ほんの少しの習慣で身も心も回復!

ストレス,有田秀穂
(画像=The 21 online)

仕事でストレスを抱えない人などいない。ストレスに負けない人とは、ストレスとの上手な付き合い方を知っている人だ。お金がなくとも、時間がなくとも、日々の過ごし方次第でストレスは大きく軽減されると、医学博士の有田秀穂氏は言う。そのカギは「脳内ホルモン」。ストレスに負けない健康習慣についてうかがった。

朝のセロトニン、夜のオキシトシン

「ストレスに負けない生活習慣」をひと言で言い表わすなら「朝のセロトニン、夜のオキシトシン」。どちらも脳内で分泌される物質(脳内物質)で、これらを上手にコントロールすることで、心身ともに健康な毎日を送ることができるのです。

では、これらの脳内物質がストレスとどう関係があるのか。まずは「ストレスとは何か」について説明します。

脳がストレスを感じると、二つの反応が起きます。一つは、即座に反応する仕組み。脳幹に備わっている「ノルアドレナリン神経」が働き、交感神経が高まります。強い覚醒状況となり、血圧が上がり、パニック・不快・不安感などを感じます。

ストレスが長く続くと脳がフリーズする!

この初期反応は誰にでも起き、見た目にもわかりやすいものです。よりやっかいなのは二つ目のストレス反応です。

長くストレス下にさらされると、脳はフリーズし、ストレスに対し無駄な抵抗をしなくなります。ただ、表面的には何も感じていないようで、実際には視床下部にある「ストレス中枢」が興奮し始め、脳の下垂体を介して副腎皮質という部分からストレスホルモン、別名「コルチゾール」を分泌させます。コルチゾールは、免疫力の低下やストレス性の高血圧・肥満・糖尿病を引き起こし、ついにはうつ病を発症することがわかっています。

この一連の流れを「視床下部下垂体副腎系」と呼びます。これこそが、健康に害をなすストレスなのです。

「セロトニン」が「元気」を作り出す

では、ストレス中枢をなだめ、コルチゾールを体内に放出させないためには、どうしたらいいのか。それこそが前述の「セロトニン」「オキシトシン」を活発に分泌させることなのです。

まず、「幸せホルモン」といわれる「セロトニン」について。セロトニンは、身体にさまざまな良い作用をもたらします。

まず「目覚めの良さ」、そして「ポジティブな気分」、さらには「血圧や体温を最適に調整する」「慢性的な痛みを感じさせない」など、いわば〝元気〟な状態を作り出します。

寝付けないのはストレスのせいかも?

一方、「オキシトシン」は別名「母性のホルモン」と呼ばれ、かつては女性の出産・授乳時にのみ分泌されると考えられていました。けれども近年の研究で、ほ乳類はすべてオキシトシンが体内で合成されているということが解明されたのです。

オキシトシンが分泌されると、ストレス中枢の興奮を鎮めてくれます。その結果、脳が癒されリラックスした状態を作り出し、心地良い眠りに導くのです。

眠りとストレスは密接に結びついています。ストレスを溜め込むと、寝つきづらく浅い眠りになります。加齢により熟睡度が低下するのは事実ですが、40代くらいまでは本来、まだまだぐっすりと眠れる年代。もし、深夜2時~3時になっても寝つけないようであれば、ストレスを溜め込んでいる可能性があります。

早起きしてウォーキング、そして夜は一杯引っかける

セロトニンを活性化させるには、「朝の過ごし方」がポイント。セロトニンは太陽光を浴びると分泌されるので、朝、カーテンを開けてなるべく太陽光を浴びるようにしましょう。

さらにお勧めなのは、朝のウォーキング。太陽光を浴びることができるのはもちろん、ウォーキングのようなリズミカルな運動は、セロトニンを分泌する細胞を活性化させるのです。

こうして1日をスタートしても、夕方には元気がなくなってきます。そこで出番となるのがオキシトシンです。オキシトシンは「グルーミング」行為により分泌されます。グルーミングとは動物の「毛づくろい」を指し、人間で言えば、おしゃべりや心地良いスキンシップがそれに当たります。

ですので、仕事後に仲間と「赤提灯」で一杯引っかけることは、ストレスを溜めないためには大正解。それも難しい議論ではなく、仕事のグチなど気楽な話題のほうがいい。肩と肩とが触れ合うほどの距離感で、心地良いおしゃべりをする。これこそオキシトシンを分泌させる最高のシチュエーションです。飲むのは別にお酒である必要はありません。

家でもなるべく家族との触れ合いを増やしましょう。ペットを飼うのもお勧めです。

また、マッサージやリフレクソロジーは、まさにグルーミング。最近、こうした店が増えているのは、ストレス社会の表われなのかもしれません。

SNSの交流だけでは「オキシトシン」は分泌されない

このように、オキシトシンは人との交流や接触で分泌されます。ただ、注意していただきたいのは、「デジタル上のみでのやりとりでは、オキシトシンは分泌されない」こと。

つまりメールやLINEによるやりとりをいくら頻繁に行なったところで、オキシトシンは分泌されないのです。電話であれば、グルーミング効果は得られます。

デジタル機器に依存しすぎる生活はストレスの元凶です。指先一つ動かせばあらゆる情報が入ってくるため、脳だけが長時間にわたって酷使されます。こうしたデジタルな疲労は、睡眠を妨げる原因に。

SNSでの交流を楽しむ人も多いですが、オキシトシンの分泌に繋がらないうえ、別の問題もあります。たとえば、アップした記事や写真に「いいね!」などの反応をもらうことで、脳内には「ドーパミン」が放出されます。これは快感を得られるホルモンであり、ストレス中枢をなだめる効果があります。

ただ一方で、「いいね!」がつかないと、それによって落ち込み、むしろストレスを増やしてしまう人が多いのです。

せめて夕食後はスマホやパソコンを見ない生活を

脳をデジタル疲労させないためには、まずベッドにスマホを持ち込まないことです。スマホの画面から発せられるブルーライトを浴びると、眠りへといざなうメラトニンというホルモン(日没以後に合成されます)が壊されるという問題もあります。

せめて、「夕食後はパソコンやスマホを見ない」とするだけでも、効果は大きいと思います。

朝はセロトニンを意識し、夜はオキシトシン分泌に励む。そして寝る間際の「デジタル断ち」。これを習慣づけることで、ストレスに負けない健全な心身を保てるでしょう。

有田秀穂(ありた・ひでほ)医学博士
1948年、東京生まれ。セロトニンDojo代表。東京大学医学部卒業、医師免許取得。東海大学病院、米国ニューヨーク州立大学留学などを経て、東邦大学医学部統合生理学にて、坐禅とセロトニン神経・前頭前野について研究。同大学にて教授を務めたのち、名誉教授に。『脳からストレスを消す技術』 (サンマーク出版)ほか著書多数。(取材・構成:西澤まどか)(『The 21 online』2018年2月号より)http://shuchi.php.co.jp/the21/

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