」だ。それまで5年、10年、20年と大切に育ててきた人間関係から離れ、ゼロからそれを作り直すプロセスなのだ。

だから、銀行員のように濃密な人間関係の中で仕事をしてきた者にとっては天地がひっくり返るほどのインパクトがある。転職して最初は猛烈な孤独感に苛まれる。その中で、一つひとつの仕事を通じて信頼を得ながら、一人ひとり仲間を増やしていくのだ。自分で新しく作り上げた人間関係は、間違いなく大切で貴重な財産になる。

転職するかどうかに悩んだら、新しい人間関係の構築への興味の有無を自分自身に問うてみるのもいいだろう。まだ見ぬ仲間が待っていてくれるかも知れないからだ。

(提供:日本実業出版社)

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