家計支出が低迷する理由

ロストジェネレーション, 経済成長, 消費
(画像=PIXTA)

基本的に、個人消費の動向は雇用と所得環境で決まる。また、先行きについても安定的な雇用や所得の増加が予想されれば個人消費は増える。

家計の可処分所得が増えると、個人消費も増えることになる。なぜなら、可処分所得というのは、額面の収入から税金や社会保障費を除いた手取りの収入の合計で、家計が自由に使えるお金の基準となるからである。

また、家計の額面収入は就業する企業の業績に左右されることから、企業業績が変動すると世の中の個人消費も影響を受ける。逆に言うと、可処分所得が減ると個人消費も減ることになる。つまり、家計の可処分所得と個人消費は正の相関関係にある。

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このように、家計の可処分所得が増加すれば、個人消費が増えやすくなることは理解しやすいだろう。しかし、同時に重視すべき問題は、将来の社会保障のための行き過ぎた消費増税や社会保障の効率化も消費を抑制するということである。

社会保障給付費を見るには「年金」「医療」「介護」の3つの項目が重要となる。一つは高齢者比率が高まれば受給者が増加することから支給額が増加するとされていた「年金」である。しかし2015年度の年金給付額は56.5兆円と見通されていたが、実績はそこから1.6兆円減の54.9兆円にとどまった。

また高齢化が進むほど医療機関にかかることが多くなると言われていた「医療」給付費は、2015年度見通しの39.5兆円から実績は1.8兆円減の37.7兆円まで減少した。更に、高齢化が進めば進むほど介護費用も必要になると言われ2015年度見通しの「介護」給付費は10.5兆円とされていたが、実際はそこから1.1兆円減の9.4兆円にとどまった。

2014年の消費増税に伴い家計部門に8兆円以上の負担増がのしかかったにもかかわらず、年金給付の特例水準の引き下げやマクロ経済スライド実施、経済好転による失業給付の減少等により、社会保障給付費は見通しより4.9兆円も下振れていることになる。

消費を抑制するシニア世代と若年層

ということは、特に社会保障給付の減少分は主に給付を受ける中心となるシニア世代の懐に大きな影響を及ぼしていることになる。そして、シニア世代を中心とした家計の可処分所得が減れば、個人消費も減ってしまう。個人消費はGDP最大の需要項目であるため、このように個人消費が抑制された状況が続くことは、経済成長の大きな障害となる。

一方、米国では2009年の研究で、高校や大学を卒業してしばらくの間に不況を経験するかどうかが、その世代の価値観に大きな影響を与えることが明らかにされている。これが日本にも当てはまると考えるのが自然だろう。

実際、各世代別の消費性向を比較すると、若い世代ほど消費性向が低くなる傾向が見て取れる。若年層ほど財布の紐が固いため、将来に亘って現役世代の消費は抑制され、今後は厳しい消費環境が予想される。

これ以上国内消費市場が縮小するとなれば、企業はこれまで以上に海外で収益機会を求める必要に迫られるだろう。これは我々の子どもや孫たちの国内での雇用機会が失われることを意味することにもなりかねない。

特に40代前半以下の世代は、バブル期における大量の新卒採用後の企業業績の悪化により、就職氷河期で厳しい雇用情勢を経験した。日本では正社員を解雇しにくいという特有の雇用慣行がある。経営が安定している大手企業に一旦正社員で就職すれば、後の世代にしわ寄せが行くという教訓が得られた。

この世代は「ロストジェネレーション」と呼ばれ、保守的な傾向が強く、消費性向が低い特徴がある。そして、今日に至るまで、景気が悪くなるたびに企業の新卒採用計画は縮小を繰り返してきた。

多かれ少なかれ、今後の日本経済を担う30代以下の世代が、たとえ無意識にでもお金を使わないほう、使わないほうへ流れがちなのはこのためである。物心付いてからずっと平成不況だったことから、経済環境がこの世代の価値観に何らかの影響を及ぼしていると思われる。染み付いた価値観は簡単には替えられない、ということだろう。

このことを考えれば、失われた20年を経験した我が国の個人消費は、当面厳しい状況が続くことを覚悟しなければならないだろう。

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永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。