数字に興味を持てば、新しい世界が一気に広がる!

数に強い,永野裕之
(画像=The 21 online)

「数字に強い人が成功する」「ビジネスマンは数字力を磨くべき」などとよく言われるが、そもそも「数に強い」とはどういうことなのか、きちんと理解している人は少数派かもしれない。東大、JAXAを経て人気数学塾塾長を務める永野裕之氏によれば、「数に強い人」には3つの条件があるという。近著『数に強くなる本』を発刊した永野氏に、その3つの条件をうかがった。

「数に強い人」の3つの条件とは?

そもそも、数字が苦手な原因はなんでしょうか?

計算が苦手だからでしょうか?

学生時代に数学が苦手だったからでしょうか?

しかし、計算力を高めたり、数学を学び直したりするのは時間も労力もかかります。今更そんな勉強したくないというのが、多くのビジネスパーソンの本音ではないでしょうか?

安心してください。

仕事や生活の上で数字に強くなるためには、高い計算力は必要ありません。また、数学ができるかどうかも関係ありません。 

最初に私の考える「数に強い人」の条件を挙げておきます。この3つの条件を満たすことができれば、誰でも自他共に認める「数に強い人=数字を言葉のように扱える人」になれます。

(1)数字を比べることができる
(2)数字を作ることができる
(3)数字の意味を知っている

数字を比べることができる――現金割引とポイント還元はどっちがお得?

先日、友人とこんな会話がありました。

「永野、ちょっと聞きたいんだけれど、家電量販店ってさ、現金割引の店とポイント還元の店があるじゃん? あれってどちらの方が得なの?」

「同じ率なら現金割引の方が得だよ」

「そうなの? なんで?」

「たとえば定価1万円の商品を買いたい場合、Aという店では20%割引で、Bという店では20%ポイント還元だとしよう。A店では1万円の20%割引だから、2000円安く買えるよね?」

「そうだね」

「一方のB店では1万円を払って、20%のポイント還元だから、2000円分のポイントが付くね」

「うん。でも、だったら、得をするのはどちらも2000円で同じじゃない?」

「いや、そう思ってしまいがちだけれど、割引率を考えたら実は同じじゃないんだ」

「どういうこと?」

「B店では、1万円の商品と2000円分のポイントを手に入れたわけだから、1万2000円分の『価値』を1万円で買ったことになるでしょう? だとすると、1万2000円に対して、2000円の割引をしてくれることになるから、B店の割引率は……17%ぐらいにしかならないんだ」

「えっ? それはどういう計算?」

「2000円÷1万2000円だよ」

「計算早いね」

「約分すると、1/6だからね」

「ふ?ん……A店は20%割引だから、A店の方が得ってことか!」

言わずもがなですが、数字は非常に強い説得力を持っています。だからこそ私の友人も20%現金割引と20%ポイント還元の違いが気になったのでしょう。

ではなぜ数字には強いメッセージ力があるのでしょうか? それは、数字を使えば厳密に比べることができるからです。自宅の床面積、道路を走る乗用車の速さ、体重等々、雰囲気や印象ではほとんど違いがわからない場合でも、数字はその僅かな違いを教えてくれます。

ただし、数字を正しく比べるためには、割合や比、分数についての理解が必要不可欠です。

数字を作ることができる――質的パラメータも数値化できる

新商品の名前を会議によって決めなければいけない場面を想像してください。会議には6人の社員が出席しています。名前は公募によって集まった10個の候補の中から選ぶとしましょう。

こんなとき単なる多数決を取るだけでは6人がそれぞれ、別々の候補に投票する可能性があり、そうなるとひとつに決めることができません。またそこまでバラバラにはならなくても、3票ずつ2つに分かれてしまうこともあるでしょう。

そこでお勧めなのは、良いと思う順に1?3位を決めてもらい、1位には3点、2位には2点、3位には1点のように点数を付与して集計する方法です(このような意見の集約方法をボルダルールといいます)。こうすれば、票が割れて同点になるケースはほとんどありませんし、多くの人が3位以内にランキングした万人向けの候補に決まる可能性が高くなります。

「数字を作る」とは要するにこういうことです。他にも、アルバイトを雇うとき、経験者が1人で行うには100日かかる仕事があるならば、経験者には1、未経験者には(たとえば)0・8を付与して数値化することで、のべ60人の経験者と、のべ50人の未経験者が必要だなどと計算することもできます。

つまり、「数字を作ることができる」というのは、気持ちの強さとか仕事の熟練度などの質的パラメータも数値化して量的パラメータにすることができる上に、対象がもともと持っている数字を漏らさず見つけられる能力です。

このようにすれば、世の中のありとあらゆることは数値化できると言っても過言ではありません(そうすることの是非はまた別の問題です)。

数字の意味を知っている――ベトナムの400ドルの価値とは?

私は以前、数学塾の塾長と指揮者の卵という二足のわらじを履いていました。その頃、誰よりもお世話になったのは現在ベトナム国立交響楽団(VNSO)の音楽監督兼首席指揮者でいらっしゃる本名徹次さんです。その本名さんが先日「ベトナムのオーケストラと恋に落ちた日本人指揮者の16年間」と題されたYahoo!ニュースの特集で取り上げられました。

ベトナムのオーケストラと恋に落ちた日本人指揮者の16年間
https://news.yahoo.co.jp/feature/770

記事は本名さんがどれほどこのオーケストラのために尽力され、深い愛情でVNSOを育ててきたかを丁寧な筆致で綴ったものでしたが、その中に本名さんが音楽監督として得ている収入は月給400ドルだという記述がありました。

本名さんは、東京国際音楽コンクール最高位、ブダペスト国際指揮者コンクール第1位等の輝かしいコンクール歴を誇り、日本国内の主要オーケストラのほか、ヨーロッパの名門オーケストラにもたびたび客演されています。

その本名さんの月給が400ドルなんてあまりに安すぎるのは間違いありません。しかし、400ドルという数字を単純に「400ドル≒4万5000円」と日本円に換算して、日本国内の物価や賃金で測っていいものでしょうか? 気になった私は、ベトナムの経済事情を少し調べてみました。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が発表している投資コスト比較によると、VNSOが本拠を置くハノイの法定最低賃金は月給169ドル。また製造業のエンジニア(中堅技術者)の月給は424ドルとあります。

もちろん、国際的なキャリアを誇る本名さんが月給400ドルで音楽監督を引き受けていらっしゃることは、本名さんご自身の音楽と人間に対する深い愛情があるからこそ、そしてベトナムのオーケストラの音と人間に惚れ込み、報酬や待遇に関係なく楽団員を家族のように愛されているからこそ実現しているわけです。そんな本名さんには尊敬の念しかありません。

ただ一方で、ベトナム国内の賃金についての知識を得れば、400ドルという数字の意味を立体的に捉えることができるようになるのもまた事実です。

知識とは「焚き火」のようなもの!?

数字に限らず、人は意味のわからないものは嫌いです。逆に意味のわかるものには自然と興味を惹かれるものでしょう。数字アレルギーの人が数字を嫌うのは、そもそも数字の意味がわからないからではないでしょうか?

知識は焚き火に似ていると私は常々思っています。

キャンプファイヤーをやるとき、最初の火を起こすのは少々骨が折れますが、一度火がついてしまえばその火を大きくしていくのはそう難しいことではありません。数字の知識も同じです。いろいろな分野について「火種」になり得る基本の数字を知識として持っていれば、数字の知識がどんどん広がります。そうなれば数字に興味を持つことができて、数字が言葉よりも雄弁に語りかけてくるメッセージを受け取れるようになります。

もちろん、そうした数字の知識は数字を比べようとする際にも欠かせません。

「数に強い人」は、自分の専門分野はもちろん、専門外のさまざまな分野についても基本となる数字の意味を知っているものです。

(出典:『東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本』

永野裕之(ながの・ひろゆき)「永野数学塾」塾長
1974年、東京生まれ。暁星高等学校を経て東京大学理学部地球惑星物理学科卒。同大学院宇宙科学研究所(現JAXA)中退。レストラン経営、ウィーン国立音大への留学を経て、現在は個別指導塾・永野数学塾(大人の数学塾)の塾長を務める。これまでにNHK、日本経済新聞、プレジデント、プレジデントファミリー他、テレビ・ビジネス誌などから多数の取材を受け、週刊東洋経済では「数学に強い塾」として全国3校掲載の1つに選ばれた。プロの指揮者でもある(元東邦音楽大学講師)。著書に『東大教授の父が教えてくれた頭がよくなる勉強法』『数に強くなる本』(PHPエディターズ・グループ)、『大人のための数学勉強法』(ダイヤモンド社)など多数。(『The 21 online』2018年05月28日 公開)

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