「真面目な人」ほどターゲットにされる!
マナーやルールを守らない人や、他人を押しのけ、人を陥れて利益を得ようとする人……世の中にはこうした、できれば関わりたくない人がいる。そのせいで、割を食っていると思うことがあるのではないだろうか。実は、そんな「他人を陥れる人」「狡猾な人」の影響を受けやすい人には特徴があるという。どうすればこうした人をうまく遠ざけることができるのか、人気カウンセラーの大嶋信頼氏にうかがった。(取材・構成=林加愛、写真撮影まるやゆういち)
足を引っ張るのは嫉妬しているから
同僚や部下の手柄を奪う人、足を引っ張る人、狡猾な手段を使って人を出し抜こうとする人……。ビジネスの場面では、しばしばそんな「ずるい人」や「人を陥れようとする人」に遭遇する機会がしばしばあります。
そこまでひどい例ではなくても、威圧的な上司、自分にだけ冷淡な同僚、欠点ばかりあげつらう先輩などに対して、「なぜ?」と戸惑ったことはありませんか? そうした理不尽な人物もまた、あまり周囲にいてほしくはないタイプですよね。
実は、こういったなるべくなら関わりたくないようなタイプの人たちは、「嫉妬」という感情に駆られています。ここで言う嫉妬とは、「自分が得るべきはずのものを奪われそう」という苛立ちです。
動物界では、弱ったひな鳥を残りの兄弟たちが攻撃してつつき殺してしまう、といったことが起こります。現象としては「弱い個体の淘汰」ですが、同時にひな鳥たちは、母鳥の庇護を受け、多くの餌を与えられそうな固体に対する嫉妬に駆られているのです。これと同じ心理が、人間同士の間にも起こります。
嫉妬は発作のようなものです。いったん駆られてしまうと、本人は感情をコントロールできません。特定の部下を執拗に叱責したり非難したりする上司の振る舞いも、そうした暴力的な発作なのです。
この発作は、「共振」する性質も持っています。苛立った上司と接していると、部下も理性が働かなくなります。頭が真っ白になり、さらにミスをしてしまう――といったことが続いている人は、間違いなく「相手の嫉妬の発作の影響下にある」と考えてよいでしょう。
嫉妬しやすい人とされやすい人の違い
この話に「覚えがある」と思いつつも、「まさか、自分が嫉妬されるなんて」「自分は妬まれるような長所などない」と考えた人もいるでしょう。
実は、そんなふうに考えること自体が、嫉妬を煽りやすい性質なのです。
嫉妬されやすい人は、自分を実際より「劣っている」と考えがちです。真面目で謙虚で、もっと自分を高めなくては、と常に努力するタイプです。
逆に、嫉妬するタイプの人は、自分を実際より「優れている」とみなす傾向があります。自分は評価されて当然だと思っているので、賞賛や評価や関心などを「奪われたくない」思いが強くなります。
そんな嫉妬体質の人物にとって、謙虚な性格の持ち主は「自分よりも周囲から優しくされやすい人」、つまり脅威になります。自分のほうが優れているはずなのに――と思うと我慢ならず、何かしら口実を見つけて攻撃します。
当然、攻撃された側は戸惑います。自分を低く見ているので、まさか自分が相手の脅威になっているとは思いません。相手の気持ちを色々と推し量り、「自分に悪いところがあるなら直さなくては」と努力します。結果、その謙虚さがますます相手の嫉妬心を煽る、という悪循環に陥ります。
目をつけられやすいタイプの特徴とは?
嫉妬されやすい人の中には、厳しい親のもと、「いい子」として育ってきた人が多く見られます。頑張ろう、叱られないようにしよう、と努力する「いい子」は、裏を返せば「今の自分ではダメだ」と考える、自己肯定感の低いタイプです。
その性格を育てた親の厳しさ――これもまた、種を明かせば「嫉妬」なのです。
親は子供に愛情を持つ一方で、自分よりも幼く弱い子供=「下に見ている」存在に対して苛立ちを起こしやすいのです。容姿や能力が優れていればもちろんのこと、配偶者の愛情を奪う可能性もある脅威として、「しつけ」という名で嫉妬の発作をぶつけることが多々あります。
それに対して、「もっといい子にならなくては」と思っていた子供は、長じてから、嫉妬体質の人を引き寄せやすくなります。親からの攻撃を「愛情」だと錯覚してきたため、「攻撃されても当然だ」と考える、ひどい場合は「攻撃されることが必要だ」と思ってしまうケースも。
こうなると攻撃側の思うつぼ、格好の餌食になります。謙虚さにつけこんで、発作的な苛立ちを解消しようとする衝動もさらに加速します。
残念ながら、そうした人はどこにでも存在します。自分を優れた者と誤認して人を攻撃する性質も、生来のものなので直せません。こちらが自衛策を講じるしかないのです。
ちなみに、「ときどき人に嫉妬してしまう私は、もしかしてこういう人の仲間?」と心配した方、それは杞憂です。そんな風に心配する段階で、違うと言えるからです。
この場合の嫉妬は、先に述べた「共振」のせい。その相手から受けている嫉妬が伝染しているだけです。自分こそ嫉妬される側だ、と考えるのが正解です。
「正しいか否か」より「快・不快」が重要
この考え方こそが、自衛策のヒントです。そのような謙虚さ・真面目さ・高潔さを、捨ててしまえばいいのです。
相手は自分に嫉妬しているだけだ、自分のほうが上だ、相手がバカなのだ――と笑い飛ばすのが一番です。
「自分が上と言える根拠は?」などと考えてはいけません。理由など度外視し、「とにかくあっちが悪い」と思える不真面目さを持ちましょう。
これは「感覚で生きる」ということでもあります。正しいか否かではなく、自分の快・不快だけに注目することです。
真面目な人には難しく見えますが、訓練によってすぐできるようになります。上の方法を習慣化すれば自己肯定感が上がり、「自分は劣っている」という誤認もリセットできます。
「真面目な人は損をする」前提のこの策に、抵抗を覚える人もいるでしょう。しかし、高潔な人が攻撃されやすいのは世の習い。ネットの発達によって誰もが発言権を持つ現代ならばなおさらです。現実を踏まえて身を処す知恵は、やはり不可欠です。
もちろん、一気に不真面目人間に変身する必要はありません。「~が正しい、~すべき」以外の選択肢もある、とまずは意識すること。その選択肢を採らなくても、頭に置いているだけで心の自由度は大違いです。
ほどよく力が抜けると、人に与える印象も変わります。ずるい人に目をつけられる危険も、確実に回避できるでしょう。
「人を陥れる人」から逃れる3つの習慣
1 「欲しいもの」をイメージする
真面目な人は、物欲に欠け過ぎる傾向がある。そこで効果的なのが、「欲しいもの」を考えるという方法だ。手に入れてみたい高価なもの(自動車、時計、大邸宅など)を頭の中でイメージしてみよう。買えるか否かに関わらず、ただ思い浮かべるだけでOK。ほどよく「俗っぽさ」が身につき、狡猾な人のアンテナに引っかからずに済む。
2 掃除や片づけをする
高潔な人は掃除や片づけが苦手、という不思議な特徴がある。これは「汚れたものを見たくない」「モノを易々と捨てられない」という心理が働くせいだ。そこでお勧めなのが掃除で、中でもトイレ掃除をすると、自分の汚い部分を受け容れることにつながり、自己肯定感が上がる。「嫉妬され体質」の改善と住環境改善が同時にできて一石二鳥。
3 「責任を取らない」と唱える
責任感が強すぎる人は、仕事量も人の嫉妬も膨張させている。「責任なんかとらなくていい!」と、心の中でしょっちゅう唱えてみよう。どんどん人に振っていい、時には押しつけたっていい、と図太い発想が湧いてくる。日常生活バージョンとして、電車の中で「席なんか譲らなくていい!」と唱えてみるのもお勧めだ。
大嶋信頼(おおしま・のぶより)
心理カウンセラー/〔株〕インサイト・カウンセリング代表取締役
米国・私立アズベリー大学心理学部心理学科卒業。アルコール依存症専門病院、周愛利田クリニックに勤務する傍ら東京都精神医学総合研究所の研修生として、また嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室非常勤職員として依存症に関する対応を学ぶ。嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室室長、㈱アイエフエフ代表取締役等を経て現職。ブリーフ・セラピーのFAP(Free from Anxiety Program)を開発した。『あなたを困らせる遺伝子をスイッチオフ!』 (SIBAA BOOKS)、『「いつも誰かに振り 回される」が一瞬で変わる方法』(すばる舎)など、著書多数。(『The 21 online』2018年4月号より)
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