人は「秘密」に弱いもの
「知的でわかりやすい説明には型がある」と主張する、元予備校人気講師の犬塚壮志氏。中でも冒頭のつかみで大事なのが、相手の好奇心を刺激することだという。だが、それは簡単なことではない。いったい、どうすればいいのだろうか。
相手を食いつかせる2つの方法
「わかりやすい説明」のためには、人に興味を持ってもらうことが大事。とはいえ、「好奇心なんて簡単に刺激できないよ」―─こう思う方もいるかもしれませんね。確かに、慣れないうちは好奇心を意図的に刺激することにハードルを感じるかもしれません。でも、あるんです、誰でもすぐに好奇心を刺激できるとっておきの方法が……。
その方法とは、「とりあえずこう話しておけば、相手はノッてくれる」という、説明下手だった私の鉄板のノウハウです。それが次の2つです。
1 一文に〝矛盾〟を入れる
2 〝秘密〟を醸し出す
「一文に〝矛盾〟を入れる」というのは、たとえば「世界最弱のライオンとは?」のように「弱い」と「ライオン」という相反するイメージの言葉を同時に入れるのです。
「〝秘密〟を醸し出す」というのは、あなたの説明する内容がこれまでオープンになっていないということを匂わすのです。
この2つのどちらかを使うだけで十中八九、相手は食いついてきます。
ただ、これだけではよくわからないと思いますので、具体例も交えて1つずつ詳しく解説していきますね。
まずは1の「一文に〝矛盾〟を入れる」からいきましょう。
人は「矛盾」に驚く
「そういえばさ、……あっ、やっぱいいや」―─友人からこんなふうに言われたことはありませんか? そのときって、なんかモヤモヤして、話の続きが気になったりしませんか?「なんだよ。最後まで言えよ!」みたいな。
この「一文に〝矛盾〟を入れる」というのは、相手のそのモヤモヤ感を利用したものなのです。
人は、矛盾が出てきたときになんだか気になってしまう、そのモヤモヤした不快感をどうにか解決したい――そう思ってしまう生き物なのです(これを認知不協和といいます)。これを利用すると、多かれ少なかれ相手の頭の中に「?」を入れることができます。それで相手の興味をひくのです。
たとえば、次のようなフレーズです。
「健康にいい毒があるって知ってた?」
「燃える氷って知ってる?」
「ポイ捨てOKなペットボトルがあるんだよね」
つまり、「ちょっと変だぞ」と意図的に違和感を感じさせるのです。
これは「毒は体に悪いもの」「氷は燃えない」「ペットボトルのポイ捨てはダメ」など、そもそも相手がもっているであろう認識を利用しているのです。その逆をあえて衝いているテクニックなのです。
こうやって、1つの文に、対義的なワードやフレーズを意図的に入れるのです。
提示したモヤモヤは必ず「解消」してあげよう
そのワードは、極端かつ相手のイメージとかけ離れていればいるほど効果的です。
ちなみに、「健康にいい毒」というのは毒物と毒薬の違いを、「燃える氷」はメタンハイドレートを、「ポイ捨てOKのペットボトル」は生分解性プラスチックをそれぞれ説明するときのフレーズです。このように、一見矛盾しているように思えることをワンフレーズ、ないしはワンセンテンスに入れるのです。
ただ、ここで気をつけなければならないのが、矛盾を提示して相手にモヤモヤ感を起こさせた場合、必ずそれを解消する説明をあとに続けることです。なぜなら、相手がモヤモヤした状態のままだと、頭の中に生まれた「?」がいつまでも消えず、それが逆にノイズとしてずっと残ってしまうからです。結果的に、そのあとのあなたの説明の妨げになってしまうのです。ですので、矛盾を表現したあとは、その矛盾を解消するための説明をセットで話すようにしてくださいね。
人は「変化する」ものに興味を奪われる
ちなみに、これは化学という科目の特性かもしれませんが、説明力アップのヒントになるかもしれませんので、念のためにお話ししておきます。
それは、人は変化するものに対して面白いと感じる生き物ということです。この変化を、説明の中で意図的にアピールするのです。
私も講義で何度か化学実験を見せたことがありますが、目に見える大きな変化があった瞬間、生徒の目つきが変わるのです。瞳孔がパッと開いて、目がキラキラするのです。
たとえば、こんな化学実験をしたことがあります。
お米などに含まれているデンプンを水に溶かします。そのデンプンが溶け込んだ液体(透明)を三角フラスコに入れ、そこにイソジンのうがい薬(茶色)を入れます。その瞬間に一気に液体は青紫色になります。
さらに、その水面にマッチをかざし、マッチから出てきた煙を三角フラスコの空いたスペースに溜めます。
そして、煙が溜まってきたところで手で蓋をし、大きく2、3回三角フラスコをシェイクします。
そうすると、液体が一瞬にして無色透明に戻るのです。このように、相手がほとんど想定できない変化を見せたり話したりすることで、意外性を演出でき、相手の好奇心を刺激することができるのです。
液体が無色透明に戻るメカニズム
なお、この実験結果にモヤモヤ感を感じた方もいるかもしれませんので、この実験のメカニズムを簡潔に説明しておきますね。
興味がない方は読み飛ばしていただいても差し支えありません。
まず、デンプンの溶けた水にイソジンのうがい薬を入れて色が変わるメカニズムは、小学生のときに理科の実験でやるジャガイモとヨウ素液の反応とまったく同じです。
ジャガイモに含まれているデンプンとヨウ素がくっついて青紫色になるのですが、実はイソジンのうがい薬にはヨウ素が溶け込んでいるので、デンプンの溶けた水の色が変わるのです。
さらに、マッチを燃やすと二酸化硫黄という気体が発生します。これがデンプンとくっついているヨウ素と反応して、ヨウ素がなくなってしまうので色が消えてしまうというしくみです。
「誰にも言ってないんだけど……」はキラーワード
続いて、相手を食いつかせる2つ目の方法、「〝秘密〟を醸し出す」についてお話ししていきます。
「これまでずっと言わないようにしていたんだけど……」
こう言われたら、そのあとの話がどんな内容なのか気になってしまいませんか?
これは、その内容(情報)の稀少性を演出して期待感を高めているのです。〝秘密〟という稀少性のアピールで、必ず相手は耳を傾けます。
アメリカの社会心理学者であるロバート・B・チャルディーニの名著『影響力の武器』(社会行動研究会訳 誠信書房)にも、「手に入りにくくなるとその機会がより貴重に思えてくる」といったことが述べられています。
つまり、〝秘密〟の演出というのは、その話の内容が手に入りにくいということをアピールしているのです。そして、誰でも「秘密を暴きたい」という気持ちがあるものです。
人は秘密を知りたい生き物なのです。その内容の稀少性を伝えるだけでワクワク感が生まれます。
「興味をひく」という目的においては、自分(話し手)が秘密をもっているということを匂わせるくらいがちょうどいいでしょう。
ですので、少し直接的に聴こえるかもしれませんが、次のようなフレーズを前置きに入れて説明を始めるのがいいかと思います。
「これまで誰にも話したことがないネタなんだけど……」
こういったフレーズを用いることで、相手は「あれ? もしかして、秘密のことが聴けるのかな?」―─そう思ってくれます。言葉には出さなくても、表情には確実に出ますね。
他にもさまざまな型があり、それについては著書『頭のいい説明は型で決まる』にて紹介しています。ぜひ、多くの型を身につけることで、わかりやすく伝える力を手にしていただければと思います。
犬塚壮志(いぬつか・まさし)
ビジネスセミナー専門のバリュークリエイター/(株)士教育代表取締役
福岡県久留米市出身。元駿台予備学校化学科講師。一般社団法人人工知能学会会員。
大学在学中から受験指導に従事し、業界最難関といわれている駿台予備学校の採用試験に25才の若さで合格(当時、最年少)。駿台予備校時代に開発した講座は、開講初年度で申込当日に即日満員御礼となり、キャンセル待ちがでるほどの大盛況ぶり。その講座は3,000人以上を動員する超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる(映像講義除く)。さらに大学受験予備校業界でトップクラスのクオリティを誇る同校の講義用テキストや模試の執筆、カリキュラム作成にも携わる。「教育業界における価値創造こそがこれからの日本を元気にする」をモットーとし、2017年に講師自身の“コア・コンピテンシー"を最大限に生かした社会人向けビジネスセミナーの開発や講座デザイン、テキスト作成などを請け負う日本初の事業を興す。タレント性が極めて強い予備校講師時代の経験を生かし、パーソナルブランディングなど価値創造を重視した教育プログラムをビジネスマンや経営者に向け実践中。その傍ら,教える人がもっと活躍できるような世の中を創るべく、現在は東京大学大学院で学習をテーマとした研究を行う。主な著書に『定期テスト対策 化学基礎の点数が面白いほどとれる本』(KADOKAWA)、『国公立標準問題集CanPass 化学基礎+化学』(駿台文庫)などがある。(『The 21 online』2018年05月25日 公開)
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